ジョーイ・アレキサンダー「Origin」
パーソネル
- Joey Alexander(Piano)
- Larry Grenadier(Bass)
- Kendrick Scott(Drums)
ゲスト
- Gilad Hekselman(Guitar) Track4,6,9
- Chris Potter(T.Sax) Track2,4,9
アルバムトラック
- Remembering
- On The Horizon
- Dear Autumn
- Winter Blues
- Promise of Spring
- Summer Rising
- Midnight Waves
- Angel Eyes
- Rise Up
- Hesitation
弱冠19歳の若手ピアニスト、ジョーイ・アレキサンダーの新譜です。
若手といってもキャリアは長く、8歳の頃からハービーに認められてニューヨークやヨーロッパ各地で活躍する才能にあふれるピアニストです。
今作で6作目ですが今回初めて自身のオリジナルメインに構成されたアルバム。
これまではスタンダードやジャズレジェンドの曲ばかりを演奏していたので才能と活力あふれるジャズ好き少年みたいなイメージでしたが(超失礼)、このアルバムはジョーイ自身のやりたいことを全部詰め込んだアルバムになっています。
アルバムのタイトルもそれにちなんで「Origin」という題がついてますね。
このアルバムを聴いた瞬間いい意味でガラリと変わった音楽と音色が素晴らしすぎていまだに興奮しながらこの記事を書いている次第です。
そもそもジョーイ・アレキサンダーを知らないとこの感動が伝わりにくいと思うので、彼の昔のプレイスタイルを少し紹介しながら今回のアルバムを紹介していきたいと思います。
ただの天才少年から進化する過程
若くて弾けるからという理由で取り上げられるプレイヤーは世の中にたくさんいます。最初はジョーイ・アレキサンダーもそのうちの1人でした。
本当にピアノがめちゃめちゃ上手い少年という感じです。
この歳で個性を求めるのは酷なのですが「将来トラディショナルジャズをバリバリ弾くんだろうけどそれだけなのかな」という彼の未来への印象をこのときは受けました。
まあそうは言っても世界中の大人が黙ってないのでエリートコースをまっしぐらに進みます。本人も好きでジャズとクラシックを勉強して音楽を深めながら最初のアルバム「MY FAVORITE THINGS」をリリースします。
13歳のこの時点で別格なのは確かですがテクニックや表現はまだ伸び代がありそうです(上から目線で失礼します)。
このアルバムは少し聴いて感じがわかったので彼の活動はしばらく追ってませんでした。
しかし2年前に新譜を出したジョーイのアルバムに私の推しドラマーであるケンドリック・スコットが入っていたため再び彼のアルバムを手に取り聴いてみました。
楽曲の表現はかなり広がって深みも増してきましたが、よくも悪くも若さがあるという感じでいつものジョーイ・アレキサンダーだなという印象でした。
とはいえさすがに経験値が上がっているのがわかるので真っ当に育った天才少年という感じでこのアルバムではかなり好印象です。
それからの今回のアルバムです。今回も推しのケンドリック目当てでアルバムを聴きましたがドラムを忘れるくらいピアノの音の深さに驚愕しました。。
才能が完全に開花したアルバム
1曲目のイントロを聴いただけで今まで全く系統が違うことが明らかです。
少年の演奏ではなく大人の色気をすごく感じるプレイスタイルになっています。
オリジナル曲だからなのかハーモニーの使い方なのかはわかりませんが相当音楽的にツボを捉えた間の使い方、音づかい、他のメンバーとの密接なインタープレイを繰り広げています。
この1曲だけでジョーイも大人になったというかレジェンドへの道を歩み始めたのかと思うとこの成長を感じるだけで感動です。
他のオリジナルも色彩感豊かですが大人のような上品さがあります。”Dear Autumn”はそれを特に感じられて、テーマもソロもずっとリッチなサウンドでかなり満足感がある曲です。
ぜひ最初のアルバムと今のこのアルバムを聴いて成長を感じて欲しいくらい今回は私自身このアルバムに魅了されています。
ゲストの使い方がうまい
ピアノトリオというスタイルにプラスアルファのサウンドを足すという形でテナーのクリス・ポッターとギターのギラッド・へクセルマンが参加しています。
2曲目はクリス・ポッターのメロディが映えるような曲でサックスソロも入っていますが、あくまでもジョーイのピアノトリオがメインになるようにクリスがいい感じで音楽のバランスを作っています。
アルバムトラックの真ん中の曲”Winter Blues”ではギラッドとクリス2人が入る感じでアルバムの山場を作っています。速い曲で盛り上げるというよりはバンドサウンドの厚みを出して全体的な盛り上がりを演出しています。
この曲はジョーイのフェンダーローズのセクシーでゴージャスなサウンドがするソロも見どころです。
よくよくこのメンバーを見るとサウンドが気持ちいいプレイヤーとして認知しているメンバーしかいないのでずっと耳が幸せですね。
9曲目の”Rise Up”はみんなのインタープレイから段々と曲になっていくジョーイが好きであろう展開から始まります。ここでのクリスとギラッドの掛け合いはライヴのようなバトルが繰り広げられるのでかなりの聴きどころです。
2人にやるだけやってもらって少し落ち着いてからテーマであろうメロディをピアノがリードしながら弾いていき、後からみんなが混ざり曲がクライマックスへ向かいます。
ゲストとしてのクリス・ポッターとギラッド・ヘクセルマンの活躍どころが本当にはっきりしていますし、根底にはピアノトリオというスタイルを大事にしているんだなというのがすごくわかるアルバムです。
新しいスタイルのピアノトリオ
さっきから何度も言っていますが感動しっぱなしでオリジナル曲がかなり魅力的です。
最後の曲は短いながらもこういう音楽を聴けて幸せだなと思ってしまうほど情緒ある曲で締めてきます。
人生何度目なんだと思ってしまうくらい音楽に深みがあって今回のアルバムはかなり素晴らしいです。
ジョーイの中にハービー・ハンコックのような複雑な理論も、チック・コリアのような明るいサウンドも感じますし、現代のピアニストであるブラッド・メルドーのプレイスタイルやテイラー・アイグスティのハーモニー感も彼から感じます。
美味しいとこどりというよりレジェンドプレイヤーと現代のベテランプレイヤーのエッセンスが混ざるとこんな音楽がするのかという新世代のサウンドです。
聴けば言っていることがわかるかと思いますのでぜひ聴いてみてください。超オススメです。