今回はラージアンサンブルがメインになっているアルバムをご紹介します。
ラージアンサンブルと聞くとビッグバンドを想像するかたもいるかもしれませんが、10人程度の規模のアンサンブルをラージアンサンブルと呼ぶことが多いです(ビッグバンドについての解説はこちら)。
ビッグバンドのようにサウンドはゴージャスにしたいけれど、よりフレキシブルに音楽の展開を進めたい場合にラージアンサンブルが組まれることが多いです。
今回私が選ぶのはハービー・ハンコックの「Speak Like A Child」。真っ先に頭にこれが思い浮かんだのでご紹介していきたいと思います。
ハービー・ハンコック「Speak Like A Child」
パーソネル
- ハービー・ハンコック(Piano)
- ロン・カーター(Bass)
- ミッキー・ローカー(Drums)
- ジェリー・ダットジョン(A.Sax)
- サド・ジョーンズ(Trumpet)
- ピーター・フィリップス(Bass trombone)
アルバムトラック
- Riot
- Speak Like A Child
- First Trip (by Ron Carter)
- Toys
- Goodbye to Childhood
- The Sorcerer
- Riot(1st take)
- Riot(2nd take)
- Goodbye to Childhood (alternate take)
ブルーノートレーベルからリリースしたアルバムでジャケット、アルバムの内容ともに名盤です。
アルバムのコンセプト
Speak Like A Childとは「子どものように話す」という意味です。
わがままを言う子どもみたいに、という訳ではなく、子どものようにピュアな心で将来を語るという意味を込めてこのアルバムタイトルにしたそうです。
大人になると世界のいろいろな闇が見えてきますからね 笑。。
そういう大人の都合を取っ払って子どもの頃の記憶にさかのぼり、子どもの時に理想としていた未来を再発見するというコンセプトで作られたアルバムでした。
なんとも哲学的ですね。
豪華なメンバー
メンバーからみて気づく人もいるかもしれませんがトランペットはサド・メル・オーケストラで有名なサド・ジョーンズが参加しています。
ジェリー・ダットジョンを知っている人は少ないかもしれませんが彼もサド・メル・オーケストラのメンバーです。
他でもカウントベイシー・オーケストラやさまざまなバンドをまとめるサイドマンとして有名です。
リズムセクションはロン・カーター。なのでドラマーはよく共演するトニー・ウィリアムスかと思いきやここではミッキー・ローカーです。
だいたいがトニーとエルビンがトップを走っていて他のドラマーに焦点が当たりにくいですがこの時代でも他にいいドラマーが結構います。
個人的にはこの時代の好きなドラマーの1人なのでこのアルバムで聴けるのはアツいですね。
ミッキーの他での活躍はリー/モーガンの「Live At the Lighthouse」のアルバムでも知られています。
力強いスイングはもちろんのこと、バップフレーズながらも昔ではない当時としては新しい音色を持っています。
ビバップからハードバップ、それを超えてまた新しいジャズに動いているこの時代ならではのサウンドです。
ハービー以外は誰もソロを演奏しない
こんなにも豪華なメンバーですがメインのソリストはハービー・ハンコックです。
他は誰もソロを取りません。
そのぶん楽曲のテーマ部分のアレンジがしっかりなされていて、メンバーにテーマを弾いてもらいソロに入ればハービーが弾くという感じになっています。
これはハービーを育ててきたマイルス・デイビスのアルバム「Miles Ahead」「Sketch of Spain」に手法が似ていますね。
参考にしていたかはわかりませんが少なくとも影響はあると感じ取れる構成です。
テーマだけでなくソロを弾いている途中にもアレンジがほどこされていて「Riot」のピアノソロ後半にはソロを掻き立てるようなホーンアレンジもされています。
最終的にホーンアレンジだったフレーズがピアノソロ終わりのセクションのメロディに繋がっていくので、そこもソロの部分と関係していて面白いです。
メンバー全員のポテンシャルが生きる楽曲
先ほど述べたようにハービー以外はソロを取らないんですが1曲1曲のアレンジが素晴らしいです。
1曲目の「Riot」ではベースラインをロンカーターがあのうねうねした独特な音色やフレーズの歌い方を生かしています。
テーマに入ってからはトランペットとフルートのメロディのハモってるサウンドが不思議な雰囲気をしています。そしてそれを上手くつなぎとめるかのようにハービーがコードを弾いていくのですがそのボイシング(和音の使い方)が凄いです。まさに音の魔術師。
そしてバストロンボーンのピーターもペースラインをハモっていたと思いきやメロディパートも陰ながら支えていたり、ジェリーもメロディの吹き方に遊びがあったりなど決められたアレンジの中でも自由さを見出しています。
2曲目のアルバムタイトルである「Speak Like A Child」のアレンジは本当に美しいです。
テーマのメロディはあまり感じさせずホーンのアレンジだけで曲のアウトラインをオーディエンスに提示してきます。
なので漠然と曲を聴いている限りではシンプルに聴こえてきます。
逆にテーマの構成を探ろうとプレイヤー目線で聴こうとすると全然つかめません。不思議ですね。
ハーモニーもそうですがこの曲をしっかり理解して吹いているホーンプレイヤーはさすがです。
3曲目はピアノトリオになります。凝った曲を続けて2曲聴けばスッキリした曲も聴きたいですからね。
オーディエンスのこともよく考えてアルバムが構成されています。
全体的にロン・カーターとミッキー・ローカーはバッキングメインでサポートという立ち位置ではありますが終始ハービーのフレーズに対して反応しています。
この3曲目ではのびのびプレイしているのが分かりますね。
途中ピアノソロが終わりそうな雰囲気を出していてミッキー・ローカーが終わらせようと場面転換するのにハイハットにいく場面があります。
ぢksぢ、まだハービーがソロを終わらせず続けて弾くところがあって、ここもまたジャズっぽくて個人的に好きな瞬間です。
5曲目の「goodbye to childhood」のイントロもきわどいホーンのアレンジがなされていますがそのもハモり方をちゃんと理解して吹いているのがわかります。
意図的な不協和なサウンドながらも安定したプレイで曲にどんどんひき込んでいきます。
ピアノソロに入ってロン・カーターが結構ドロドロとした雰囲気をだしてローテーションなのですが、それに対してハービーは高音域でキラキラしたソロを弾くのでここの対比も面白いです。
たまに不思議なハーモニーがリズミックに混ざりあったりベースソロにいきそうでいかない瞬間もあったりここでのインタープレイも聴きごたえがあります。
今回このアルバムではハービー自身が楽曲のイメージを広げるためにホーンアレンジを施していることがわかります。
そのアレンジもテーマだけなので進行上シンプルですがやっていることはエグいサウンドを創り上げています。
そのハービーの要求を満たせるのが限られてくるのでこのメンバーに白羽の矢が立ったのでしょう。
音の魔術師と呼ばれるハービーハンコックの真髄が味わえるアルバム
ホーンアレンジもそうですがやはりハービーのソロはどれをとっても凄さを感じます。
きれいな音使い、ミステリアスなハーモニー、ベースとドラムに溶け込むインタープレイ、そしてトータルバランスのよさなどいろいろハービーのセンスが詰まっています。
そしてピアノソロを即興で弾いているはずなのにこんなにも曲の一部として完成されているのも恐ろしすぎます。このソロがないと曲が完成しないようなそんな感じもしますね。
そしてバップフレーズもありながら新しいハーモニーセンスを使って独自のフレーズも取り入れているのが当時のこのハービーのいいところです。
最後の「The Sorcerer」はマイルスバンドでも有名ですね。
これをシメに持ってきてるのもセンスを感じます。気軽に聴けるのに中身が濃いというジャズリスナーには嬉しいテイクです。
そして余談ですがこのハービーに影響を受けたのがダニー・グリセットでしょう。ジャズが世代を渡って受け継がれていますね。