なぜ楽器店の店員さんはトランペット初心者に安易にプラクティスミュートを勧めるのか

昨年末、トランペットを始めたばかりの複数の生徒さんからこんなお話が。

「トランペットを買うときにプラクティスミュートを勧められたので、店員さんの勧めるまま買いました」とのこと。

その際の売り文句は「これがあれば家でも練習できますよ」

この言葉に間違いはありません。プラクティスミュートさえあれば家でも練習することはできます。

ただし、プラクティスミュートをつけた状態での練習で、初心者の方がいち早く上達できるとは思えません。なぜなら、プラクティスミュートには思わぬデメリットが存在するからです。

今回はプラクティスミュートの使用に関する注意点と、それに絡めて管楽器奏者の練習場所問題についても少しだけ書いてみようと思います。

そもそもプラクティスミュートとは

プラクティスミュート装着トランペット

 

プラクティスミュートとは、家の中や楽屋など、大きな音を出しては困る場所でも管楽器を吹き、ウォームアップちょっとした練習に用いられる目的で使われるものです。

ミュートといえばストレートミュートカップミュートなどが存在しますが、それらは音色を変えるために用いられるものであり、プラクティスミュートとは根本的に使用目的が異なります。

ちなみにサックス用のプラクティスミュートなるものも市販されているようですが、僕は使ったことがありませんし、それに関する評判も聞いたことがないので今回言及することはありません。念のため。

プラクティスミュートにはさまざまな種類があり、アルミ製プラスティック製、そしてヤマハやベストブラスが販売しているような機械を埋め込んだタイプまで存在します。

いずれにしろ、ベルの先に詰め物をして音を小さくするという原理のアイテムです。

プラクティスミュートのメリット、デメリット

 プラクティスミュートのメリットとしては当然音を小さくできるので家でも練習ができるという点が挙げられます。

これは昼間仕事をしていて、夜しか練習ができないという方には大きなメリットとなるでしょう。

ほかにも、本番直前にウォームアップをする時間が取れなかった場合に控え室などで軽くウォームアップするためにも有効です。

 一方、デメリットとしてはプラクティスミュートの構造上、楽器を吹いたときの抵抗がとても強くなってしまうということが挙げられます。

最近では抵抗が少ないと謳うものも販売されていますが、それでも何もつけずにオープンで吹くのに比べれば、かなりの抵抗があるのは否定できません。

プラクティスミュートの実際の影響

吹いたときの抵抗がオープンのときより強いことによって、まず音程が悪くなってしまいます。チューニング管を抜いて対応するにしても、音域によってズレ具合が異なる場合があるので正直あてになりません。

次に––––これが最大のデメリットなのですが––––演奏者は少ないブレスで、もしくは上半身を必要以上に力ませて楽器を吹く癖がつきやすくなります。

特にこの傾向はまだ効率の良い身体の使い方で楽器を演奏することのできない初心者から中級者くらいにかけて顕著に表れます。

こうなってしまうと、オープンで吹いたときにも力まないと高い音を吹くことができなくなったり、小さなブレスで楽器を吹くことが習慣づけられてしまうため、効率の良い奏法を身につける大きな妨げとなってしまいます。

実際に私の教室の生徒さんにも「もはやプラクティスミュートをつけてないと調子が悪いんだよね」という笑うに笑えないコメントをしてくれた方もいましたが、プラクティスミュートでついてしまった癖を修正していくためは正しい知識と少なくはない時間を必要とします。

プラクティスミュートは使ってはいけないのか

 とはいえ、プラクティスミュートの使用が必ずしも悪だというわけではありません。

これまで書いた通り、プラクティスミュートの使用にはデメリットがつきまといます。

しかしそのデメリットを理解した上でプラクティスミュートを使って、限定的な練習をすることは普段から練習環境を確保することのできない人にとっては大きな助けとなるはずです。

冒頭で、楽器屋さんが初心者に対して安易にプラクティスミュートを勧めるのに憤ったのは、このデメリットを購入者に一切説明していないことが多いからです。

楽器店の店員は、楽器とそれに類するものを取り扱う、いわばプロフェッショナルなのですから、その程度の説明をきちんと伝えられないというのはどうなのでしょうか。

某靴チェーン店で靴を買うと、必ず防水スプレーを勧められますが、あのノリでプラクティスミュートを初心者に勧めているとしたらたまりません。

プラクティスミュートを使う際に最も大切なことはプラクティスミュートによる練習はオープンでの練習とは全く違うという意識を持とうということです。

こんなことは考えてみれば当たり前なのですが、普段やっている練習や曲の演奏をプラクティスミュートをつけた状態で、そのまま同じように吹こうとすると、この記事に書いたようなデメリットの影響をもろに受けてしまうことにつながります。

ですから、プラクティスミュートでの練習は練習場所や時間のないときのための、あくまでやむを得ない措置であるということを念頭に置いて練習しましょう。

やむを得ない措置なのですから、プラクティスミュートを使った練習だけでめきめき上達しようという考えも捨てましょう。下手にならないようにするか、ほんの少しだけ上達すれば良い程度のものと考え、あくまで本格的な上達を目指すのであればオープンで吹くことのできる状況をたまにで良いので設けるようにするというのが基本です。

プラクティスミュートと上手に付き合うためのキーワード

 具体的なキーワードは以下の通りです。

  1. リラックスして大きくブレスをし
  2. なるべくシンプルな練習を
  3. 優しく
  4. 空間によく響いているかよく確認しながら

1の「大きくブレスを」は、オープンで吹いている時でも非常に強く意識しなければならないことですが、詳しく書くとあまりにも記事が長くなりますので割愛します。

ただこれはプラクティスミュートでの練習に限らず、全ての管楽器を演奏する上で非常に重要です。また、恐ろしいことに最も意識から抜け落ちやすいことの1つです。

いかにミュートをつけた状態での練習であろうと、これを常に意識して吹く癖をつけるだけで多くの人は上達が見られると思います。

2の「なるべくシンプルな練習を」は、プラクティスミュートをつけているというある意味特殊な状況で練習するのですから、あまり難しいことには挑戦しないでおこうということです。

この状態で難しいフレーズやテーマを吹くことができたとしても、抵抗の少ないオープンの状態でそれを再現できるとは限りませんし、プラクティスミュートのデメリットに対するリスクが高まります。

もちろん奏法に自信のある方は遠慮なく挑戦してもいいと思います。中には、トランペットであればリップスラーを練習するときに一時的にプラクティスミュートを利用する練習方法もあるといえばあります。個人的にはミュートの影響でピッチが悪くなるのが気になるのであまり難しい練習はやりませんが…。

ロングトーンと簡単なリップスラー、そして無理なく吹くことのできるゆっくりめの曲、これだけで30分くらいは練習できるのではないでしょうか。

3に関しては、オープンに比べてはるかに抵抗の強い状態で吹くわけですから通常と同じように息を吹き込んでしまうと自然と体が力んでしまいます。

もし1と矛盾するじゃないかと思われた方はもう一度文章を読み直してみてくださいね。冒頭の方に書いてあります。

4は3とも関係しますが、息を優しく吹き込んだときに、ミュートや楽器が効率よく振動していることを確認しながら吹くようにしようということです。

試しに強めに息を吹き込むと音は大きくなりますが、振動はさほど大きくなったようには感じないでしょう。

吹きながら身体が楽でなおかつ楽器やミュートがよく振動するポイントをよく意識しましょう。

またトランペットから直接聴こえてくる音だけでなく、練習している部屋の壁に当たって跳ね返ってくる音をよく感じるようにしましょう。

おそらく自分が思っているよりもはるかに少ない力で吹いた方がうまく感じられるかと思います。

以上4つのキーワードを挙げてみましたが、これらをよく意識して練習することによってプラクティスミュートのメリットを生かした練習が可能になるだけでなく、オープンでの練習をする時にも役立つものです。

ただし、繰り返しになりますが、ミュートをつけた状態だけでなく、たまにオープンでも練習するということが大前提です。

プラクティスミュートによる練習だけで上達しようなんて考えてはいけません。

 

プラクティスミュートとハーマンミュート

 

余談ですが、自宅で練習するときに必ずプラクティスミュートを使うのではなく、例えば昼間であればハーマンミュートを使うという選択肢もあります。ご自宅が一軒家などであればもしかしたら夜間でも練習可能かもしれません。

ハーマンミュートであればプラクティスミュートに比べて若干音は大きくなってしまいますが、その分抵抗感も少なくデメリットが薄れるので練習効率は上がることになります。

ハーマンミュートはそこそこ値段がしますが、そもそもこちらは演奏用として使えますし、ジャズを演奏するのであれば持っていて損はありません。

というわけで、はじめからプラクティスミュートを買うのではなくハーマンミュートで試してみてからでも良いのではないでしょうか。

管楽器奏者の練習場所の問題

そもそも状況が許すのであればなるべくプラクティスミュートなど使わずオープンで練習するのが一番です。

管楽器の練習ならわざわざ使用料の高いスタジオなどを利用しなくともカラオケ店や、暖かい時期なら河川敷や広い公園でも可能です。
(カラオケ店の練習は禁止されている店舗もあります。お店側に確認しましょう)

毎回というのが難しければ普段はミュートを使い、週に一回くらいはカラオケ店などでオープンで気持ちよく練習。これくらいなら実行できる方は少なくないのではないでしょうか。

もちろん、私の教室にレッスンに来ていただければ、練習室で思い切り吹いていただくことも可能です(笑)。

冗談はさておき、大切なのはバランスです。

オープンかミュートかどちらか一択ではなく、その人に合った練習スタイルを組み合わせて実行することによって、より効率の良い練習が可能になります。

ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。