エルビン・ジョーンズのスタイルは、それまでの概念を打ち壊すものだった

エルビンジョーンズ

前回はトニーウイリアムスについてお話ししましたが今回は同時期に活躍していたドラマー、エルビン・ジョーンズをオススメしていきたいと思います。

エルビン・ジョーンズといえばジョン・コルトレーンのカルテットで活躍したドラマーとして有名ですね。

私の場合コルトレーンのカルテットといえばこの動画の演奏が真っ先に思い浮かびます。

この演奏を見るとメンバーそれぞれの音楽を最大限この空間に集め、エネルギーを創っているかのように感じます。

目に見えなくても音の熱量が伝わってきますし、後半になるとメンバーそれぞれから湯気が出ていてどれだけ音楽に力を注いでいるのかがわかりますよね。

エルビンもこのようにバンドにエネルギーを与えるようなドラムを叩きますが、トニーともだいぶスタイルが違います。

まずはエルビンがどういうスタイルのプレーヤーであるのか見てみましょう。

エルビン・ジョーンズのプレイスタイル

エルビンはうねりがあるしなやかなドラムを叩きます。

言葉で表現しづらいですがアクセントや音の粘りが関係していると思います。

彼はアクセントを裏拍や4拍目によくつけます。アクセントをつけることによってリズムの重心が上がったり下がったりするので予測不能な面白いグルーヴになるんですね。

トニーも同じスタイルの演奏を行っていますが、エルビンはさらに音の最後まで粘りがありフレーズの一音一音がつながって波のように聴こえます。

そして、ソリストがこの波にうまく乗ってソロを展開していくんです。

また、トニーがハイハットを4部音符で踏んでいたのとは真逆で、エルビンはハイハットを自分が必要だと思ったタイミングでしか踏みません。

よくジャズドラムにはライドシンバルのリズムパターンが“チンチキチンチキ”でそれに2,4拍目に踏まなければいけない、という暗黙のルールがあるように思われていますが、実際にはそのようなルールはありません。

そうじゃないとジャズじゃないと、それまでみんなが勝手に思いこんでいただけなんです。

「みんなが信じているそんな概念を崩してやる!」という感じでエルビンは自分のスタイルをジャズ界に提唱しました。

そもそもなぜそう思ってこのプレイスタイルを取るようになったのかは彼の兄弟に関係していたようです。

ジョーンズ3兄弟

エルビンには2人の兄がいてハンク・ジョーンズサド・ジョーンズという、これまたすごいジャズプレーヤーの2人です。

ハンク・ジョーンズはレスター・ヤングやキャノンボール・アダレイと共演するような正統派ジャズピアニストで、サド・ジョーンズはカウント・ベイシーオーケストラで活動したりサド・メル・ビッグバンドでも有名です。

優秀な兄弟2人を見て同じようなスタイルを練習するのではなく「自分は違うスタイルでジャズをやってやる」と思ったそうです。

そんな思いを胸に高校でのマーチングバンドで経験を積み、軍隊で働いてお金を得て(妹からもお金を少し借りて)自分のドラムセットを買いました。

誰かに専属的に師事することはなく、ほぼ独学でドラムを始めます。

そのとき、譜面に出てくる休符は「ウン!」と発声するように、しっかり数えながらやっていたそうです。

自分の声を使って休符を感じることで、ドラムのサウンドに自分のキャラクターが乗り、そこから特有のリズムを感じる粘り強さがきている気がします。

キャリアのスタート

1949年ごろからデトロイトで独自のプレイスタイルで演奏をおこない、ジャズの帝王マイルス・デイビスと演奏したり、さまざまな有名プレイヤーとも共演しました。

1955年にはニューヨークに拠点を移し、手始めにベニーグッドマン楽団のオーディションを受けましたがプレイスタイルが向かないためか落ちてしまいました。

その後、ベニーグッドマンとはかけ離れたプレイスタイルである、ベーシストのチャール・ミンガスや、これまたさまざまなコンボで活動しているジャズミュージシャンたちに目をかけられ、名声をどんどん上げていきます。

オススメのアルバム

コルトレーンバンドに入るまでの期間

コルトレーンのバンドに加入するのは1960年ごろからですが、それまでにエルビンがレコーディングに参加したオススメアルバムを紹介します。

■ポール・チェンバース「Paul Chambers Quintet」(1957年)

スタンダードナンバーの“Softly As a Morning Sunrise”や“What’s New”も収録されているベーシストのポール・チェンバースのアルバムです。

ポール・チェンバースといえばマイルスバンドのときにコンビを組んでいたドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズが思い浮かびます。

フィリーとエルビンは全く正反対のスタイルで、フィリーがパキパキ機敏なスタイル、エルビンがしなやかなスタイルです。

そのため、この組み合わせは面白いですよね。この頃からエルビン節はきいていますがまだ少しあらさがあります。

このアルバムはかっちりと打ち合わせとリハーサルを行ったアルバムというよりも、割とセッションに近い感じの演奏です。

ただ、それを引き締めるようにソフトリーではポールチェンバースがテーマのメロディをとってベースソロのみだったり、曲のいくつかのソロを短めにしたりと、アルバム全体の流れを決めて収録しているように聴こえます。

■ソニー・ロリンズ「A Night At the Village Vanguard」(1957年)

今では歴史ある老舗のライヴハウスでの演奏です。

ニューヨークのジャズクラブ、ビレッジバンガードで初めて収録されたライブアルバムとしても有名ですね。

ソニー・ロリンズのアルバムとしてとても有名で、ジャズ初心者なら絶対聴いておきたい1枚です。

テナーサックス、ベース、ドラムというコード(和音)を弾いてくれるプレイヤーがいないコードレストリオの編成で、ロリンズがとても自由にプレイしています。

それに影響されるようにエルビンのドラムもいつまでも流れるようなグルーヴを作っています。

少し、アート・ブレイキーやフィリー・ジョーから影響を与えられているように感じられますが、エルビンのサウンドではそれがオリジナリティに聴こえてしまうのはさすがです。

あるテイクでは、他にもう1人ドラマーが収録されているので、どう違うのかも聴き分けながら楽しめますね。

■フレディ・ハバード「Ready For Freddie」(1962年)

トランペッターのフレディ・ハバードのアルバムです。

この頃から、エルビンのサウンドは大きく洗練され、その後のコルトレーンバンドでの演奏につながっているように感じられます。

4曲目のBirdlikeは、特にグルーヴがどんどん増していく感じがいいです。

左手のコンピングが3連符を感じさせるような叩き方で、ハイハットを最初は2,4拍目で踏んでいますがソロになると自由に変化させています。

コルトレーンバンドでのオススメアルバム

コルトレーンのバンドでのレコーディングはここで全部あげるとキリがなくなってしまうので、超超名盤の「My Favorite Things」と「A Love Supreme」は除きます。知らなかったという方はこの2枚はマストアルバムです。

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ワーナーミュージックジャパン

■「Coltrane’s Sound」(1960年)

エルビンに注目するだけはなく、コルトレーンのアルバムとしても必聴の1枚です。

どの曲も現代まで知られるような曲とアレンジばかりで、プロのジャズミュージシャンもこのアルバムの曲のアレンジのスタンダードを選んだりする人も多いという1枚です。

特に1曲目の“A Night Has A Thousands Eyes”のブリッジは、コルトレーンチェンジというジャイアントステップスのコード進行を用いたアレンジになっています。

他に“Equinox”や“Liberia”もエルビンのこの独特のリズムが曲のスタイルとして認識され、多くの人がこの曲らをやる時は最初からエルビンの感じが混ざります。

■「Live! At the Village Vanguard」(1961年)

コルトレーンバンドが、コルトレーン(T.Sax)マッコイ・タイナー(Piano)、レジー・ワークマン(Bass)、エルビン・ジョーンズ(Drums)という構成だった際のアルバムです。

ライヴ版で、1曲あたりの時間は長いですが、そのどれもがとても白熱したアルバムです。

“Softly As a Morning Sunrise”はセッションの定番曲すぎて個人的にそこまで好きではないのですが、このテイクは今まで聴いた中でもダントツにかっこいい。

1962年以降はベースがジミー・ギャリソンに変わり、それからメンバーが固定になります。

■「Crescent」(1964年)

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ユニバーサル

コルトレーンバンドとしては9枚目か10枚目のアルバムです。

この頃マイルスバンドのアルバムもダークな雰囲気になりますが、コルトレーンのバンドもまた違った方向でダークで深いアルバムです。

唯一3曲目の“Bessie’s Blues”だけ普通のブルースで明るく感じます。そしてエルビンとベースのジミー・ギャリソンとのグルーヴの合い方がとても気持ちいいのでぜひ一度聴いてみてください。

アルバム全体的なコンセプトで言うと、テーマでのテンポは自由にしてメロディの動きにみんながついていきます。

テンポを感じさせないことによって教会のお祈りのときの音楽のように、もっと広がりを持たせて曲の雰囲気をつくっています。

エルビンは拍を明確にだすより、拍を感じながらその上で自由にプレイするスタイルなのでコルトレーンのコンセプトにとてもフィットしていました。

そしてアルバム最後の曲はエルビンのソロを中心に曲が進んでいき、ここでエルビンの本領が発揮されています。

■「One Down One Up, Live At the Half Note」(1965年)

ラジオ番組用のライヴレコーディングでしたが、コルトレーンの息子ラヴィ・コルトレーンがプロデュースして2005年にアルバムとしてリリースされました。

コルトレーンバンドとしてはだいぶ後期の方なので、バンドとしてもエルビン自身も前期よりもかなり洗練されています。

洗練といっても綺麗にまとまっている感じではなく、荒々しさがもっと増してエルビンとしてのスタイルが確立されているという印象です。

右手のライドシンバルだけはなく、ドラムセット全体でグルーヴを作るスタイルです。そのため、すべての音が混ざって音の塊になりバンドをプッシュする力が超強力です。

今回は初期から、コルトレーンバンドでエルビンが活躍するまでの間で個人的オススメアルバムを紹介してきました。

エルビンはこの後自身のバンドで飛躍的な活動をしたり、中期と後期のオススメアルバムもお伝えできていないので、次回も引き続きエルビンを特集していきたいと思います。

お楽しみに!



ABOUTこの記事をかいた人

野澤 宏信

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。