美しく綿密なインタープレイが聴けるビル・エバンスのアルバム「Explorations」

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こんにちは、野澤です。

度々私情を挟んでしまいますが今回はライヴ1本だけ紹介させてください。

10/18(水)に新宿ピットインにて13:30より私のバンドでライヴをいたしますので興味のある方は下のリンクから情報、予約のリンクをご覧頂けたらと思います。

ライヴ情報はこちらから

それでは今回は名盤特集としてビル・エバンスのアルバムをピックアップしてみたいと思います。

ビル・エバンスといえばモダンジャズの第一人者。彼がいなければクラシック的な繊細で美しいジャズは体現されていなかったかもしれません。そんなエバンスのおすすめアルバムを今回ご紹介します。

Bill Evans「 Explorations」

パーソネル

  • ビル・エバンス(Piano)
  • スコット・ラファロ(Bass)
  • ポール・モチアン(Drums)

アルバムトラック

  1. Israel
  2. Haunted Heart
  3. Beautiful Love
  4. Elsa
  5. Nardis
  6. How Deep Is The Ocean
  7. I Wish I Knew
  8. Sweet And Lovely
  9. The Boy Next Door

ビル・エバンスが一番信頼していただろうベースのスコット・ラファロとドラムのポール・モチアンとのトリオのアルバムです。

レコードレーベルはriversideです。このレーベルからは「Portrait In Jazz」や「Waltz For Debby」などビルエバンスを象徴するアルバムを複数出しています。CDのジャケットを見ればジャズファンなら誰もが知っているものばかりですね。このアルバム「Explorations」はそんなアルバムたちの中の1枚です。

スタンダードナンバーにも残ることになった名曲揃いのアルバム

このアルバムはビルエバンスが作曲した曲は1曲も入っていませんが“Israel”や“Nardis”などビル・エバンスを代表する曲が入っています。

プレイスタイルと選曲がマッチしているのでエバンスといえばこの2曲は外せないでしょう。繊細なピアノのタッチと緻密なハーモニーセンスが輝くエバンスのプレイが十分に活かされる曲でこのために作られたんじゃないかと思うほどハマっています。

スコット・ラファロのベースラインとエバンスのコードワークがレコーディング前にある程度計算されているんじゃないかと思わせるくらい1曲1曲のテーマが完成されているのでテーマだけで何度も聴く価値がありますね。

綿密なインタープレイ

このトリオのすごいところはインタープレイです。誰一人迷いもなく縦横無尽に音楽の中を駆け回るようにプレイしています。

インタープレイとはアンサンブルの手法で、誰かのプレイに触発されて自分のプレイ例えばフィールだったりフレーズだったりを大胆に変えるやり方です。

相互に反応し合うのでアンサンブルがより密なんですが3人それぞれ別々のフレーズを弾いているので特定の楽器だけずっと聴いていると何をやっているのかわからずバラバラに聴こえます。

俯瞰して聴くと音楽の全体像がわかりやすいです。3人のフレーズを合わせると1つの作品になるパズルのようなアンサンブルの手法をビル・エバンストリオはとっています。

ポール・モチアンのここがすごい!

1曲目の”Israel”では序盤からポール・モチアンがハイハットで3連を刻み続けるシーンがあります。

その時エバンスがメロディを弾いていてスコットは2分音符や全音符など長い音を使っていてポール・モチアンとは対照的なプレイをしています。

一緒のことをするのではなくあえて対極のことをすることでアンサンブル的にバランスが取れているんですね。これもインタープレイの1つの醍醐味です。

ポール・モチアンが4分3連から普通のプレイに戻ってくる時はメロディの2拍3連につながってこれがバチっと合うわけです。

全く関係ないことをプレイしているようで3連というモチーフがポール・モチアンのプレイに隠されていました! そこまで計算されているのか定かではありませんが、偶然にしてはできすぎた、しっかりとしたモチーフとして成り立っているので脱帽です。。

“Sweet And Lovely”でのプレイも神がかっています。テーマが終わってからなぜかスッとドラムの音が消えるんですが訳わからないところから入ってきてそしてまたスッと消えます。

普通だったら不自然な流れになりそうなんですが音楽的に違和感なく抜けたり入ったりするので理解不能な領域で音楽が創られていきます。

この抜けたり入ったりを繰り返す中でうまくスティックに持ち変わるタイミングがありこの瞬間は完全にやられました。。ポール・モチアン本当にすごすぎますね。

スコット・ラファロのここがすごい!

ベースラインの概念がくつがえるようなプレイが終始際立っています。

2ビート、4ビートを使い分けてはいるのですがそれにいろんな音価を加えています。全音符でずっと伸ばして空間をたっぷり作ったり3連符でメロディの如く音階を駆け上がったりするベースが特徴的です。

全音符で伸ばす部分は低音が響き渡り、3連符で弾きまくる時は高音部分の繊細な音が光るプレイでとても個性的なベースラインを弾くのがスコットラファロのプレイスタイルです。

ベース単体で聴くと訳がわからないことが多いですがピアノとドラムが混ざるように俯瞰してCDを聴くとこれがかなり自然なのです。

“Israel”のピアノソロに入った瞬間からタイムモジュレーションを仕掛けていきそれにポール・モチアンが便乗してスリリングな空間が生まれます。

2コーラスピアノソロが進むとそこから普通のベースラインに切り替わり音楽がさらにグッと進んでいきます。

普通こういうプレイをされると困惑してしまうプレイヤーが多そうですがクールにエバンスもモチアンも反応していて3人の信頼関係の深さが演奏からわかりますね。

アルバムの聴きどころ

全体的なトーンは繊細で静かな感じですが情熱を感じる音色が魅力的です。

ビル・エバンス特有のクラシック的なハーモニーセンスを駆使し、リズミックなアプローチも自然に滑らかにベースとドラムに絡み合っていくインタープレイを展開していきます。

そういうインタープレイがしっかり感じられるのは“Israel”、“Nardis”、”Sweet And Lovely”でしょう。特に”Israel”のピアノソロをよく聴くと右手のメロディラインに沿って同じリズムで左手のハーモニーをつけていきます。

レッド・ガーランドやウィントン・ケリー、オスカー・ピーターソンみたいな手法とは違ってガンガンやるのではなくメロディラインを引き立てて左手のハーモニーを控えめにしています。こうすることによってメロディラインがより立体的に聴こえますね。

他の曲はハーモニーや曲の美しさやエバンスの優しさが感じられるものが多く聴いていて穏やかな気持ちになります。ジャズってこんなに美しいんだなと改めて感じられる1枚になっていますのでぜひじっくり聴いてみてはいかがでしょうか。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。