ジャズの定番曲「Moanin」とはオリジナルの原点とオススメのカバーアルバム5選

moanin

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セッションライヴやBGMの演奏でよくお客さんからリクエストをもらうことがあります。

個人的に経験した中で特にリクエストの多い順にランキングをつけると

  • 第3位「Over the Rainbow」
  • 第2位「Take Five」
  • 第1位「Moanin’

というランキングでこの3曲は高確率でリクエストを受けることが多いです。

なぜこんなにも人気なのか。。どれも世間的にヒットしていて今でもコマーシャルなどのBGMなどに使われるのが理由だと思います。

「Take Five」は5拍子というリズムが発売当時は珍しく、大ヒットしました。

オシャレなピアノイントロにサックスのふわっとしたメロディーにムードがありますよね。

しかしオリジナルテイクを聴くとプレイヤー自身の技術が5拍子に慣れていなくて演奏の中身はまだ荒いので本物の演奏とは言えないなぁという感じです(偉そうにすみません)。

ジャズプレイヤー的にも「Take Five」はスタンダードナンバーではなくむしろ避けられがちです。

しかし「Moanin’(モーニン)」ならなぜかリクエストを受けてもそこまで悪い気はしません。それはオリジナル版を演奏しているアートブレイキー&ジャズメッセンジャーズのバンドサウンドがそもそもジャズのルーツになっているからです。

Moanin‘の生みの親

アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズはドラマーのアート・ブレイキーのバンドです。このバンドの人気曲はいくつもありますが、Moanin`は当時バンドにいたピアニストのボビー・ティモンズの作曲。

アート・ブレイキー自身は譜面も読めなければ作曲もできないので、その時にいたバンドメンバーに作曲のほとんどを任せていました。

そんな中でもティモンズはバンドに多くの曲を提供していましたが、他にも有名なとこで言えば「Dat Dare」や「So Tired」などクールでかっこいい大人な曲を作ります。

このクールな感じが見事にハマったのが「Moanin’」だったのです。

Moanin`とは

日本語で直訳すると「うめき声」という訳になります。苦しんでいる様を表しているのではなく苦しみに立ち向かってうめき声を上げるという前向きな曲です。

その苦しみに立ち向かうというコンセプトはティモンズが大きく影響を受けたチャーチミュージックからきていてメロディの作りからこだわっています。

最初のメロディはピアノだけのフレーズでそれにホーンやベースドラムが応えるように演奏します。ジャズ特有のコールアンドレスポンスですね。

レスポンスの音使いも教会のアーメンを言う時の音階になっていてチャーチミュージックの繋がりを感じます。

ドラマー、アートブレイキーの持ち味が効いた曲

アート・ブレイキーの1番の武器といえばダイナミクス。大きな音から小さい音まで音楽的にコントロールするのがすごく得意で右に並ぶプレイヤーはまずいないでしょう。

よく、豪快に演奏するところがフィーチャーされますが小さい音でも音楽に引き込みます。それがこの「Moanin’」でも発揮されていますね。

テーマはAABAの構成になっていますがだんだん大きくなってBセクションで勢いがつくように作られています。

最初のAのメロディはピアノだけ、2回目のメロディはサックスとトランペットというメロディは変わらないのに楽器の編成だけでダイナミクスの変化をつけています。

エンディングも最後のメロディを3回繰り返すタイプなのですがこれもダイナミクスを小さいところから大きいとこまで変化をつけています。これが真似できそうでなかなか難しいんですよね。

テーマ部分もですが音楽全体通して聴いてもアートブレイキーがダイナミクスをコントロールしていて曲の特性とアートブレイキーの長所が合わさってこの楽曲が仕上がっています。この曲がどれだけ完成されているのかはオリジナルを聴くだけでよくわかりますね。

色んな「Moanin’」を聴いてみよう

Art Blakey & Jazz Messengers「Moanin’」

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ユニバーサル ミュージック (e)

まずはオリジナルのテイク。このアートブレイキーのジャケットがまた渋いですよね。

内容は先ほど述べた感じですがトランペットのリー・モーガンのソロもファンキーですしティモンズのソロもブルージーでダイナミクスの緩急が激しく引き込まれます。

ブレイキーのサポーティブなバッキングも素晴らしく常にソリストの後押しをしています。

このオリジナルテイクをもとに色んなMoanin’を聴いていきましょう。今回は私のオススメの「Moanin‘」を他に5つご紹介します。

Art Blakey’s Jazz Messengers「The Art of Jazz Live in Leverkusen」

1989年にライブレコーディングされアートブレイキーの70歳を祝う記念のアルバムになっています。

当時のメンバーはブライアン・リンチ(Trumpet)、フランク・レイシー(Trombone)、ジャボン・ジャクソン(T.Sax)、ジェフリー・キーザー(Piano)、エシート・オーコン・エシート(Bass)というメンバーに加え、フレディ・ハバード、テレンス・ブランチャード(Trumpet)、カーティス・フラー(Trombone)、ジャッキー・マクリーン、ドナルド・ハリソン(A.Sax)、ベニー・ゴルソン、ウェイン・ショーター(T.Sax)、ウォルター・ディビスJr.(Piano)、バスター・ウイリアムス(Bass)のメッセンジャーズのOBたちも混ざって演奏しているテイクもあります。

このアルバムでの「Moanin’」はオリジナルテイクよりも勢いがついて少しアップテンポになっています。トランペットのブライアン・リンチのソロがフィーチャーされていてリー・モーガンと違い現代的で洗練された演奏になっています。

他のソリストでもホーンのリフが入っていて“In Walked Bud”のメロディを引用したものが入っていたり盛り上がりを見せる場面がいくつも用意されています。

クールで渋いオリジナルのテイクとは真逆で明るくお祭りのような雰囲気を持つこのテイクは聴いていてテンションが上がります。

Charles Mingus「Blues & Roots」

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Essential Jazz

ミンガス独特のダークさがありますね。みんなでインプロするような部分とビッグバンドみたいにアレンジされている部分とが入り混じっています。

その場の空気で音楽を作っていくので途中実験的に感じるところもありますが全員が自由でずっと音楽的になっているのは凄まじいです。

ミンガスのベースラインも1音1音力強く音楽が進んでいきます。また予測不可能な場所でポリリズムや持ち前の3連ベースラインを入れてくるのでスリリングで始まりから終わりまでずっと惹きつけられます。

しかし「Moanin’」のテーマのメロディは1音も出てきません笑。コード進行と曲の持っている雰囲気が「Moanin‘」を表しています。

Jose James

ボーカリストのホセジェイムスのアルバム「The Dreamer」に入っていますがボーナストラック追加版にしか入ってないのでお間違えないかしっかり確認してからご購入ください。

元はインストの曲なので歌詞などはないのですがこのホセのテイクにはジョン・ヘンドリックスが作詞した歌詞がついています。

過去にはサラ・ボーンも歌っていますね。

テーマが終わればホセの渋いスキャットが始まります。

リー・モーガンのトランペットのようなファンキーな歌い方も聴きどころです。

ソロはテーマと同じ構成ではなくずっとAセクションを回していてキューでBに抜けるような仕組みになっているので普通に聴いていると違和感がすごいですがあらかじめわかって聴くとすんなり入ってくるかもしれません。

アニメ「坂道のアポロン 」オリジナル・サウンドトラック

アニメ「坂道のアポロン」のサウンドトラックでアニメとはまた別テイクのものが収録されています。割と原曲をイメージして演奏されていてトランペットのファンキーな部分が残っていたりするのですがトランペットソロが終わってからは全く違った展開が繰り広げられて予想を裏切ってきます。

アニメを見た人ならわかるかもしれませんが主人公たちの性格も反映している演奏でアニメファンにもジャズファンにも熱いテイクです。

プレイヤーは松永貴志(piano)類家心平(trumpet)鳥越啓介(bass)石若駿(drums)という日本でも屈指のプレイヤーが演奏しています。

Bobby Timons「This Here Is Bobby Timmons」

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Original Jazz Classi

最後は作曲者のボビー・ティモンズ本人のアルバムでの演奏。

このテイクではピアノトリオの編成でグイグイとティモンズ自身が引っ張っていくのがいいですね。

オリジナルのほうが編成上どうしても壮大に聞こえはしますが曲の雰囲気はこっちのほうが個人的に聴きやすくて好きかもしれません。

なんにせよファンキーなかっこよさとティモンズのリーダーシップのある演奏に溢れ出てくるようなソロのアイデア、エネルギーが詰まっていてピアノが本当にうなっているかのような最高のテイクになっています。

以上オススメのモーニンが入ったアルバム5つをご紹介しました。どのモーニンもオリジナルをリスペクトしていますがそれぞれプレイヤーの個性が詰まったアレンジに仕上がっています。

これを機にジャズの定番曲をもっと深掘りしてはどうでしょうか。知っている曲の新たな側面を見つけられるかもしれません。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。