ジャズにおけるトランペットの役割を、実例付きで考えてみる

トランペットとジャズ

ジャズにおけるトランペットの役割とは、どんなものでしょう。

コンボという編成にかぎって言えば、ジャズの演奏はピアノトリオ(ピアノ、ベース、ドラム)での演奏が人気です。

なんだったらピアノソロでも十分成り立ちます。

ではそこにトランペットが入り込む意味とは何なのでしょうか。

単に管楽器が入っていた方が見栄えがいいから? それともサウンドが派手になるから?

ジャズの聴き方は人それぞれで、余計なことを考えずにシンプルな聴き方をするのはとてもいいことですが、ここではあえてもう少し踏み込んだ考え方をしてみましょう。

こういう聴き方が正しいとかこういう風に聴くべきとかいう話ではありません。

あくまでもジャズを聴くときに、こんなことを考えてみると今まで見えなかったものが見えるかもよ? ということです。

結論を言ってしまえば、トランペットという楽器ほどジャズに向いている楽器はないと思います。

自分がトランペットを演奏するからってひいき目が過ぎるかもしれませんが、今回はそんな偏愛に満ちた記事をお送りしたいと思います(笑)。

トランペットという楽器の特徴

まずトランペットという楽器をジャズで一般的に用いられる他の楽器と比べたときにどのような特徴があるか考えてみましょう。

  1. (基本的に)単音しか吹けない
  2. ロングトーンが出せる
  3. 一度に吹くことのできる音の長さは呼吸に依存する
  4. 声のような音色、操作性

他にも細かいところまで探し出したらきりがありませんが、とりあえずはこの4つに絞ってみたいと思います。 一つずつ考えてみましょう。

1.単音しか吹けない

一応特殊奏法として重音奏法というものが存在しますが、ここでは例外としておいておきましょう。

単音しか吹くことができないのですから、何かの和音を演奏して演奏の流れを強引に変えていくということができません。

そもそも和音=コードというものはアンサンブルの中で非常に強大な力を持っています。

アンサンブルの中で思いきり1つのコードをガツンと鳴らされたら、単音しか出せない楽器でそれに抗うことは困難です。

例えばピアノとトランペットが同時に全く別々のコードを想定して演奏したとすれば、聴いている方からするとなんだかトランペットが変なことやっているなという印象を与えることが多いでしょう。

トランペットを演奏している側からしても演奏中に鳴らされたコードに逆らって演奏するということは難しいことです。

コードを自分で演奏することができれば演奏の流れのなかで非常に強い主導権を発揮し、自分の意図した方向へ演奏を持っていきやすいとも言えます。

例えば「シーツオブサウンド」と呼ばれるコルトレーンの演奏などは単音しか吹けない楽器なのにもかかわらずアルペジオなどを用いて擬似的にコードを演奏しているように聴かせ、その擬似的に鳴らしているコードを自分で少しずつ変化させたりすることによって演奏の中で強い主導権を発揮しています。

こちらはマイケルブレッカーによるNaimaの演奏ですが、ここで書いていることがよく分かるかと思います。

さて、コルトレーンもブレッカーもテナーサックスです。

トランペットという楽器ではその楽器の構造上、サックスのように演奏するのは困難です。

いえ、決して無理ではありませんが大変です。できたとしてもサックスと同じ土俵に立つことになるだけです。

自分で直接できないのであれば他の人にその流れを作ってもらうしかありません。

そこで役に立つのがアンサンブルする能力です。

マイルスデイビスが凄いと言われる理由の1つにこの能力が挙げられます。

以前も紹介した音源ですが、1曲目のAll of Youだけを聴いてみてもコルトレーンがさまざまな音をちりばめるのに対してマイルスはスペースを多用しています。

やりたいことを全て自分でやるのではなく、共演者に「僕はこんな感じが欲しいんだ」もしくは「これくらいの範囲で好きなことをして欲しい」とメッセージを発してお膳立てしてもらい、そしてその上に自分が乗っかる。

こういったやり方は自分が直接手を下さずとも目的を達成し、しかも自分で直接やる場合より数倍も大きな効果を得ることができるというのがメリットです。

このやり方はいわゆる楽器の演奏テクニックではどうにもならず、ひたすらアンサンブルに対する感覚を研ぎ澄ましていくしかありません。

そのうえ共演者がこちらの発するメッセージに気づいてくれなければそれで終了というデメリットもあります。

マイルスが共演者選びに、そして自分のバンドに入れてからも非常にシビアだったのもうなづけます。

音楽を演奏するうえでどんなに多くの音を出そうと、どんなに難しいコードチェンジを演奏できたとしてもアンサンブル能力がなくては話になりません。

楽器のめちゃくちゃ上手い人たちが集まってお互いに独り言をしゃべり続け、結果として何も起こらないような演奏か、舌足らずだけどもお互いに上手くコミュニケーションが取れていて、演奏が進むにつれて予想も付かない展開をしていく状態、どちらが聴衆の心を動かすのかは明らかです。

ジャズにおけるトランペットという楽器はその楽器の特性からして、はじめから楽器単体の力に依存するのではなく、アンサンブルを最大限に活かすことを宿命づけられている楽器と言うこともできるでしょう。

2.ロングトーンが出せる

電子楽器を除き、ピアノやベース、打楽器は鍵盤や打面を叩いた瞬間がその音の最大音量です。

トレモロでも用いない限りは、一度音を出したら減衰していく一方なのです。

しかしトランペットを初めとする管楽器は単一の音を伸ばすことができるだけでなく、音の始まりを小さく、そしてだんだん大きくクレッシェンドしていくということも可能です。

管楽器奏者からすれば当たり前のことなのですが、これができるのとできないのではバラードからアップテンポまでさまざまな曲を演奏するうえでかなり大きな表現上の差が出てしまいます。

ギターやシンセサイザーではその違いを意識して音作りをしているように聴こえることがあります。

カートローゼンウィンケルをはじめとする近年のギタリストは音の出だしだけを消すテクニックを用いたり、パットメセニーのこんな演奏も分かりやすい例かもしれません(メセニーのソロは1分40秒ごろから)。

3.一度に吹くことのできる音の長さは呼吸に依存する

「アドリブのワンフレーズは大体一呼吸で区切ると良い」という言葉、聞いたことあるでしょうか?

たまにお経のようにワンフレーズを長ったらしく演奏してしまう方がいますが、大抵の場合はその間他の共演者とのコミュニケーションが途切れてしまっています。

例えるならば4人で仲良く話をしているのに突然1人だけ喋りだして他の人が口を挟む余地が全くなくなるという感じでしょうか。

これではアンサンブルが成立しているとは言いがたく、そこから演奏の流れがダイナミックに発展していくとはちょっと考えづらくなってしまいます。

そうならないためには上に書いたアドバイスが有効なのですが、呼吸を使って音を出す管楽器では基本的にこのルールに従わされることになります。

個人的にはギターやピアノに多い気がするのですが、「お経プレイ」をしている人を見るとトランペットならそんなことはないのになと思ってしまいます(笑)。

4.声のような音色、操作性

2.3番目の特徴はトランペットに限ったものではありませんでしたが、トランペットという楽器はその中でも特に肉声感のある音色を産み出す事ができます。

トランペットを演奏したことのない方にはピンときづらいかもしれません。

しかしロイハーグローブやウィントンマルサリスの演奏を聴いていただければ納得していただけるでしょう。

単に音色の「肉声っぽさ」というだけでなく、トランペットをコントロールするためには歌を歌うのとそっくりな頭と体の動きが必要になります。

ですからトランペットを演奏するときは本来メカニカルなことを考えるのではなく、歌を歌うように思考することがキーとなります。

もちろんそこへ至るまでには長い道のりがあるのですが(笑)。

そしてジャズにおけるアドリブも同様です。

当然音楽理論などは軽視できませんが、最終的には歌を歌うようにアドリブし、アンサンブルの一部となることが理想的な状態です。

ここまで書いてみるともはやトランペットはジャズのために存在するとしか思えません!!!  

というわけで良い機会だったのでトランペット愛をぶちまけてみました。

他の楽器にもその楽器の良さがあるのですが、正直トランペットに比べちゃうとね~…。 …とまあ今回はここら辺にしておきます(笑)。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。