こんにちは、編集部のマイク松田です。
さて、最近僕のラジオでも(毎週火曜19:00〜FM小田原でJAZZ ROOMという番組を放送しています)よく流している音源、それがいわゆるフューチャージャズ(ネオソウルとか、まだ呼び方は安定していないようです)です。
いわゆる、50年前、60年前のジャズの曲ではなく、今現在演奏されている、エレクトリカルな楽器も駆使するジャズですね。
これまでの、ベースはダブルベース、ピアノはアコースティック、コード進行はめまぐるしく変わる、4ビートやボサノバ、3拍子などを中心にしたものが多い、というジャズの特徴と違い、8ビートを基調として、コード
進行が比較的単調、同じフレーズをループすることが多発する、と、いろいろ違いがあるんですが、この最近のジャズの熱い国といえば…
そう、イギリスです。UKジャズ、なんて言われて雑誌やWEB媒体でよく特集されています。
その中で有名なミュージシャンの1人がカマール・ウィリアムスです。
正直、全然期待していなかったというとちょっと怒られそうなんですが、話題によく上がるから見に行くか、くらいの気持ちでした。
いや、今は大ファンです。
自由な演奏という縛り
ライブはこの映像と同じ編成でした。
メンバーもほぼ同じなんですが、サックスのみ栗原健さんに変更した構成(あと、MCの人もいなかった)。
それまで音源で聞いていたときは、lo-fi Hip Hopのように、同じフレーズを繰り返して曲を構成することが多いんだな、と、思っていました。
これは、間違いでした。
音源は、各楽器の音量同じにしすぎ!
実際の演奏は、音量の強弱がハッキリしていて、同じフレーズを繰り返すときにはキーボードのタッチを少し小さくし、その中でどれか1つの楽器がソロをとったり、バースのやりとりをしたり、という演奏で…。
音源のときはこのダイナミクスが非常にフラットな感じに調整されているので、意識的に聞かないとそういったニュアンスが伝わらなかったんですね。
あと、カマール・ウィリアムスさんはかなり自由で、演奏中に誰かのソロが盛り上がってんなー、と感じたら自分は一歩下がってソロをとらせたり、急にバースを始めたり、なんかもうちょい聞きたいな、みたいな顔し
てバース終わりそうなのに続けたりと、結構奔放でした(もしかしたら最初からそういう構成なのかもしれないんですが…)。
これが、見ている側からすると急すぎてびっくり、ということもあるようで、お客さんの中にはポカーン、の状態の人もいました。
途中でぬるっとダンサーの人が出てきて踊り出したり。あんまりぬるっと入ってきたので、最初客が乱入したのかと思いました。
で、気づいたんです。あ、モンクっぽい人だ、と。
あまり昔のミュージシャンに例えるのは好きではないんですが、その昔、セロニアス・モンク、というピアニストがいました。
ものすごく変わった人で、ピアノの弾き方も、コードの弾き方も、作る曲も、絶対クラシック音楽ではやらないようなことばかり、というよりもそれだけで曲を構成するようなミュージシャン。
演奏中に踊り出したり、急にほかの人にソロをふったり、バースを始めたりすることもあったようです。
この映像でも、後半にベースとドラムのバースから始まりベースソロくらいになると急に立ち上がってベースの前をうろつきます。
おそらく僕がやったらベースの人にワンパンでKOされますが、モンクは許される。
昔、ジャズミュージシャンの方に「モンクは演奏をしっかり研究すると理にかなった数学的な演奏をしているけれど、そのほかの部分はジャズ本来の自由をはき違えているくらい自由」と聞いたことがあります。
実際のところ、ジャズって言うほど自由はありません。
特に、お客さんは求めている演奏通りでないと離れてしまいます。たとえば、冒頭のフューチャージャズもそう。
アコースティックな演奏でなければジャズではない、という層はわりと多いんです。そのため、フューチャージャズとかネオソウル勢は、4ビートでなかったりしてジャズではない、というユーザーレビューをよくつけられます。
そのため、自由な音楽、と巷で言われるほど自由は許されていません。
人の好みはそれぞれですから、いいとか悪いとかではなく、事実として。
そんな中で、カマール・ウィリアムスさんの演奏はいまどき珍しいくらいに自由でした。
もちろん、ちゃんとバンドメンバーと意思疎通がとれているからこその自由な演奏ですが、僕的には、ダンスがあったり、本来御法度される同じフレーズのループ、しつこいまでのバース、というのも非常に楽しく拝見できました。
「俺、こう演奏するけど、みんなどうする」みたいなやりとりは、フォーマットを変えた、楽器の進化がめざましい現在にモンクがいたらこんな感じなのかな、なんて思いながら聞いていて、人によっては好き嫌いが分
かれるかもしれません。
でも、自由なジャズ、という演奏で、現代的な音楽で、というタグをつけて選ぶならば、おそらく今僕はカマール・ウィリアムスをオススメするでしょう。
いや、ジャズ誕生から100年以上。
大分変わって当たり前、そういう時代なのかもしれません。