逆循環って何?
ジャズの曲で、エンディングとして使われる手法の1つに「逆循環」と呼ばれるものがあります。
略して「逆循(ぎゃくじゅん)」などと呼ばれたりもしますが、ジャムセッションに参加するようになって間もない初心者の中には苦手な方も多いのではないでしょうか。
ただし逆循環を理解するためにはいわゆるII-V-Iの概念を先に理解しておく必要があります。
II-V-Iが分からないという方はそちらの方を先に勉強しておきましょう。
まずはじめに、全ての曲のエンディングに逆循環を用いることができるというわけではありません。
例えばDaysOf Wine And Rosesのようにテーマの終わりの4〜3小節前にかけて短いドミナントモーションを繰り返している場合です。
下に例示しますが、逆循環の多くはメジャーキーでテーマのラスト4小節が素直なII-V-Iになっている場合で逆循環が行われます。
もちろんそれ以外の曲だからといって逆循環してはいけないということではありません。
あくまでも一般的なジャムセッションでは用いられないことが多いというだけです。
有名な例外としてSolarはマイナー逆循環が行われることもあります。
Kenny Barronが演奏しているものが有名で、非常にカッコいいエンディングなので確認しておくと良いでしょう。
さて、逆循環の実例を見てみましょう。
この曲の後テーマの後(6分40秒〜)で使われているのが逆循環です。 コードが同じような場所で循環しているように聴こえることからこう呼ばれているのですが、実際にはどんなチェンジとなっているのでしょうか? It Could Happen To Youの最後の4小節のコード進行。 これを逆循環させると、 このようになります。 逆循環がなければ本来Fm7-Bb7-EbM7となってテーマが終わるはずなのですが、EbM7になるはずの3小節目がその3度上のGm7-5に、そして4小節目はC7となって綺麗にFm7へと解決し、まさに循環しているのです。 ※Gm7-5はGm7でも構いませんし、もちろん途中で変えても結構です。
ご覧いただいたように、逆循環というシステムそのものはII-V-Iに関する知識さえあれば特段難しいものではありません。
多くの人がつまづくのは逆循環への入り方、そして逆循環に入った後どのようにして曲を終わらせるかというところでしょう。
逆循環への入り方、終わり方
もし心配なようなら曲を始める前に逆循環をするかしないか打ち合わせておくと良いかもしれません。
ただしジャムセッションではあまり細かいことまで打ち合わせするのはスマートではないと考える人もいます。
ですから逆循環のあるなしについてはどうしても心配な場合のみに留めておくのが無難でしょう。ただし他の種類のエンディング、特にイレギュラーなエンディングをしたいという場合にはその限りではありません。
そもそも逆循環への入り方は終わり方に比べて大して難しくはありません。
ジャムセッションで逆循環へ進むのが定番な曲ではリズムセクションが勝手に逆循環に入ってくれることも少なくありません。
初めのうちは自分の意思でコントロールできなくとも、慣れてくれば入りの方はどうにかなることが多いと思います。 問題は終わり方です。
逆循環で思う存分演奏をし、もう良い加減曲を終えたい! となったらいくつかの手っ取り早い方法があるのでそれを覚えておくと良いでしょう。 同じモチーフを異なる高さで繰り返すことによりエンディングへと向かっていく、いわゆる定番フレーズです。 上に挙げたNicholas Paytonの演奏でも同様のパターンが用いられています。
ちなみにトニックの後はもちろんこの音源のように最後まで演奏しきっても良いですし、トニックに入った瞬間音を止めたり、逆に長く伸ばしたりすることによってピアノやギターなどに後の処理をお任せしても結構です。
その辺は他のプレイヤーとの意思疎通の具合にもよるのですが、店に入って初めて出会ったような人とこういったやりとりをできるというのもジャムセッションの醍醐味ですね。
ここに挙げたパターンをいくつかのキー(Bb,F,Eb,Cなど)で演奏できるようにしておけばとりあえず逆循環はさほど怖くはなくなるでしょう。
もちろんここに挙げたようなパターン意外にも様々なやり方で逆循環を終わらせることができると良いのですが、そのためにはいろんな演奏を聴いて学ぶことが重要です。
例えばMiles Davisなんかは曲全体のエンディングとしてではなく、各ソリストのエンディングとして逆循環を用いるということもあるのですが、そういう音源を聴くと多くのことに気付かされます。
多分あまり有名な音源ではないと思うのですが、僕のお気に入りの音源です。
逆循環が行われているのは1曲目のAll Of Youですが、他の曲も大変素晴らしい演奏ですので全編通して聴かれることを強くお勧めします。
最後に、途中で話の出たSolarで演奏されることのあるマイナー逆循環のコードチェンジを載せておきます。
Kenny Barron “Live At The Bradley’s”より