ビルエバンストリオの技術と美しさが創る「Bill Evans At The Montreux Jazz Festival」

こんにちは、野澤です。

今回もビル・エバンスのアルバムをご紹介していきたいと思います。

前回が初期の頃のアルバムだったので今回は後期の中からアルバムを1枚紹介したいと思います。

ビルエバンス「Bill Evans At The Montreux Jazz Festival」(1968年)

パーソネル

ビル・エバンス(Piano)
エディ・ゴメス(Bass)
ジャック・ディジョネット(Drums)

アルバムトラック

  1. One For Helen
  2. A Sleepin’ Bee
  3. Mother Of Earl
  4. Nardis
  5. Quiet Now
  6. I Loves You, Porgy
  7. The Touch of Your Lips
  8. Embraceable You 
  9. Someday My Prince Will Come
  10. Walkin Up

エバンスの相棒とも言われていたベーシスト、スコット・ラファロが交通事故で1961年に亡くなって以来、エバンスは固定メンバーではなく、いろいろなメンバーと演奏をすることとなります。

ジム・ホールやトニー・ベネット、またはカルテットでズート・シムズが入ったりすることもありましたが、紆余曲折を経てもやはりエバンスの代名詞とも言えるピアノトリオの編成に落ち着きました。

今回のこのアルバムはスイスで行われたモントルージャズフェスティバルのライヴ録音のアルバムで、やはりピアノトリオです。

このアルバム、なんと1968年のグラミー賞に選ばれました。

評価が高いということもありますが、その後のミュージシャンに影響を与えるような素晴らしいアルバムなので今回はこの1枚をピックアップしたいと思います。

若手強力メンバー x 名曲

メンバーはベースにプエルトリコ出身のエディ・ゴメス、ドラムにシカゴ出身のジャック・ディジョネットというこの時代では若手トップと言えるプレイヤーたち。

のちにエディはステップスアヘッドやチック・コリアのバンドメンバーへ、ジャックはマイルスバンドのレギュラーメンバーになるのですが、それはもう少し後のこと。

2人ともこのライヴレコーディング時点ではキャリアとしてはまだこれからというところなので、青い演奏を…、とはならず新人らしからぬベテランのような貫禄のある演奏をみせていきます。

そしてビル・エバンスがオハコとする曲がこのアルバムに多く収められています。

以前紹介したアルバムに入っている”Nardis”だったり別のアルバムからは「Conversation My Self」や「 Trio 64」にも収録されている”A Sleepin’ Bee”もこのアルバムに入っています。

“A Sleepin’ Bee”もですが”Quiet Now”や”I Loves You, Porgy”に”Embraceable You”など綺麗な曲が多く収録されているのがいいですね。この曲たちは後世に残る素晴らしい曲なのでぜひチェックしておきたいジャズナンバーです。

後期のビル・エバンスの事情

スコット・ラファロが亡くなった後のエバンスは悲しさとストレスに耐えきれずヘロインをやり始めて中毒症状もどんどんひどくなっていたそうです。

ヘレンという女性がエバンスのことをサポートしていて彼女に宛てた曲”One For Helen”も今回のアルアムの最初に収録されています。

演奏でお金を稼ぎ、ヘロインを買うためにそのお金を使い切る、という典型的な悪い方向に人生が進んでいってしまいましたが音楽は美しく感動的になっていったというのは皮肉な話です。

この時代のミュージシャンの多くがたどった、チャーリー・パーカーやチェット・ベイカーのような悲しい道のりをビルは歩んでしまったのですね。。

エバンスはヘロインで体と人生をダメにしながらもこのアルバムで綺麗なメロディとハーモニーを紡いでいきます。

エバンスのプレイスタイルを底上げしたメンバー

スコット・ラファロが亡くなって以来さまざまなプレイヤーと試すように演奏活動をしていき、ようやくこのベーシストだと思えたのがエディ・ゴメスだったそうです。

ラファロのような高音のプレイに繊細さもありますがそれに加えて力強さと音のノビ、しなやかさがあります。

主張もしっかりしてバンドの中心になるようなプレイも”Embraceable You”でみせていきます。ピアノソロでのインタープレイもスコット・ラファロを思わせるような自由なプレイで音楽が自在に変化していきます。何よりエバンスが弾いていて楽しそうなのがこのアルバムから伝わってきますね。

ドラムのジャック・ディジョネットもポール・モチアンのような自由さがありつつもロイ・ヘインズやエルビンのようなフィールがあったりフィリーのような安定感をみせるシンバルレガートの場面があったりバランス感覚がいい演奏が光ります。

2人とも過去のプレイヤーを尊敬して完成したプレイスタイルをしていますね。

歴史が積み重なって進化していく、これこそがジャズだと思うのでその瞬間を垣間見れるような演奏を聴けると現代人である私たちも嬉しくなります。

オーディエンスをそっちのけで3人でセッションして楽しんでるかのような楽しさがこの音楽にはあります。

エバンスがそう思えるようなプレイヤーはなかなかいなかったのではないかと思いますが、エディ・ゴメス、ジャック・ディジョネットの功績でこういう素晴らしいアルバムができ、こういった演奏を現在でも聴けることに感謝です。

アルバムの一押しポイント

ライヴ版ということで演奏の勢いは強いです。前回紹介したアルバムとは反対になるようなプレイスタイルですがバンド全体的なインタープレイの仕方は似ています。アンサンブルのコンセプトは変えずにサウンドがパワーアップしたような感じでしょうか。

その要となったのがエディ・ゴメスのプレイでしょう。このグイグイ主張してくるようなベースは以前になかったので、ベースに反応するビル・エバンスの積極的なプレイも今回のアルバムの聴きどころです。

曲で面白かったのが”Someday My Prince Will Come”でした。

3拍子で始まってアドリブになるとなぜか4拍子になります。そしてその後は1コーラスごとに3拍子と4拍子を交互に混ぜながら進んでいきます。

この構成を実際に採用するとどこを演奏しているのかわからなくなりそうですね。。

しかもこの3人はとんでもない速さでインタープレイを行い、また自由自在にやってのけるので途中どっちの拍子でやっているかわからなくなる瞬間もあります。

とてつもない音楽力とテクニックが垣間見えます。

みんながよく知っている曲でこの高度な演奏、個人的にはこの曲を聴くのが面白いです。

アルバム最後の曲は”Quiet Now”をソロピアノで演奏しています。

この曲はメロディやコード、構成のどれをとっても美しくすごく完成された曲です。転調も何回もしたりして難しい曲なんですが見事に弾きこなしています。

アルバム中、必聴です。

後期になってから身体もメンタルもボロボロでしたがピアノを弾けば現実から離れて音楽の中で輝くプレイをしていました。その姿は悲しいながらも、聴くと感動するような気持ちが溢れてきます。

このアルバムも改めて聴くとものすごく勉強になりました。

勉強するために音楽を聴いているわけではないですがインタープレイの仕方やフレーズの主張の仕方など個人的にはなるほど! と体感できた貴重なアルバムです。

こんな素晴らしい音楽を残してくれありがとう! ビル・エバンス!



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。