まさに”カッティング・エッジ” アンブローズ・アキンムシーレ

皆さまご無沙汰しておりました。

中国武漢を発端とする新型コロナ禍の影響や、身内の不幸が重なりしばらくぶりのアップとなりました。

原稿に向き合うという作業が久しぶりなため、これまで以上に苦しみながら書き上げました。

原稿書くのってこんなにしんどかったっけ…。

ぜひ最後まで読んでってください。

最先端のトランペットプレイヤー

というわけで今回はアンブローズ・アキンムシアについてです。

※Ambrose Akinmsireというスペリングで本来はアキンムシアとかアキムシアと発音されるのですが、日本ではアキンムシーレと表記されることが多いので一応タイトルだけはその表記に従います。

僕がニューヨークにいたころにも何度か見たことのあるトランペットプレイヤーで、まさにジャズトランペットの最先端とも言える演奏スタイルが特徴です。

もちろん彼以降にも、さまざまな新進気鋭のトランペッターが現れてはいますが、少なくとも僕の知る限りでは彼は最も進んだ演奏スタイルを持つトランペットプレイヤーのひとりであると思います。

彼の演奏スタイルを短時間で知っていただくために丁度いい動画です。

第一印象としては乾いた音色と難解なフレージングが特徴。

ちなみに使用楽器はマーティンコミッティにモネットSTC-1 B2 Classicという変わった組み合わせです。

最先端である理由

少し聴いて分かる通りアキンムシアの演奏スタイルは確かに独特です。ついでに言えば彼のオリジナル曲もジャズという括りに捉われず、幅広い分野から着想を得て創られています。

しかし独特の演奏スタイルを持つから「最先端」であるというのはさすがに安直で、ジャズ以外の音楽の影響を受けたオリジナル曲なんて昔から掃いて捨てるほど存在します。

しかしそれでも僕が彼を最先端のトランペットプレイヤーのひとりであると考える理由は以下の2点です。

1.トランペットという楽器を演奏するときに比較的困難とされる、インターバルの大きな音の跳躍を多く、複雑に含んでいる。

2.従来はインターバルの大きい跳躍を比較的素直なコードトーンのアルペジオやそのアッパーストラクチャートライアドなどに用いることが多い(例えばウディ・ショウなど)。しかしアキンムシアの場合はそれに限らず(=ハーモニーを表現することのみに重きを置かず)、独自のメロディラインを表現するためにも用いている。

……なんだかちょっと難しい書き方になっちゃったので、伝わるかどうか自信がなくなってきました…。

この2点だけであればウィントン・マルサリスも当てはまります。

マルサリスの場合は彼の出身地であるニューオーリンズのトラディショナルなジャズを背景としているのに対し、アキンムシアの場合はコンテンポラリーやヒップホップからの直接的な影響を強く匂わせます。

そして両者を比較するとマルサリスの方がまだ口ずさみやすいメロディの割合が多いのに対し、アキンムシアのアドリブソロはメロディライン的にもハーモニー的にも難解で、これを正確に口ずさむことはかなり難しいでしょう。

トランペットという楽器にとっての難解なメロディラインとは

重要なことなので少し横道に逸れます。

まずトランペットという楽器をまともに演奏するためには、これから演奏することを頭の中ではっきりと思い描いていなければなりません。

もちろんピアノやギターなどの楽器も突き詰めれば全く同じことが言えるのですが、トランペットの場合はその傾向が特に顕著で、吹きたい音をイメージしていなければたとえ指づかいが合っていたとしてもミスする確率は非常に大きくなります。

例えばピアノであればドの鍵盤の位置さえ分かれば誰だって一応はドの音が出ます。

トランペットの場合でも音をイメージしなくともたまたまドが出ることはありますが、人によってはソが出たり1オクターブ高いドが出たり、もしくは低くてなんだかよく分からない音が出ることもあります。

僕が普段行うレッスンでも、うまく狙った音を出すことができない人に対して声で歌わせてからリトライすると成功率はグンと上がりますし、逆にトランペットが吹けても声で正しい音を歌うことができない人はほとんどの場合、トランペットの演奏に致命的な問題を抱えています。

※ちなみに音痴だからトランペットはちょっとという方、音痴は聴覚と声帯に問題がなければ100%改善しますからご安心を。

つまりトランペットという楽器を演奏するためには多かれ少なかれ、プレイヤーが演奏したい音を頭の中でイメージしておく必要があるのです。

音の跳躍という足かせ

ところで音が上や下へ激しく移動するメロディって歌いづらいですよね?

実感できない方はAutumn LeavesとInner Urgeをゆっくりで良いのでハミングして比べてみてください。

特にトランペットを演奏する場合にはそういった幅の広い音の跳躍は技術的に難しいものです。

ですからほとんどの場合、トランペットという楽器を用いてアドリブする際には自然と演奏しやすい=跳躍幅のあまり広くないメロディラインを描きがちになってしまいます。

一方アキンムシアの場合は、頭の中でイメージしづらい非常に難解なメロディラインをイメージするだけではなく、そのイメージを構築する際に音の跳躍という、誰もが影響を受けてしまう縛りを比較的受けていない点で今までのトランペットプレイヤーたちと大きく異なるのです。

しかも難解とは言ってもほとんどの作品ではフリーとは異なり、リズム隊が提示するハーモニーに対してきっちり一定の関係性を維持しつつ演奏が進んでいきます。

特徴的なリック(ごく短い定型的なフレーズ)も多く、よく言えば誰が聴いても一目瞭然のアンブローズ節、悪く言うならば人によってはワンパターンに聞こえることもあるでしょう。

もしかしたらこのリックを音の跳躍という縛りを受けずに難解なメロディラインを構築するための足掛かりとしているのかもしれません。

ちなみに誰とは言いませんが、日本だと無駄にほっぺたを膨らませてサブトーンバリバリ、アドリブはひたすら体をクネクネさせながら半音階を主に吹いて不思議で難解そうな雰囲気が出てカッコいいなんて風潮も一部にはありますが、アキンムシアの場合はそういったバッタもんとは全く別次元のものですからご注意を。

というわけで今回はアンブローズ・アキンムシアを最先端のトランペットプレイヤーの一人として取り上げてみましたが、他にもピーター・エヴァンスやアヴィシャイ・コーエンなど、“カッティングエッジ“で魅力的なプレイヤーは多く存在します。

トランペットでジャズを演奏する場合、マイルスやクリフォード・ブラウンなどのトラディショナルなスタイルを学ぶことは言うまでもなく非常に重要なことです。

しかしモダンジャズ全盛期であった1950年代ではなく2020年代に生きる我々が本当の意味でジャズを演奏するのであれば、現代のジャズのスタイルも少しは消化しておく必要があると思います。

ちなみに誤解を防ぐために書いておきますが、アキンムシアに関して、メロディラインが難解で音の跳躍の縛りを受けていない点が「芸術として素晴らしい」のだとはまったく思いません。

その技法がトランぺットプレイヤーとして革新的ではありますが。

トランペッター目線でのオススメ作品

トランペッター目線でということなので、なるべくならここを読んでいる人が実際に演奏する機会のあるスタンダード曲を取り扱った作品を挙げたいところなのですが、あいにく彼の場合はそういったことは多くありません。

そもそも彼の演奏するオリジナル曲が好き! という方は僕の作品紹介を読むまでもないコアな方だと思いますので、今回はあえてスタンダード曲を取り上げた作品をピックアップしていこうと思います。

Something Gold, Something Blue

トム・ハレルと共に7曲目でBody And Soulを演奏しています。

テーマも含めて2人で吹き分けていますので、トム・ハレルとのスタイルの違いが顕著に分かります。

あと個人的にはコード楽器がいない編成は好みです。

Prelude To Cora

10曲目でベニー・ゴルソンの名曲、Stablematesを演奏しています。こちらはピアノとデュオ。

もとからちょっとややこしいコードチェンジであるこの曲を見事にアンブローズ節で吹きあげています。

When The Heart Emerges Glistening

11曲目でピアノとデュオでWhat’s Newを、14曲目ではソロでAll The Things You Areを演奏しています。

All The Things You Areは後から追加されたようで、作品発売当初は13曲だったのが、最近になってアップルミュージックで確認したらこの曲が追加されていました。

Casually Introducing

このアルバムはWalter Smith IIIによる作品で、しかも決してスタンダード曲とは言えませんが、作品冒頭でサム・リヴァースによる名曲Cyclic Episodeを演奏しています。

コードが単三度ずつ上がったり下がったりする独特のコードチェンジで、腕に覚えのあるプレイヤーなら挑戦する人も多いでしょう。

Our Point Of View

名義はブルーノートオールスターズということで、2017年にブルーノート所属のプレイヤーをフィーチャーして作られた作品です。

この作品では5曲目でウェイン・ショーターのWitch Huntが演奏されています。

まあこの曲も一般の方にとっては演奏する機会のなかなか無いものでしょうが、この名曲をアキンムシアがどう料理していくのかは聴いておくべきでしょう。

彼以外にもリオーネル・ルエケやマーカス・ストリックランドらがフィーチャーされていていろいろと美味しい作品ではあります。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。