たけのこ、お好きですか。
僕は神奈川県西部に住んでいるため、春のたけのこ狩りシーズンになると6本はいただきものをするほど(神奈川西部は山が多くたけのこ狩りが頻繁に行われる)。
基本の若竹煮はもちろんのこと、最近は塩漬けにしてメンマにしたり、アクが出る前に大きなステーキにしたり、洋風にポタージュにしたりと食べ方もいろいろ工夫していますが…。
うまい! あの独特のシャキシャキとした食感は火の入れ方によりホクホクとするし、若干繊維を残したポタージュもほかの食材では味わえない舌触りがあるなど、楽しみ方に事欠きません。
特にメンマは塩の漬けこみ期間に1カ月ほどかかりますが2Kg分作っても1月ともたないほど早く消費します。
この関東で言う所のたけのこ、実は北海道にはありません。いわゆる孟宗竹などの太い竹は育たないようです。
しかし、人間の食へのあくなき執念は限りない。
北海道にもあるのです。食べられるたけのこが。
笹竹の塩漬けを調理する
こちらが北海道で食べられる竹の子、笹竹です。
読んで字のごとく細い竹の子ですね。瓶詰めで売られているもの以外見たことがありません。
呼び名はいくつかありますが、僕の周りでは大体、笹竹(ささだけ)か姫竹(ひめたけ、ひめだけ)と呼ばれていました。
地域によって呼び方が変わるのかもしれません。
で、この笹竹、春に収獲して年中食べられます。もちろん、収獲してそのまま貯蔵しておくことはできないので茹でた後に真空パックに保存するか、塩漬けにして瓶詰めにしたりすることがほとんどだそうです。
獲れたてのものは食べたことがありませんが、収獲したばかりの笹竹は関東で獲れるたけのこよりもアクが少なくうまいらしい。
塩漬けのものも実は調理したことはなく、いつもお店とか親戚が調理したものをいただくばかりでした。
今回塩漬けの笹竹を手に入れたので試しに調理してみます。
まずは塩抜きです。メンマ作りでたけのこの塩抜きは経験済み。
孟宗竹の場合、肉やほかの根菜類よりも塩がよく浸透します。
水分も見た目からは想像できないほど出るので比較的大きな容器で塩にしないといけません。
塩抜きの際は水を取り替ながら漬けて数日、最後に茹でればおおむねの塩は抜けます。
塩漬けにすることで繊維質な食感が際立つので少し長めに茹でても食感は失われません。
一応同じ方法で塩抜きしていきます。
これで1日水に漬けました。3回ほど水を取り替えましたが、しょっぱい!
もう1日必要だな。
これで2日目。色味がちがうのはカメラを変えたからです。肉眼で見ると違いはありません。
いや、まだ全然だな。しょっぺえ。
さらにもう1日。
3日目。まだ塩を感じる。
これはゆでこぼして塩抜きするしかないな。
3日水に漬けたものをゆでこぼします。大きな鍋でたっぷりの水でやったほうが塩はよく抜けますが3日塩抜きしたのでこのくらいでいいかな。
この間に他の調味料の準備をしましょう。
今回作るのはオーソドックスな炊き込みご飯と煮しめ。
炊き込みご飯はおおぶりなたけのこを使うと食感が楽しめるのですが、笹竹だとどうなるかな。
楽しみです。
炊き込みご飯は昆布出汁で炊くのであらかじめ昆布を水に漬けておきます。
日本酒を加熱して煮きりを作ります。こちらは両方の調理に使用します。
そこに三温糖、薄口醤油、濃口醤油を入れて再度煮立たせます。
一煮立ちしたら火からおろして冷ましておきます。
醤油や砂糖は煮立たせるとアクが出ますが、僕は取り除かずそのままに。
ちょっとエグミがあるのですが、これがないとなんとなく物足りないような感じがして。
さて、笹竹のゆでこぼしが完了したので味見。
うーん、ほのかに塩味は残したいですがまだ塩っぽすぎるな。
大きい鍋で茹でればよかったかも。
もういちどゆでこぼします。次で大丈夫かな。
しかし塩気強めですね。この塩分濃度で寒い北海道なら確かに1年は持つ。
その間に油揚げを一度湯通しして余計な油分を抜きます。
油揚げはたけのこのような油分を含まない食材をメインにするときは欠かせない食材です。
炊き込みご飯もこいつを入れて炊かないとぱさついてしまうし、煮しめも旨味成分が足りず淡泊すぎる味わいになります。
ただし油分が多すぎると油臭くなるので、湯通しして余計な油を落とすと山菜の香りを邪魔しない調味料に早変わりです。
湯から上げたら水気を切れる容器に入れて冷ましておきます。
冷めたら油揚げを刻みましょう。このときに中の空洞を開くように切り開いて、1枚の油揚げを2枚にしてから刻むと細く、食感がよくなります。
京風の調理方法ですね。
関東では開かずそのまま調理することがほとんどです。
完了−。
煮しめのためのフキを用意。
こちらも瓶詰めのため一度ゆでこぼしてクセを抜きます。せっかくなので北海道のラワンブキを用意しました。内地のものよりも太く、食感も強いのが特徴ですね。
成長するとかなり巨大になります。一度見たことあるのですが2mくらいの高さで驚きました。
もっと大きく3m近くなるとのことで、ブラキストン線すげーと思ったのを覚えています。
ちょっと昔のことでうろ覚えですが収獲は春過ぎだったと記憶しています。
笹竹もラワンブキも雪のない間に収獲して、塩漬けや瓶詰めにして新鮮な野菜の獲れない冬の時期に食べる。
現在は流通がいいので考えられませんがシンシンと雪の降る中、春の訪れを待ちながら保存食を食べる昔のことを思うと、こういった食材を無駄なくおいしく食べたいなーという思いに駆られます。
雪の多い時期はペンペン草ですら、マジで見かけませんからね。
続いてキクラゲを煮ます。
よく調理される方ならご存知だと思いますがこれ、生のキクラゲです。
乾燥ものよりも食感が面白く、シャキっとしていながらうっすらととろけるような舌触りがあり、生キクラゲが手に入る間はできるだけこちらを食べています。
生キクラゲは石突きがそのままであることが多いので、指でちぎってから調理する必要があります。
また、表面にカビのような胞子が付いていますが、これはそのまんま胞子です。
そもそもキクラゲは菌類なので。茹でればなくなります。
茹でたら水にとっておこのみの細さに切ります。
乾燥モノよりもやわらかなので少し太めに切るとより歯触りが楽しいです。
細いとあのとろっとしたような舌触りが薄れるんですよね。
ただし、コリコリの食感を楽しみたい場合はあえて乾燥ものを使用したほうがおいしいです。
トンコツラーメンとか、中華料理であれば生よりも乾燥のがオススメです。
二度ゆでこぼしたら笹竹の塩味がうっすらになったので塩抜き完了。半分を縦に割りました。
もう半分は縦に割った後に小さくきざみました。
前者が煮しめ、後者は炊き込みご飯用です。
各食材をザルにあげて水気を切り、昆布出汁を弱火で20分煮だして濃いめにとります。
こちらも火を止めて冷ましておきます。
加えてお米を研いでおきます。
僕はル・クルーゼでお米を炊くので浸水時間が必要です。
浸水は春夏なら30〜40分、冬場は最低1時間浸けます。
この際にさきほどの昆布出汁を使用します。研いだ米に新米や精米したてなら同量の昆布出汁を、時間の経っているものならお米1合につきおちょこ2杯分程度足します。
浸水している間に煮しめを調理しましょう。
煮しめを調理
火にかけた鍋にゴマ油をたらします。
ラワンブキは煮るとやわらかくなるので、食感を残すためななめに、大きめに切ります。
あたたまった鍋にラワンブキ、きくらげ、油揚げを入れて、あえて雑に炒め合わせます。
雑にすることで食材同士が少しだけくずれ食材同士の味や香りのなじみがよくなります。
煮しめは素材の味がバラバラだとあまりおいしく感じませんので、遠慮無くいきましょう。
各材料は既に下茹でしてあるので、火を通すというよりもなじみをよくするために炒める感じですね。
食材があたたまった程度で、さきほどの煮きりをベースにした調味料を加えます。
そこに食材全体のかさの半分くらいの量の水を入れて中火で煮合わせます。
この水分に食材のうまみが溶け出して、煮ることでそれぞれの食材に香りなどを煮含ませましょう。
これもなじみをよくするための工程です。
水分がある程度なくなるまで火を通せば完成です。
炊き込みご飯を作る
そうこうしている間にお米の浸水時間が経過したので煮きりベースの調味料と笹竹、油揚げを入れます。
油揚げは後でご飯に混ぜ合わせて食べる場合は刻んだものをいれましょう。
僕は炊きあがったら取り除いてしまうのでそのまま入れます。
煮きりベースの調味料は分量適当で大丈夫です。塩気をつける、というよりも香りを足してやるように使用するのでちょっと少ないかな、という塩梅がいいですね。
強火で吹きこぼれるまで熱し、その後弱火で5分、火を止めてからふたをして6〜7分、全体をかきまぜてさらに蓋をして3分で調理完了です。
いい感じに炊けましたね。
味見をして塩気が欲しい、という場合は最後に塩をひとふりしかき混ぜます。
ただし、味見をしたときに塩をハッキリと感じるようでは味が強すぎます。
炊き込みご飯以外の汁物や煮しめ、香の物の塩味もあるので、本当にうっすら塩味を感じるかどうかくらいにしておくと、食事時にちょうどよくなります。
実食
では、笹竹の煮しめと。
笹竹の炊き込みご飯の完成です。
塩蔵ものなので、たけのこの香りが食卓一杯に広がる! という感じではありませんが、ささやかな山の幸を感じさせる淡泊で質素な見た目が、なんだか食欲をそそります。
出来合いのものは見た目はいいけれど油や塩気が強くて。笹竹の素朴な印象はホッとしますね。
うん、おいしい。塩抜き、下茹で、炒め合わせ、煮合わせ、と、なんども火を通しているのにシャキッとしていながらホクッとした食感。
北海道の過酷な環境で育つ、強い食材ならではの歯触りです。
塩蔵になっていたことで素材の奥底にほのかな塩気があって、底味がついているので口わびしい部分なく楽しめます。
うまいな、こういう味が、日本の食だよな。
ラワンブキも、そもそも水煮のものを、あれだけ火にかけたにもかかわらずシャキシャキです。
うまい。しみじみうまい。
醤油と油揚げのほのかな香り、塩梅もいい。ときおり奥歯の感じるきくらげも絶妙ですね。
ま、食べさせる人がいないので、自画自賛ですが…。
笹竹の先端部分はまた少し変わった食感です。
もともと竹の子は穂先がやわらかく、穂先と根元の食感の違いを楽しむものですが、塩蔵の笹竹の穂先は柔らかい外皮のなかシャキシャキ、ホクホクする独特の芯があるような感じ。
これはまたうまい。
大満足。酒も飲まないのに一皿たいらげてしまいました。
炊き込みご飯は! うん、うまいよ。
けれども、塩蔵ものを使用しているからか、普通の炊き込みご飯ですね。
たけのこの食感はありますが、あの独特の香りがありません。
食感はいいのですが、ちょっと失敗ですね。
ただ、やはり塩蔵ものなので笹竹自体にも底味があるのでおいしいです。
と、いうことで、笹竹のご紹介でした。
みなさんはぜひ煮しめなどでお楽しみください。
うまいよ、笹竹。