たまーに知り合いのプレイヤーから「ちょっとこの曲のコードチェンジがわからないんだけど、楽譜に書き起こしてくれない?」なんて依頼されることがあります。
トランペットのアドリブソロのトランスクリプションならまだしも、コードチェンジのトランスクリプションです。
僕は幸いにも学生時代にコードチェンジを採譜する方法を教わったことがあるので多少はできるのですが、フロント楽器のプレイヤーにとってこれは確かに悩みの種です。
特にジャズの場合、楽譜が出版されていないような曲もあり、そんな曲を練習したりライブで演奏したいという場合には自力でトランスクライブするしかありません。
そもそもコードチェンジなど、ある程度以上の耳の良さがあれば聴いただけで分かってしまうのかもしれませんが、僕は恥ずかしながらよく分かりません。
そこで今回は、コード楽器にあまり馴染みがないんだけどコードチェンジってどうやって耳コピ=トランスクライブすればいいの? という方へ向けて、なるべくシンプルに解説してみたいと思います。
正直言うと、ちょっと根気とコードチェンジに関する知識が必要なため、中級者以上向けの内容にはなります。
しかし、コードに対する理解をより深めたり耳を育てるためにも役立ちますのでぜひともトライしてみてください。
はじめから1箇所でウジウジ悩まない
まずはじめに大事なことは、トランスクライブするうちに分からない部分にぶち当たってもそこでずっと悩むのではなく、その次を考えてみるようにすることです。
なぜなら細かいところを気にしすぎて先に進まないようでは、いつまでもその場所で足踏みしてしまい、結局挫折してしまいます。
特に慣れない方がテンションノートまで細かくトランスクライブするのにはあまり意味がないように思えます。
もちろんトランスクリプションに自信のある方はどんどんやるべきなのですが、そうでない方はあまり細かいことにはこだわらない方が良いでしょう。
まずはルートだけから、そしてその次にコードクオリティ(メジャーとかマイナーとか)を探るようにしましょう。
ベースをよく聴く
さて、コード楽器にあまり馴染みのないプレイヤーにとってコードチェンジを探るための最大の手掛かりとなるのがベースラインです。
必ずではありませんが多くの場合、そのコードの1拍目にはルートが演奏されます。
特にテーマからアドリブソロの1コーラス目までにかけては、その曲のコードチェンジのルートが忠実に演奏されることが多く、てがかりにしやすいでしょう。
逆にソロの2コーラス目以降は演奏の流れに応じて必ずしもコードの1拍目がルートではない場合も増えてくるので、とりあえず避けておきましょう。
というわけで、まずはテーマのベースラインを書き出してみてください。
それだけでも各小節のルートやそれ以外のコードトーンの手がかりがある程度は掴めてきます。
しかし書き出すベースラインがテーマだけだとよく分からない場合も少なくありません。
そういったときはアドリブソロの1コーラス目まで書き出してみるべきです。
少し面倒なのですが、2コーラス分のベースラインをお互いに照らし合わせることによってより高い精度でコードチェンジを推測することが可能になります。
全ての箇所で1小節に1コードと決まっていれば良いのですが、場所によっては1小節に2つかそれ以上のコードが入ることもあります。
耳で聴いて「あ、ここは同じ小節だけど2つのコードが入ってるな」と分かれば手っ取り早いのですが、この記事をご覧の方はそうでない方がほとんどでしょう。
ベースラインを書き出してみて同じ小節中に噛み合わないコードトーンが含まれている気がする場合は、複数のコードがそこに存在している可能性を疑いましょう。
テーマで用いられている音を参考にする
これも必ずというわけではありませんが、多くの場合、テーマとして用いられるメロディはその曲のコードチェンジに忠実です。
ですからコードチェンジのトランスクリプションに取りかかる前にテーマを書いておくと良いでしょう。
もちろん同じやり方でアドリブで用いられているフレージングを参考にすることも可能です。
テーマとアドリブでコードチェンジが異なる曲の場合はこのやり方は役に立たないのですが、上に書いたようなやり方だけではメジャーなのかセブンスなのか分からん! という場合などにテーマで用いられている音が
参考になることはよくあります。
前後の文脈をよく見る
では、ベースラインを書き出して各コードチェンジのルートはおおむね分かったとして、次はメジャーなのかセブンスなのか、マイナーなのかマイナーセブンフラットファイブなのか分からんという問題にぶち当たるでしょう。
そんなん聴けば分かるじゃん! という方もいるでしょうが…。確かにそれが理想的な状態ではあるんですが…。
さて、多くのジャズスタンダードではトゥーファイブワンをはじめとして、いくつかの文脈=”コードチェンジのパターン”が存在します。
トランスクライブしたい曲がスタンダード曲ではなくともジャズ、もしくはそれを意識したような曲であればそれらのパターンに当てはまることが多いはずです。
このためにはダイアトニックコード、トゥーファイブワン、モーダルインターチェンジなどに関する理解が必要です。
…なんて書き方をすると、やっぱり難しそうなんて思われそうですが、そもそもこれらの知識はアドリブの演奏をきっちりとやるには必要不可欠な知識ですし、ある程度アドリブについて学んでいくうちに自然と頭に入
っていく知識でもあります。
上に書いたようにベースラインをトランスクライブしたとしてもどうしても文脈の合わない箇所が出えてくるかもしれません。
そういった場合は単に耳コピミスの可能性があります。
特にベースは低い音なので半音間違いだったり、誤って5度の倍音を聴き取ってしまっているかもしれません。
そういった場合は単に何度も繰り返し聴き直すのも無駄ではありませんが、前後の文脈からその部分のコードチェンジを予想し、その上で聴き直すことによって音が正確に聞こえるようになったりします。
耳がとても良い人には必要ないことかもしれませんが、僕の場合はこういう考え方をすることで時間や労力の節約に役立っています。
というわけでいわゆるコードチェンジの耳コピについて書いてみました。
冒頭にも書いたとおり根気がいりますし、ある程度の知識も必要ではありますが、いくつかこなしてくるとだんだん楽になってきます。
それにコードチェンジに対する理解もより深まりますので、自身がないと思われる方でもぜひやってみるべきだと思います。