キャノンボールのサウンドを昇華させたビルエバンス「Know What I Mean?」

こんにちは、野澤です。個人的に秋が忙しくバタバタしていますがそうしているうちに一気に年末が見えてきました。。

今年もあっという間です。

前回に引き続きコラボシリーズ! 今回はピアニストのビル・エバンスとアルトサックスのキャノンボール・アダレイとのアルバムをピックアップしてみようと思います。

キャノンボール・アダレイ&ビル・エバンス「Know What I Mean?」(1962年)

パーソネル

  • キャノンボール・アダレイ(Alto Sax)
  • ビル・エバンス(Piano)
  • パーシー・ヒース(Bass)
  • コニー・ケイ(Drums)

アルバムトラック

  1. Waltz For Debby
  2. Good Bye
  3. Who Cares?(take5)
  4. Who Cares?(Take4)
  5. Venice
  6. Toy
  7. Elsa
  8. Nancy
  9. Know What I Mean?(Take7)
  10. Know What I Mean?(Take12)

アルバムタイトルは「Know What I Mean?」というタイトル。

日本語にすると「わかる?」という感じですがアメリカ人の口ぐせみたいなもので会話の中によく挟むのがこのフレーズになります。

割と相手に同意を求めるような時とき使うのでこのアルバム的には演奏内容に賛同してくれるよね? 的な意味合いが含まれているのかもしれません。

アルバムの中身はオルタネートテイク入れて合計10曲のアルバムです。

「Waltz For Debby」は言わずと知れたビル・エバンスの名曲で1956年に出されたエバンスのアルバム「New Jazz Conceptions」に収録されています。

ジャズファンなら知らない人はいないであろう名曲がキャノンボールとのコラボ作品でまた一味違ったアレンジで聴けます。

他の曲はジャズスタンダードとなる定番曲は少ないですがどれもジャズマニアが好みそうな曲が揃っています。

“Who Cares”は個人的にかなり好きな曲で、このアルバムを通じて自分のライヴでもよくやるレパートリーに取り上げるほど気に入っています。

頼れるリズムセクション

まずは気になるリズムセクションから。

ベースはパーシー・ヒースでドラムはコニー・ケイです。

これでピンとくる方はかなりのジャズファンですね。

そう、非常に高名なジャズバンド、MJQ(モダンジャズカルテット)のベーシストとドラマーです。

MJQのサウンドは聴きやすさもありディープなジャズサウンドも持っていてそのうちの2人、しかもリズムセクション丸ごとMJQという文句なしのキャスティングです。

パーシー・ヒースもコニー・ケイもシンプルでスムーズな演奏をするのでこのアルバムに相当マッチしています。

まずビル・バンスの繊細なプレイともかなり相性がいいですよね。ピアノのサウンドが他の楽器に消されないのでコードのサウンドもよく聞きとれますし高音でのフレーズもかなりリラックスしてすごく気持ちがいいです。

キャノンボールは渋くてアツくて男らしい音を奏でるプレイスタイルですが、このクールで洗練されたサウンドを持つピアノトリオをかけ合わせると意外と馴染んでかなり聴きやすくなっています。

むしろキャノンボールのサウンドがバンド全体をシメてくれるのでかなりいいアクセントになっています。

エバンスとキャノンボールの2人のいいところが十分に引き出されるリズムセクションになっていますね。取り立ててこれがすごいという派手なプレイはないのですが真のジャズのサウンドが常に出ているのとシンプルなサウンドでバンド全体の説得力が増しています。

エバンスのオリジナルも収録

このアルバムではエバンスの曲”Waltz For Debby”と”Know What I Mean?”の2曲取り上げられています。

みんながよく知る”Waltz For Debby”は少しアレンジがされていますね。

最初にエバンスがソロでメロディを3拍子で弾き、バンドで入ってくるところからは4拍子に変えてキャノンボールがさらにまた曲のメロディを奏でていきます。

4拍子になるとスイングの軽快さが増して明るいイメージになっていますが大人の落ち着きというか余裕を感じる演奏になっています。

キャノンボールのソロに対してエバンスもかなり積極的にコンピングしているのも2人の絡みがあっていいですね。しっかりキャノンボールが盛り上げたい方向に的確にコンピングを入れていきます。

ビルエバンスのソロは対照的な感じでソロをしていてだんだんと落ち着いていきますが、そこからラストテーマに自然と突入してエンディングに向かいます。まあ無理がないストレスゼロの自然な演奏です。

最後の曲にもう一つのエバンスの曲 “Know What I Mean?”が収録されています。

とても現代的なピアノイントロが付いていてグラスパーがやりそうな感じのプレイ。

とても新鮮なサウンドから始まりバンドでのインタープレイにつながります。このコードワークがまさにビルエバンスサウンドという感じでとても幻想的です。

そこから違う流れをパーシー・ヒースとコニー・ケイのリズムをきっかけにペースを変えていき、キャノンボールのソロへ繋がっていきます。

キャノンボールのリズムや音づかいがとてもスムーズでめちゃめちゃ気持ちがいいです。音にハリがあるのにリラックスした空気感も感じるとても絶妙なサウンドですね。

エバンスも軽くソロを取っていてキャノンボールに少し感化されたような16分のリズムのアプローチで演奏しています。

他ではなかなかやらないような感じのプレイをしているのでこのアルバムならではのビル・エバンスのソロが味わえます。

エンディングはまたスローになり幻想的な感じで終わりるので浮遊感のある心地よいサウンドが体に残って聴き終わった後はとても気持ちがいいです。

オルタネートテイクはもっと長めにやっていてエバンスのソロが終わった後3連符を3拍子と捉えてまたキャノンボールとエバンスの順番でソロが展開されます。

このテイクが12テイク目という驚異的な集中力と探究心ですね。。とことんやりたいことを詰め込んでいるのがわかります。

キャノンボールのプレイが活きる選曲

他の曲もキャノンボールのプレイが活きる選曲になっています。2曲目の”Good Bye”はとても渋くてかっこいいキャノンボールの歌い方が味わえますし3曲目の”Who Cares?”はゴスペル的でブルージーな歌い方をするキャノンボールのプレイもしびれますね。

5曲目のクリフォード・ジョーダンの曲”Toy”もハードバップ的な曲なはずなんですがかなり洗練されたサウンドで最高です。

「Something Else」のキャノンボールをご存知な方が多いと思いますがそのアルバムと比較すると印象が180度変わるようなバンドサウンドになっています。

これもひとえにビル・エバンスの繊細で洗練されたピアノサウンドのおかげでしょう。私としてもかなり気に入っているジャズのアルバムの1枚なのでこれを聴いていない方がいればぜひ一度聴いてみるのを強くお勧めします!



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。