こんにちは、野澤です。
11月入ってからも半袖でいいくらいの気温だったのにここ数日で一気に冬の気温まで下がってきましたね。今年はなかなか不思議な季節です。
さて今回も前回に引き続きビル・エバンス特集やっていきます。今回はビル・エバンスがコラボして出したアルバムをピックアップしてみようと思います。
エバンスといえば世間的にはトリオが有名ですがコラボ作品もいくつか出していて、エバンスのバンドとは全く違うコンセプトで演奏しています。
ある意味サイドマン的な演奏も垣間見えるのでそのアルバムでしか味わえないエバンスの良さも見えてきそうです。
今回特集するのはスタンゲッツとコラボしたエバンスのアルバム。かなり良作だと思うのでピックアップしてみました。
スタンゲッツ&ビルエバンス「Stan Getz & Bill Evans」
パーソネル
スタン・ゲッツ(Alto Sax)
ビル・エバンス(Piano)
ロン・カーター(Bass)
エルビン・ジョーンズ(Drums)
アルバムトラック
- Night And Day
- But Beautiful
- funkallero
- My Heart Stood Still
- Melinda
- Grandfather’s Waltz
- Carpetbagger’s Theme
- WNEW
- My Heart Stood Still(Alternate Take)
- Grandfather’s Waltz(Alternate Take)
- Night And Day(Alternate Take)
ボーナストラックやオルタネイトテイクを含めると11曲とボリュームあるアルバムになっています。
前半はよく知っているジャズスタンダードにエバンスオリジナル”funkallero”。後半はリチャード・ロジャースの曲や映画音楽の曲などをピックアップしています。
レコーディングは1964年に行いましたがリリースは1973年にヴァーブレコードからリリースされました。
ゲッツもエバンスもレコーディングでは充分な時間が取れなかったと言っていたそうですがアルバム自体は賞を取るなどかなりの功績を残した作品となりました。
アツい組み合わせ
スタン・ゲッツとビル・エバンスを掛け合わせるだけで知的でリラックスした雰囲気が出そうなサウンドが予想されますよね。
その予想の斜め上を行くリズムセクションが入っています。
まさかの、マイルスバンドで異世界へと引き込むようなベースを弾くロン・カーターとジョン・コルトレーンバンドで荒れ狂うようなプレイをみせるエルビン・ジョーンズ。
当時マイルスのバンドもコルトレーンのバンドも絶好調の中でのこの組み合わせは激アツですね。
この組み合わせはピアニストのマッコイ・タイナーのアルバム「Real McCoy」やテナーのウエイン・ショーターのアルバム「Speak No Evil」でも聴くことはできます。
しかしこのリズムセクションと柔らかくてソフトなサウンドを持つスタン・ゲッツ、繊細な音色でハーモニーを奏でるビル・エバンスを掛け合わせると、どうなるのか、というところを考えるとかなり面白くなりそうで胸が躍ります。
アルバムのバンドサウンド
メインはやっぱりスタン・ゲッツとビル・エバンスのプレイが全面に出てくるようなサウンドになっていてかなり心地がいいです。
特にハーモニーを聴かせる曲”But Beautiful”や”Melinda”、”Grandfather’s Waltz”は緻密なピアノのハーモニーに優しく高級感漂う気持ちいいサックスのフレーズが乗っかってくるのでかなり極上です。
ゲッツがたまにコルトレーンのようにブロウする場面もあるのですが攻撃的なのにとても紳士的。この音を浴びるだけでたまらない気分になります。
“Grandfather’s Waltz”のイントロはエバンスのピアノソロから始まるのですがめちゃくちゃエバンスを感じるイントロになっています。
基本ゲッツを引き立てるようなプレイをしているのでトリオでやっている時より主張は控えていますが、いざこういう時になるとしっかりエバンスの色を出してくれているので聞いている側もエバンスを聴いているという満足感があって最高です。
ゆったりした曲でもリズムセクションのカラーはしっかり出ています。7曲目の”Carpetbagger’s Theme”のリズムが少しラテンチックなんですがこのリズムの感じがまさにコルトレーンバンドの”Liberia”や” Love Suprime第1楽章”の感じ。
そんなに本人は意識していないでしょうがこのエルビンにしか出せないフィールが他のメンバーと聴けるとかなり新鮮で嬉しい気持ちになります。
ロン・カーターのフィールもかなりリラックスしていて心地がいいです。
8曲目のWNEWのベースイントロもロン・カーター独特のブンとしたしなやかなでノビのあるベースの鳴りが味わえます。
ベースラインも攻めてるようでちゃんとインサイドで美味しいところを狙っているので全体の綺麗なサウンドが保たれていますね。
速い曲になればこの2人がよりイキイキしてくるのがわかります。”fancallero”ではエルビンのドラムイントロですが完全にエルビン節が効いていてテンション上がった状態からスタートしていきます。
途中のベースソロもロン・カーターらしい音づかい。後のアルバムにはなりますがテレンス・ブランチャードのアルバム「Magnetic」でゲスト参加した曲”Don’t Run”のベースソロでも同じようなアプローチがみられます。
私は先にそれを聴いていたのでフラッシュバックするほど体感でした。
その後のドラムソロもエルビンがパワー全開でトレードでドラムソロを展開していきます。こちらはエルビンらしくて本当に最高です。
それでもバンドのサウンドは意識しているのでしょう。暴れていても綺麗に収まる範囲でやっているのでハードバップ的な泥臭さはなくかなり洗練されたプレイに聞こえますね。
どうしてもドラマー目線だとこういうとこに気がいってしまいますが本当にこの組み合わせで素晴らしい演奏内容、高揚するグルーヴが味わえるのでこれだけでもかなり充実したアルバムです。
度々不安定になるところもある
噛み合っているところがほとんどですが個人的に気になる瞬間もありました。
“My Heart Stood Still”はOKテイクもオルタネートテイクもピアノソロの後サックスとピアノとで掛け合いをみせいています。
ゲッツとエバンスが絡むのでアルバムとしては大事なところですね。
OKテイクの方なんですが絡んではいるけどプレイヤーたちがどうしていいかわからないようなプレイをしている、もしくは探っているように聞こえるのでなんの時間なんだろうと聴いているこっちが一瞬探ってしまいます。
これはこういうもんだと言われたら納得するしかないのですが少しノリにくい場面もあるように感じました。
が、しかしこれはレベルの高いお話です。出てる音はずっと最高品質ですのでご心配なく。
とはいえかなりの良作
アルバムの曲をとってみてもどれも聴きやすくキャッチーです。
そのメロディーをゲッツが最高の音で奏でてくれてそのメロディを最高に引き立たせるハーモニーとストーリーラインをエバンスが作っていきます。
その流れを汲み取るようにロン・カーターとエルビン・ジョーンズがサポーティブかつ個性を出すプレイをしてくれるのでトータル的にかなり満足できるアルバムになっています。
きっとジャズマニアが聴いてもライト層が聴いても満足できるので聴いたことなければぜひチェックしてみてください!