ドラマーがあえて叩かない空間を作ることでバンドの演奏をコントロールするジャズのテクニック

Relaxin` miles davis

ライヴ中に突然演奏をやめてしまうドラマーに遭遇したことありますか?

バンドでいい感じに演奏していたのに急に叩かなくなってしまうと、なんであの人叩かなくなっちゃったの? と見てるほうはソワソワしますし、その後どうなるのか見入ってしまいますね。

疲れたから休んでる? もしくは飽きちゃった?

一応ドラマーなりに理由があり叩かなくなることがあります。

今回は叩かなくなる理由と実際に叩かないことでバンド全体の演奏の雰囲気や構成をコントロールする手法を、実際の演奏を例にとってご紹介していきます。

叩きたくないわけじゃない

基本的に、ドラマーは曲が始まったら休む暇などありません。特にジャズのスタンダードナンバーはブレイクするようなアレンジもないのでずっと叩きっぱなしです。

フロントの人は自分のソロが終わった後に飲み物でも飲んでいたりすることもあり、横目で「羨ましい。。」と唾をのみながら演奏することもたまにあったりします(笑)。

1曲20分くらいの演奏をしていると(特にニューヨークのSmallsのセッションはフロントが吹きまくるので1曲が長い。。)疲れたしやってられるか! となって演奏をやめてしまうケースもあるにはありますが(私はやらないですよ)たいていの場合別の理由が考えられます。

シンプルな理由としてはバンドのダイナミクスのレンジを最小限に抑えるためにドラマーが文字どおり身を切っていなくなります。

そうなればベースとソリストだけでの演奏や、もしくはソリストだけでのソロとなりグルーヴは残したまま静かに音楽が進んでいきます。

ドラムの役割は基本的にリズムをプッシュする、演奏の雰囲気(カラー)を変える、盛り上げる、という役まわりなので音楽を優先して考えたときにバンド全体の演奏をあえて静かにしたい場面では、ドラムがいなくなるという選択肢はあってもいいでしょう。

戻った時の推進力

しかし、しばらくベースとソリストで演奏を進めているときに、途中からドラムが戻ってくるという構成も多々あります。

そうすると、それまでのバンド内のバランスが大きく変わり、すごい勢いで音楽が進み始めます。

そもそもドラムが持っているグルーヴの力はバンド内でも圧倒的に強い存在です。そのため、ドラムが演奏から一時的に抜ける、また復帰する、といった際には音楽に絶大なエネルギーを与えることができるのです。

このエネルギーを発散させる仕掛けを見越して、あえて演奏を控えるというのもドラマー独自の構成力です。

ちょっと予定調和になってしまいますが休んでからまた戻るときに大きいフィルインを入れると効果バツグンです。

ドラムを演奏する人はぜひ一度試してみてください。

そして、叩かない時間が長ければ長いほど効果は大きくなります。

実際どのようにすればいいのかはのちほど解説しますね。

演奏に復帰するときの難しさ

バンドの演奏に大きな影響を及ぼす“叩く” “叩かない”という選択肢ですが、休んだあとにまた叩き出すにもタイミングというものがあります。

いさぎよく叩くのをやめたのはいいものの、いつ戻ればいいのかわからない。。

ケンカした後に仲直りするタイミングがわからないくらい難しいです。

いいタイミングで出ていきたくとも「ここでいいのかな。。」と迷うことはドラマーにとってはアルアルです。

ベーシストとソリストがわかりやすく合図をくれればそれに乗っかりたいですが最終的には自分で判断をくださないといけないのでプレッシャーも感じます。

そんなときは偉大なドラマーの演奏を参考にしてみましょう。

フィリージョージョーンズ「Oleo」

created by Rinker
ユニバーサル

マイルスディビスのアルバム「Relaxin’」から”Oleo”を選曲しました。

ドラマーはフィリー・ジョー・ジョーンズです。

この曲の構成はAABAでB部分だけドラムが演奏しています(こちらはフィリーの意志というよりもバンドリーダーのマイルスの指示でそうなっていると思いますが)。

B部分はブリッジがリズミカルに強調されてサビの部分がくっきり見えてきますね。

トランペットソロが終わった後のテナーのコルトレーンの2コーラス目に入る手前(2分25秒あたり)からドラムフィルでサックスをあおり2コーラス目頭にバンド全員で入ってこられるように誘導しています。

いさぎいいのでドラムが入ってきた瞬間の爽快感とバンドがギュッとまとまって進みだす感じが最高です。これがさきほど解説したドラムが戻ったときに出る推進力ですね。

2コーラス目の頭だけではなくさらにダメ押しでグルーヴにフィルインを混ぜながらサックスを煽りに煽りまくって3小節目くらいからやっと4ビートに戻ります。

スタジオ盤のCDではドラムが途中で抜けることが少なく、当時このアルバムが出たときは衝撃的だったのではないかと思います。

セオリーだけじゃない。戻るギリギリまでソリストを聴く

また2コーラス目に“戻った”というところがポイントだと思います。

1コーラス目だと早すぎるし3コーラス目だと長すぎるんですよね。なのでフィリーが入ってきた2コーラス目に叩き出すというのは戻るときのセオリーだと思います。

惑わすようで申し訳ないですがそうじゃないときももちろんあります。

そのためドラマーの皆さんが演奏をやめて復活するときはソリストが何をやっているのか、ギリギリまで聞きましょう。また、この際にどこまで客観的に聞いていられるのかがポイントになってきます。

ドラマーは普段はどう叩くかしか考えませんから抜けることによって音楽のバランスを保つという考えを持つのはなかなか難しいのです。

これが考えられるようになると空間をコントロールできるいいドラマーになれるかもしれません。ジャズドラムは本当に奥が深いですね。



ABOUTこの記事をかいた人

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。