圧倒的なテクニックと派手さといえば真っ先にこのドラマーの名前が上がるかと思います。
そのドラマーの名は、トニー・ウイリアムス。
トニーの演奏を見れば誰しもがすごすぎるとつい言ってしまうでしょう。
今回はそんなトニーウイリアムスのプレイスタイルからオススメアルバムまで紹介していきたいと思います。
早咲きのトニー・ウイリアムス
1945年にシカゴで生まれてその後ボストンで育ちました。
ドラムを始めたのは8歳で、天才肌というのもありましたが最初の師がアラン・ドーソンという素晴らしいドラマーであったこともあり、13歳という若さでプロミュージシャンとして活動していきます。
少し話が外れますがアラン・ドーソンといえばジャズドラマーのための教本の大元を作った人であり、ジャズの名門であるバークリー音楽院の先生としてもかなり有名です。
そしてアレキサンダーテクニークに基づいたモーラー奏法という叩き方に詳しい人でもあります。
そんな師匠からたくさんの技術を吸収して、13歳のときにテナーサックスプレイヤーのサム・リバースに雇われ16歳にはジャッキー・マクリーンのバンドで活躍します。
その後すぐにトランペッターのマイルス・デイビスに目をかけられてマイルスのバンドに加わります。
このバンドは、マイルスの第2黄金期と呼ばれるまで成長します。
トニー・ウイリアムスのプレイスタイル
トニー・ウイリアムスを見て最初に感じるのは爆発するようなスイング感と周りとのアンサンブルにかかわる反応スピードです。
それまでのジャズドラムはベーシストとリズムの土台を作って後ろからがっちりソリストのサポートをする、という感じで、極端に雰囲気やダイナミクスを変えることはありませんでした。
トニーはがっちりリズムの土台を作ったうえで、ソリストをかき立てるような雰囲気を出したり、急に緊張感を張るような静寂を作ったり、ダイナミクスにもかなり波があります。
それはたまに本人の気まぐれだと言われたりもしますが、ソリストを振り回す勢いで音楽を変化させるという特徴こそ、プレイスタイルの1つと言えるでしょう。
上記の映像では、もちろんマイルスが主導権をにぎっていますが、トニーがアクションを起こせばバンドメンバーもそれについていくように音楽が変わっていきます。
そしてトニー・ウイリアムスのトレードマークといえばなんといっても左足のハイハット。
普通はハイハットは2,4拍目に踏みますが、トニーはどんなにアップテンポでも4分音符で踏んでいます。
動画でもトニーがどう踏んでいるのかわかりますね。
こういう踏み方をすることによって4分音符が強調されてよりドライヴ感のあるスイングに聴こえます。
もちろん右手のシンバルのリズムもかなり強力で唯一無二です。
私が参加したクリニックで有名ジャズドラマーたちが「さまざまなドラマーのスタイルを学ぶことが大事」と言って名プレイヤーたちおプレイスタイルを真似して見せてくれるのですが、トニーの真似はできないと口を揃えて言っていました。
おそらく謙遜ではなく、リスペクトしていて本当にできないと思わせてしまうのでしょう。
そんなカリスマドラマーのトニー・ウイリアムスのオススメアルバムを紹介していきたいと思います。
トニー・ウイリアムスのオススメアルバム
初期のアルバム
■サム・リバース「Fuchsia Swing Song」(1964年)
ブルーノートから出たサム・リバースのアルバムです。メンバーはトニーにジャッキー・バイヤード(piano)、ロン・カーター(bass)のカルテットです。
サム・リバースは、この当時流行っていたジョン・コルトレーンとオーネット・コールマンに影響を受けています。
ダークで少しフリー要素もあるかもしれませんが全曲スイングです。
このときはまだハイハットを2,4拍目で踏んでいますね。ライドシンバルのキレはやはり一味違います。
■ジャッキー・マクリーン「Vertigo」(1963年)
前半と後半とでバンドが違い、トニーは1-5曲目まで参加しています。
トニーが参加したメンバーではドナルド・バード(trumpet)、ハービー・ハンコック(piano)、ブッチー・ウォーレン(bass)というクインテットです。
マイルスバンドで一緒であったピアニスト、ハービーがいますがマイルスバンドとは、またアンサンブルの絡み方が違います。
トニーも荒々しくというよりは、多少周りのアンサンブルやピアノとのコンピングを大事にしながら演奏しているように聴こえますね。
とはいえ、結構激しいんです。
マイルスバンドでのアルバム
■「Seven Steps to Hevean」(1963年)
トニーが初めてマイルスのバンドでレコーディングしたアルバムです。
メンバーはジョージ・コールマン(T.Sax)、ハービー・ハンコック(Piano)、ロン・カーター(Bass)のメンバーで「Seven Steps to Heaven」「So Near So Far」「Joshua」のテイクを収録しています。
他の曲は別メンバーでレコーディングしています。
とにかくこのアルバムタイトルの「Seven Steps to Heaven」を初めて聴いたときは衝撃でした。
キャッチーで明るい曲で聴きやすいのがまず第一印象ですがソロに入ってからバンド全体の疾走感がもの凄くあります。
それでも必ずソリストを中心に周りが反応していくのでソリストを集中して聴いているとみんなが何をしているのかよくわかります。
■「Four & More」(1964年)
言わずと知れた名盤ですが最高の1枚です。全曲ライブ版のアルバムですが個人的には2曲目の「Walkin’」は聴いている側も置いていかれるくらい激しく音楽が進んでいき、どんどん違う展開が起こっていきます。
ここまでバンドの呼吸がそろうのはマイルスのリーダーシップでしょうがあまりにもそろいすぎていて気持ちいい反面気持ち悪さも感じます。
トニーが参加しているアルバムはたくさんありますが、個人的にはこのアルバムのトニー・ウイリアムスがサウンドやアプローチが一番好みです。
マイルス・バンドでのアルバムはどれもいいですがやっぱりライブ版は臨場感や音の伝わり方がダイレクトでいいですね。
この何年か後の70年代に入ると大きいドラムを扱うようになってサウンドがロック寄りに変わっていきます。
中期のアルバム
■The Great Jazz Trio「Love For Sale」(1976年)
ハンクジ・ョーンズ(Piano)、バスター・ウイリアムス(Bass)、トニー・ウイリアムス(Drums)のトリオ編成です。
今までトニーはマイルスバンドやアバンギャルドの人たちとの演奏が多かったのでどのアルバムを取ってもダークな雰囲気のものが多いですが、このトリオに関してはかなり聴きやすいです。
まずトニー・ウイリアムスどんな感じか聴いていみたいという方はこれから入ってもいいと思います。
ですが、これまでとサウンドがかなり変わります。
今までは手のサウンドを中心に聴かせてたので軽快な感じでした。
70年台以降はバスドラの低音が増して、リズムの重心がだいぶ下がったと思います。
■日野皓正「May Dance」(1977年)
トランペッターの日野さんもジョン・スコフィールド(Guitar)、ロン・カーター(Bass)、トニー・ウイリアムス(Drums)とレコーディングしたアルバムがあります。
後期のアルバム
■ウイントン・マルサリス「Wynton Marsalis」(1981年)
トランペッターのウイントン・マルサリスのデビューアルバムです。
ウイントン自身アブラが乗っていい感じで、それに応えるようにトニーの演奏が爆発しています。
3曲目の「RJ」は必聴です。
■アランホールズワース「Atavachron」(1986年)
ギタリストのアラン・ホールズワースのアルバムです。
スイング系のジャズではなくフュージョン寄りですがトニーのフレージングで8ビートが炸裂するのでこれはこれですごくいいです。
マイルスバンドのメンバーで結成したV.S.O.P.でのアルバム
・「The Quintet」(1977年)
マイルスのバンドで一緒に活動していたハービー・ハンコック(Piano)、ウエイン・ショーター(T.Sax)、ロン・カーター(Bass)、トニー・ウイリアムス(Drums)に加えてフレディ・ハバード(Trumpet)を招いて収録したマイルス抜きマイルスバンド”V.S.O.P.”です。
この4人のアンサンブルの相性は完璧ですね。
マイルバンドメンバーの中から、メンバーそれぞれのオリジナルを取り上げているのでサウンドが一味違います。
また別ですがマイルストリビュートもハービー、ウエイン、ロン、トニーでやっています。
これにウォーレス・ルーニーが加わってライブしたものがYouTubeにあがっているので是非見てみてください。
トランペットのウォーレス・ルーニーはマイルスのことをとてもリスペクトしていました。
プレイスタイルもかなりマイルスに近く、ここまで寄せてプレイしているプロミュージシャンはなかなかいないでしょう。
なのでこのライブはまさにマイルスバンド再びという感じで感慨深いですね。
リーダーとしてのアルバム
・「Life Time」(1964年)
リーダーアルバムを19歳の時に出してはいるのですが、フリーインプロビセーションなど感覚的に演奏するものがルーツになっているので気軽に聴いてみたいという方にはかなり聴きづらいです。
じっくり聴こうとすればミュージシャンがその場で感じて音楽を創っていくのが見えてきて面白いアルバムです。
・「Million Dollar Legs」(1976年)
ジャズとして聴くより70年代ロック、ポップスと思って聴くとしっくりきます。
スイングの時のトニーの面影がないくらいロックしています。
この年代はフュージョン、ロックが大流行していた時代なのでハービーもウエインもそっちの方向で演奏していました。
曲調もキャッチーで聴きやすくこれはこれでオススメです。
・「Native Heart」(1989年)
個人的にスッと入ってくるアルバムです。
私は普段コンテンポラリージャズをよく聴くのですが、その要素が混ざっているのでとても馴染みやすいんでしょう。
トニーのプレイスタイルもアプローチは変わらずですがサウンドがすごく分厚く聴こえます。
トニー・ウイリアムスの最後
トニー・ウィリアムスは、1997年に心臓麻痺で51歳という若さでこの世を去りました。
トニーはかなりのスピード狂で心臓に相当負担をかけていたと耳にしたことがありますが、それが実際の原因かはわかりません。
ただもっと長く生きていたら今もハービー、ウエイン、ロンと一緒にやっていたのかとつい想像してしまいますね。
サウンド、ダイナミクスの変化の仕方、アンサンブルのアプローチの仕方がこれまでのジャズドラムに革命的でトニーのドラムは当時から今現在にかけて多くのドラマーに確実に影響を与えてくれています。
ちなみにスティーヴガッドはトニーと同じ歳だそうですがガッドの方があとに出てきたイメージです。このガッドがかすむくらいどれだけトニーがすごかったのかよくわかりますね。