まずはこちらの動画をご覧ください。
一見するとサムネイルにあるように逆さまのフリューゲルホルンに目を奪われがちですが、あまり気にしないようにしましょう(笑)。
よく「トランペットは歌えなくてはいけない」なんて言いますが、今回ご紹介するトランペッター、クラーク・テリーはまさにそれを体現したようなトランペッターです。
この曲はMumbelsといって、彼の代表曲のひとつです。
よく聴いてみてください。
彼の歌声とフリューゲルの音は音域こそ異なるものの、どちらも非常に太くて柔らかく、1つひとつの音の処理が非常によく似ています。
まさにクラーク・テリーは彼の「歌」を彼自身の肉声とトランペット(フリューゲルホルン)の両方で、同じレベルで表現することのできたトランペッターでした。
「トランペッター」と言いつつも
そうそう、何気なくトランペッターとしてクラーク・テリーのことをご紹介していますが、実はフリューゲルホルンで演奏している作品の方が多く見かけるような気がします。
年齢を重ねたトランペッターがトランペットの演奏が困難になってフリューゲルホルンへ持ち替える例はありますが、彼の場合はそれにしては早い時期から持ち替えています。
実際、演奏を聴いても技術的な事情から持ち替えたわけではないということは一目瞭然です。
遊び心と歌心と完璧なテクニック
クラーク・テリーといえば上に紹介した動画にもあるようにフリューゲルホルンを逆さまに持って演奏してみたり、トランペットとフリューゲルホルンを両手に持って交互に吹いてみたり(下の動画の15分15秒~)と、とても遊び心に溢れた演奏を行うことがあります。
彼の遊び心はこういったものだけでなく、トランペットのフレージングにもよく表れています。
同じモチーフを繰り返してリズムセクションを煽ってみたり、他の曲のテーマをそれとなく引用してみたり。
細かいところへ目をやれば、独特の振れ幅を持つビブラートや、非常に軽くてコロコロと転がっていくようなタンギング(特にアップテンポの曲で顕著)などは分かりやすい例でしょう。
以前取り上げたフレディ・ハバードやウディ・ショウなどと聴き比べてみるとどうでしょうか?
時として命懸けであるかのように鬼気迫るものを見せる彼らの演奏と比べ、クラーク・テリーの演奏は心が歌いたいことを彼特有のユーモアに乗せて気持ちよく歌っているという感じがしないでしょうか?
またクラーク・テリーの「歌」にはブルースの影響が色濃く表れています。
そもそもブルースというものは歌心と切っても切り離せないというか、技術だけで演奏しようとしてもうまくいかないものです。
ブルースという言葉自体、単に音楽のジャンルを表すものではなく演奏する者のスピリットとかそういったものを表す言葉だと僕は思っていますが…。
ユーモアや歌心があっても、それを楽器を通じて表現できなくては意味がありません。
クラーク・テリーの素晴らしいリップコントロール(厳密には唇だけのことを指すわけではないが)や、タンギング、そしてどんな曲でもリラックスした状態を維持できるということはその上で非常に重要な役割を果たしています。
まさにトランペッターの理想である「歌うようにトランペットを吹く」を高いレベルで体現している演奏者の1人でした。
トランペッター目線からのオススメ作品
Oscar Peterson Trio + One
オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds)のリズムセクションに、クラーク・テリーを加えたカルテットによる演奏です。
ブルースを色濃く滲ませるクラーク・テリーとこのリズムセクションの愛称はぴったりと言っていいでしょう。
選曲もクラーク・テリーらしさがよく表れるものとなっていて、彼のことを知るための1枚としては最適です。
Serenade to a Bus Seat
こちらはウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)というリズムセクションによる作品。
Oscar Peterson Trio + Oneも豪華ですが、こちらも超豪華なリズムセクションです。
ジャズを演奏する方にとってはこれら2つの作品や、また同じリズムセクションで多くの作品を残したマイルスのものと聴き比べてみると新たな発見があるかもしれません。
Live at Newport
つい先日亡くなったピアニスト、マッコイ・タイナーのリーダー作品で、タイトルの通りニューポートジャズフェスティバルでの演奏をレコーディングしたものです。
先に挙げた2作品と比べると非常にちぐはぐなメンバー(多分)で構成されているバンドなのですが、なんというか「全く個性の異なるメンバー同士がとりあえずステージに上がったけど全力でやってみたら凄いものができた」感の強い作品です(笑)。
人から聞いた話ですが、この演奏当日、飛行機が遅延したか何かでメンバーの到着が開演ギリギリになってしまい、ほとんどぶっつけ本番で臨んだ演奏だったとの話もあります。
これはあくまで噂話程度なので事実確認は全くできていません。
しかし、ある意味異様なほどの活気に満ち溢れたこの演奏は、そういったことが影響しているのかもしれませんね。
Jam Session
リーダーはクリフォード・ブラウンとなっており、クラーク・テリー、メイナード・ファーガソンという異色のトランペッター3人が一堂に会した作品です。
全く異なる3人のトランペッターを一度に味わえる、非常においしい作品なのでトランペッターはぜひチェックしておきましょう。
選曲もMove以外は日本のジャムセッションでも比較的なじみのある曲ばかりです。
若くして亡くなったクリフォード・ブラウンは別にして、クラーク・テリーもメイナード・ファーガソンも、若い頃からこういう演奏してたんだな~とある意味納得の一作品です。