ジャズドラムの形を創りあげたマックス・ローチの特徴を解説

皆さんはお気に入りのアルバムやジャズプレイヤーはいますか?

あまりジャズを聴いたことがない人やこれからジャズを聴き始める人にとっては、どのアルバム、どのプレイヤーを聴けばいいのかわからないというのはアルアルですよね。

さまざまな名盤、名プレイヤーは数多く存在しますが、ストレートなジャズを抑えておくのも1つの聞き方です。

というわけで、今回はモダンジャズドラマーの元祖中の元祖マックスローチを紹介したいと思います。

マックス・ローチ(Max Roach)

マックスローチといえば、小人数編成のジャズコンボであるビバップが始まった時期に活躍し、その後のジャズの発展に寄与した名ドラマーの1人です。

この時代のジャズは、速い曲の中で、いかに速いフレーズが弾けるかというアスリート的な演奏方法が主流だったので、もちろんドラムにも速くてアグレッシブな演奏が求められます。

そして、マックスローチはこの速い演奏の中でも、ドラムが歌っているように聞こえる、という特徴を持っていました。

ドラムが歌うというのがよくわからないかもしれませんね。

これはそもそも音程がつかないドラムの演奏から、メロディが聞こえてくるというものです。

ドラムソロのフレーズは音程がないために曲やコードに関係なく使えるので、どんな曲でもどんな場面でも使えます。ちなみに、よく使うフレーズ(またはよく使われる流行りフレーズ)をリックと呼びます。

マックスローチは自分のリックをどの曲でも使いますが、曲のコード進行やメロディを聴き手に感じさせるように叩くので同じフレーズでも自然な流れでソロが進んでいきます。

あとで音源と一緒に紐解いていきますが、なぜそういうドラマーになっていたのかは彼の育った環境にありそうです。

マックスローチのバックボーン

1924年にノースカロライナで生まれて4歳になる頃にニューヨークのブルックリンに引っ越してきました。マンハッタンのすぐ隣の人気地区ベッドフォードという所に住んでいたので結構良いところの家みたいですね。

家族は音楽一家で母親がゴスペルシンガーをしていました。その影響でゴスペルバンドでドラムを始めることになります。

10歳になる頃にゴスペルバンドに入り、18歳の高校卒業する頃にピアニストのデュークエリントンのバンドに呼ばれて演奏しています。その1年後にはサックスのコールマンホーキンスとレコーディングをしてプロへの道を進むことに。

やっぱりゴスペル上がりというキャリアがあって、歌との関係は幼いころから自然と密接に関わってきています。

そしてエリントンとホーキンスは本当に歌い込むプレイヤーなので、プロとして最初のキャリアでこの人たちと関わっていれば歌うことがいかに大事か身を持って経験しているはずです。

当時はコンボでのドラマーは少なくて、もう1人ケニークラークというドラマーがいました。

その彼と同じシーンでいろんなミュージシャンとの共演をしながらビバップというスタイルのジャズを確立していきます。

ジャズを一緒に創ってきた共演者

ホーキンスとのレコーディング以降はさまざまなミュージシャンと演奏します。代表的なミュージシャンを挙げると、

  • チャーリー・パーカー(Alto Sax)
  • ディジー・ガレスピー(Trumpet)
  • バド・パウエル(Piano)
  • マイルス・デイヴィス(Trumpet)
  • クリフォード・ブラウン(Trumpet)

他にも、名前を挙げればジャズレジェンドしかいないような状況ではありますが(笑)、初期に関わったミュージシャンで言うとこのプレイヤーたちが一番最初に上がります。

チャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーとは、2人とも一緒のバンドでやることが多かったのでそのバンドでライヴレコーディングのアルバムを出しています。

バド・パウエルとマックス・ローチの相性もすごくよく、2人が共演している名盤といえばこれです。

バド・パウエル名義のアルバムで数回に分けてレコーディングをしていてメンバーも分けているので、マックス・ローチが参加している曲は「Wail」と「Dance of the Infidels」になっています。

「Wail」で途中マックス・ローチのソロが少し入っていますがやはりドラムだけなのにコード進行が聞こえてドラムのフレーズがメロディになって聞こえてきます。

マイルスとは名盤中の名盤である「Birth of the Cool(クールの誕生)」を一緒にレコーディングしています。当時のジャズの価値観を変える1枚ですね。

このアルバムは今までのアスリート的な吹きまくるビバップの流れと違って、少しメロディックに聴かせるアルバムになっています。普段のジャズスタンダードでよくあるテーマとソロだけじゃなくて、構成やホーンアレンジも少し凝ったものになっています。

少し吹きまくる要素もまだ残ってはいますが、明らかにビバップより響きがオシャレで尖っていない感じがします。

そして盟友クリフォード・ブラウンとは双頭アルバムを出して人気を集めました。この2人の「Cherokee」は、ジャズを演奏する者なら、誰もが最初に聴くような、よく知られた名演です。

マックスローチは、何枚かクリフォード・ブラウンとアルバムを制作しましたが、その後クリフォードは交通事故によって他界してしまいます。

とても悲しい別れですがその後はケニー・ドーハムというトランペットを入れて自己のアルバムに集中していきました。

ドラムだけで作った一曲

マックス・ローチはドラムの可能性を広げていき、ドラムだけの曲をレコーディングしています。タイトルは「For Big Sid」で「Drums Unlimited」というアルバムに収録されています。

 

ジャズの教科書があったら載っていてもおかしくない貴重なドラムソロの曲です。

最初に出てくるフレーズを繰り返したり発展させていったりすることによって曲に統一性を持たせています。

ただのフリードラムソロだと一貫性がないのが普通なんですが最初から最後までストーリー性があるのはマックス・ローチならではの持ち味です。ライヴでもやっている映像も残っています。

ライヴの場合でもしっかり最初のリズムを引用して演奏していて、オーディエンスまで巻き込んでしまう力がある曲です。

歌うドラマーといえばこの人となる理由が分かります。

マックスローチのドラムソロを深掘り

実際にいくつかドラムソロを聴いてみましょう。

全部通して聴いた方がいいですが、かいつまんで聴きたい方はドラムソロの始まる分数を書いておきます。

4:10あたりからドラムソロ始まります。

2:50あたりからドラムソロです。

3:10あたりからドラムソロが始まります。

どうでしょう? ドラムソロから聴き始めるとただのドラムソロに聴こえてはきますが、最初のテーマのメロディを聴いた後にドラムソロの部分に移ると、なんとなくマックスローチのドラムソロからメロディが聴こえてくるのがわかるかもしれません。

いわゆるサックスやトランペットのメロディみたいに聞こえるわけではなくドラムとしての歌い方です。

マックスローチのソロの取り方の特徴として、ある一定のリズムを何回かくり返すことで聴いている人に先のリズムを予測させるというものがあります。

何をやっているかを聴いている人は理解しながら聴いていくので、音が多いながらもソロがシンプルに聴こえます。

比較対象がいないとマックスローチのシンプルさがわからないと思うのでこの音源を聴いてみてください。

ドラムソロは3:10あたりからです。

このソロを叩いているのはエルヴィン・ジョーンズというドラマーですがこれを聴くとマックス・ローチのドラムソロのシンプルさがわかりますよね(笑)。

ちょっと極端な例ですがこういう感じで違います。

後に影響を与えたであろうドラマー

僕たち今のプレイヤーが、現在活躍しているプレイヤーに憧れるのと同じように、各時代の名プレイヤー達もマックスローチに憧れを抱く人は少なくありませんでした。

  • フィリー・ジョー・ジョーンズ
  • ビリー・ヒギンズ
  • トニー・ウイリアムス
  • ケニー・ワシントン
  • ブライアン・ブレイド
  • グレッグ・ハッチンソン

ほぼ全ドラマーが影響を受けているのは間違いないですが、上のドラマー達はプレイを聴く限り特に影響を受けている気がします。

なのでマックスローチはビバップの原点、ジャズドラマーの父のような存在です。

ジャズを演奏するにしても、聴くにしても、ルーツを知ることはとても大事です。

根っこがあるからこそ深く理解でき、さまざまに枝分かれしたジャズもわかるようになってきます。

名前は知ってても、あまりマックスローチを聴いたことがなければ、これを機にぜひ聴いてみましょう。



ABOUTこの記事をかいた人

野澤 宏信

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。