こんにちは、野澤です。
今回はピアニストのビル・エバンス特集第7弾。
ピックアップするのはエバンスのデビューアルバムです。
彼がリーダーとして出したアルバムはライブレコーディングを含め90枚近く。その最初の1枚ですね。
インタープレイを中心にしたプレイスタイルに繊細な音色、複雑で緻密なハーモニーを作り出すエバンスの原点になるアルバムになると思うのでピックアップして掘り下げてみたいと思います。
ビル・エバンス「New Jazz Conceptions」
パーソネル
- ビル・エバンス(Piano)
- テディ・コティック(Bass)
- ポール・モチアン(Drums)
アルバムトラック
- I Love You
- Five (By Bill Evans)
- I Got It Bad
- Conception
- Easy Living
- Displacement (By Bill Evans)
- Speak Low
- Waltz For Debby (By Bill Evans)
- Our Delight
- My Romance
- No Cover, No Minimum(Take1) (By Bill Evans)
- No Cover, No Minimum(Take2)
どれもスタンダードナンバーですが”I Got It Bad”や”Easy Living”に” Conception”などマニアックな曲が収録されていますね。
映画音楽、ミュージカル音楽がピックアップされていますがどれもジャズに根づいた選曲となっています。
エバンスの曲は”Five”,”Displacement”,””Waltz For Debby”と”No Cover, No Minimum”の4曲。
誰もが知る”Waltz For Debby”はすでにデビューアルバムから存在していたというのは驚きです。
メンバーはチャーリー・パーカーやフィル・ウッズのベーシストであったテディ・コディック。
ドラムは後のビル・エバンス・トリオに欠かせないメンバーとなるポール・モチアン。
メンバーと曲目を見ているとマニアックな曲ですがオーソドックスなジャズサウンドが期待できそうなパッケージングになっています。
デビュー当時のビル・エバンスのプレイスタイル
ウェイン・ショーターやジョン・コルトレーン、マイルス・ディビスなど、後のジャズ史に名を残すプレイヤー然り、デビュー時はその後の活動のような強烈なオリジナリティを発揮するよりも、プレイヤーが憧れを持つミュージシャンのサウンドやプレイスタイルが前に出ますが、デビュー当時のビル・エバンスも例外ではありません。
アルバムを通して聴くと白人であったエバンスは、黒人プライヤーの演奏に憧れがあったんだなと感じます。
ソロ中にはレッド・ガーランドのようなフレーズを弾いたり、エロール・ガナーやエリントンのような複雑でエレガントなサウンド作りを意識したりなどフレーズ1つとってもよくみんなが知っている中期のエバンスとプレイスタイルが違います。
しっかりバップフレーズもおさえてあって1周回って新鮮ですね。
現在よく知られているエバンスのアルバムを聴くと、彼の演奏だとすぐに分かるような、独特のハーモニーや当時ほかにないような発想力が繰り広げられますが、そんなレジェンドミュージシャンであっても、さまざまな過程を経て自分のプレイスタイルを見つけたんだなと親近感が湧きます。
もちろんレコード会社からリーダーアルバムを出すほど名は知れていましたから、エバンスが持っている繊細さやグルーヴ感はすでに際立っています。
ここからさらに複雑に進化していくだろうという片鱗は見えており、当時のピアニストの中では頭ひとつ抜けていたでしょう。
初期のポール・モチアンのプレイスタイル
このアルバムでドラマーを務めるポール・モチアンも音色作りから他ミュージシャンと違っています。
このアルバムのモチアンはスネアのピッチは高めにチューニングした仕様でバップっぽく仕上げています。後期はもっとダルっとした音が長めのチューニングで重たい雰囲気を出すようにしていますね。
シンバルも初期は薄めのモノを使っているのでレガートも軽快でバップ特有のグルーヴ感が出ています。
逆に後期は硬めのシンバルで少しキンキンする成分を出すようにしていてグルーヴより音楽の空気感を大事にしていますね。
当たり前と言えばそうなんですがセットアップが違うだけで中期以降のポール・モチアンのスタイルと比べるとまるで違います。
フレーズもマックス・ローチやアート・ブレイキーのフレーズに影響されているものが多く”Speak Low”でのドラムソロは先人たちのフレーズを継承しています。バスドラムも4分打ちをしていてビッグバンドドラマーのような雰囲気さえあります。
それでもアクセントの付け方や周りの音の反応の仕方はポール・モチアンのカラーが出ていますね。
”Conception”の複雑なエバンスのアプローチに対しても素早く反応していて適切なアプローチを繰り出していきます。ソフトでエバンスのピアノに寄り添う形ですが音の意思が強く音楽をどんどんプッシュしていくのが気持ちいいです。
“Conception”の4バーストレードではフィリーのような豪快さと3連符のきめ細かいシャープなソロでバンドを掻き立てますしトレードの受け渡しの後の音量コントロールもすごくスムーズです。
バンド全体に戻った時はシュッと元の音量になりドラムのターンになったらまたエネルギー全開のソロを展開します。この感じは想像以上にスムーズなのでぜひ聴いてみてほしいです。
エバンスの天才さが垣間見えるオリジナル曲たち
エバンスのオリジナルはリズムにこだわっている曲が多く”Five”と”Displacement”はかなりトリッキーです。
“Five”のメロディは5連符になっているのかフレーズ感がかなり奇妙です。今まで聴いたことないようなメロディになっているので知らない方はぜひこのアルバムで感じてみてください。
“Displacement”はファストスイングで2,4拍目にアクセントが来るようになっており一聴しただけだとどこが小節の頭か分かりづらいです。
それに加えて途中3拍フレーズでさらに複雑化しています。セクションも拍も分かりづらいですがコード進行は聴きやすいキャッチーな進行になっていて曲としてのバランスがいいです。聴いている分にはいいですが演奏するとしたらかなり技術が求められる曲になりますね。。
“Waltz For Debby”はピアノソロでテーマだけ収録されています。これだけでも十分綺麗ですが、この時点でよし、とせずに、のちにさらにいくつものピースをはめこみ、Waltz For Debbyという名アルバムでの演奏へ進化していくのかと思うと特別なものに感じるテイクです。
アルバム最後の曲はエバンスのオリジナル”No Cover, No Minimum”。これがまたブルージーで渋い曲。クラシックのような綺麗な曲を作るエバンスとしては貴重な曲です。ちゃんとブルースを感じるジャジーなフレーズと間を使っていて黒人のようなプレイをみせています。
しっかり自分の個性を魅せるようなオリジナルを作りそれに合うようなスタンダードの選曲も抜群にセンスがいいです。
オリジナルに力を入れてますが他のスタンダードもないがしろにしていません。しっかり曲に向き合って自分の解釈を入れて演奏しているのでこのアルバムがよく考えられて作られたのか分かります。
微妙にキックやハーモニー、メロディのリズムを変えてこのトリオのサウンドに落とし込んでいるのでこういう音楽に対しての姿勢やアイデアの使い方はビルエバンスのルーツを感じますね。
ここからのちのエバンスの作品全てが繋がっていくと思うととても貴重に感じるアルバムです。