一昔前はカメラマンというのは非常に特殊な職業で、専門学校やスタジオで修行した人のことを指すものでした。
フィルムからデジタルに移行した後も、機材や編集用のソフトが高価であったり、操作に専門性を要したりと、新たにカメラマンとして参入するための障壁は大きなものだったんです。
時が経ち、機材はより高性能で扱いやすく、ソフトはより直感的に操作できるようにと、ユーザーに専門知識がなくても扱えるようになってきました。
また、価格も安価に。実際の機材に触れてみると、比較的安い価格帯のものでもクオリティの高いものが納品できるようになっています。メーカーの人の力すごい!
さて、こんな技術革新とも呼べるような進化により、カメラマン、という職業の様相も変わってきました。
10年ほど前と違い、カメラマン、と検索すると依頼できる人材が多くなってきたんです。
そのため、平均的な撮影費も下がり、代理店や制作会社でなくても撮影依頼をすることが多くなってきました。
そこで、広告制作で写真撮影をお願いしたいけれど、誰にどのようにお願いすればいいのか分からない、という撮影依頼初心者の方に、私たちが撮影依頼するときに注意していることをお教えします。
費用感を圧縮した広告制作をしたい、会社のイベントの記録にカメラマンを手配したい、という人は参考にしてみてくださいね。
撮影依頼の相談時にはサンプルをつけるといい
例えば会社案内などのパンフレットの撮影であれば、オフィス内に簡易スタジオを設置したりと大がかりなものとなるときもあります。
そんなときは、たくさんの機材を使用します。例えば、
- モノブロックストロボ×2
- アンブレラ×2
- ソフトボックス×2
- レフ板×2
- 背景布(縦横3m)×1
- 背景布用スタンド×1
- カメラ本体×2
- レンズ×3
- 三脚×1
- ストロボ用スタンド×2
など。
電源が確保できるかどうかでストロボ用のバッテリーの有無、延長コードの有無、など、これでも基本的なセットに過ぎません。
こうなると一般乗用車の後部座席とトランクがいっぱい、なんてことにも。
そのため、機材が重い! 手持ちではなかなか…。
なにかと荷物の多いカメラマン、多くの方が車で移動しています。
余談ではありますが、もしも駐車場をお持ちであれば、依頼時に車が止められることも伝えてあげましょう。
ほとんどの方が喜んでくれるはずです。
さて、機材が多いということを分かっていただけたと思いますが、ここで必要となってくるのが、サンプルです。
実際のところ、上記の機材で撮影できるものは、特定のイメージの写真だけ。あなたが必要な写真には他の機材が必要、ということも多々あります。
基本の機材が多ければ余計な機材は持ってこれません。
そのため、急にこういうのが撮りたい、と言われても足りない機材があるので対応できないということにつながります。
このような事態を避けるため、撮影サンプルを事前に渡しておきましょう。
自分で似ているイメージをWEBなどで調べ、メールなどで依頼をする際にサンプル画像を添付し「こんな感じで撮りたいんですが…」と添えるだけなので楽ちん。
ただし、この画像の構図で撮影したい、と書くと全く同じものにしようと機材のレンタルやスタジオの手配などをすることになり、見積もりが高くなることも。
「オフィスを撮影場所に、あくまでイメージですが添付のような光の感じにしたい」というように、ざっくりとしたイメージであることを伝えましょう。
撮影機材のほんとどは光のコントロールを可能にしてくれます。
3次元のものを2次元で無理矢理表現している写真は、口元の影1つで印象が大きく異なります。
このサンプルの有り無しで、より高いクオリティの広告制作ができるでしょう。
撮影場所の確認もしておこう
私たちが制作の依頼を受け、撮影の必要があると判断した場合、最初に行うのはロケハンです。
多くの制作で費用の圧縮や現場の空気感を出すために、クライアントのオフィス内や周辺にて撮影を行います。
言わずもがな、前の章に例を出した機材は電源を必要とします。
そのため、撮影に使用するのが会議室であれば、電源はあるか、窓などから光を取り込む、また光を遮断できるか、など、撮影場所の状態を確認しなければ、カメラマンの方が持ってきた機材が使用できない、もしくは使用してもイメージ通りにならないなんてことも。
特に窓から太陽光が強く入ってくる場合、撮影時の邪魔になってしまうことがあります。
事前に分かっていれば光をさえぎる機材を用意できるので、当日になって困ってしまうということもありません。
また、オフィスの中で片付けを要する部分があれば、事前にお願いができるというのも大きな要素です。
オフィスを背景にしたときに気になるのが、社員の方の机や資料棚など。
いわゆるぼかしを効かせた写真にしたとしても、ペットボトルやポーチなど、色味の強いものなどは気になってしまいます。
執筆者も新人のころは背景に色味の強いアイテムを残したまま撮影して、先輩デザイナーにしこたま怒られるということがたびたび。
写真の中に存在するカラー(例えば黒いスーツを着た人であれば髪とスーツの黒、ワイシャツの白、肌の色、ネクタイの色など)のうち、存在感のあるものは、なるべく被写体と同じ焦点(簡単にいうとぼかしの効き具合)距離に合わせたい。
そのため、事前の確認・片付けが重要になります。
最後に確認するのは撮影場所です。
イメージも送って電源も用意できている、カメラマンも機材ばっちり、いざ撮影!
となったとき、イメージの背景とあまりにかけはなれた場所ではなかなか希望通りのものに仕上がりません。
参考とする写真の背景と似た場所があるか、ない場合はレンタルスタジオを用意できるか、確認しカメラマンの方に連絡しましょう。
メイクが必要である、スタジオが必要である場合、カメラマンの方で仲間内にメイクアップアーティストがいる場合や、懇意にしているスタジオなど用意できる場合があります。
価格も撮影費とグロスで少し安くすむ場合もあるので、必要と判断した場合相談してみましょう。
以上は基本です
ここまで解説したのは必要な準備の一部分に過ぎません。あくまで撮影依頼の基本。
どんな広告制作物でも、写真ほど印象を左右できるものはそうそうありません。
高いクオリティを求めている人ほど、事前の準備をしっかりと行いましょう。
分からない場合は、カメラマンに相談をするのも手です。
ただし、制作物のクオリティにあった撮影となると、カメラマンではなく編集者(ディレクター)を通した方が良い場合もあります。
総合的に考えて、より高いクオリティを求めるのであれば、制作会社に相談するのも良いでしょう。
余談
あくまで余談ですが、冒頭で書いた機材やソフトの低価格化により、どんなにしっかり事前準備をしても希望通りの写真を上げられない、というカメラマンの方もちらほらいらっしゃいます。
特に、と書くといろいろ言われてしまいそうですが、執筆者の失敗から学んでいただくならば某有名アプリケーションでそこそこフォロワー数のいる方に依頼をしたときです。
そのとき担当いただいたデザイナーの方からの紹介でお仕事をお願いしたんですが、事前に簡易スタジオが必要となるイメージを共有していましたが、当日カメラ1台のみの準備という状態に。
仕上がりも必要な要素が欠けており、なんとクライアント会社の写真好きの方が再撮影したものに差し替えということになりました。
決して一概にこう、とは言えませんが、なるべく安全に依頼をしたいということであればオススメは雑誌や紙媒体の撮影をしているカメラマンの方です。
雑誌や紙媒体の撮影時は、編集者の方がクオリティコントロールをするので、いろいろと要望を出すことが多くなります。
一方、先述のカメラマンは、自身のアカウントで公開している写真は、すべて自分が構図やコンセプト、被写体を決めて撮影していたもの。
誰かに指示されて、事前に決められた環境で撮影するのに慣れていなかったようです。
それらに対応するため、編集者などのいる環境で撮影を行っているカメラマンの方が、おしなべて高いクオリティを誇るのも事実。
広告制作で大切なのは、最高の1枚ではなく、高いレベルの数十枚の写真です。
まあ、ここは参考程度に留めておいていただければと思います。
それでは、良い広告制作ができることを願って! さようなら!