こんにちは、野澤です。
最近まで確定申告に追われていましたが気がつけば3月も終わりに近づいてきて桜も咲きそうです。
個人事業主の方は大変な時期でしたね、、同業者の皆様お疲れ様でした。
さて今回もマイルス・ディビスのアルバムを1枚ピックアップ。
また有名アルバムですが制作背景を聞くと気になって聴きたくなるような1枚を取り上げてみようと思います。
マイルス・ディビス「’Round About Midnight」(1957年)
パーソネル
- マイルス・ディビス(Trumpet)
- ジョン・コルトレーン(Tenor Sax)
- レッド・ガーランド(Piano)
- ポール・チェンバース(Bass)
- フィリー・ジョー・ジョーンズ(Drums)
2005年のボーナストラック+
- セロニアス・モンク(Piano)
- ズート・シムズ(Tenor Sax)
- ジェリー・マリガン(Bariton Sax)
- パーシー・ヒース(Bass)
- コニー・ケイ(Drums)
アルバムトラック
- Round Midnight
- Ah-Leu-Cha
- All Of You
- Bye Bye Blackbird
- Tadd’s Delight
- Dear Old Stockholm
- Two Bass Hit (2001年版ボーナスラック)
- Little Melonae (2001年版ボーナスラック)
- Budo (2001年版ボーナスラック)
- Sweet Sue, Just You (2001年版ボーナスラック)
2005年以降のボーナストラック+
- Round Midnight
- Introduction
- Chance It
- Walkin
- Dialogue
- It Never Entered My Mind
- Woody n’ You
- Salt Peanuts
- Closing Theme
マイルスのキャリアを代表するようなアルバムはたくさんありますが、数ある中でもよく知られている作品です。
1957年の発表から現在まで、ボーナストラックを追加しながら再販を続けているのがいまだに人気が高い証拠ですね。
新しく契約したレーベル会社で出した最初のアルバム
1955〜56年頃マイルスはそれまで所属していたレーベル会社のプレステージと契約解除し、新しくコロムビアレコードと契約を結びます。
コロムビア移籍のきっかけは1955年に行われたニューポートジャズでマイルスがジャズのオールスターバンドに参加したときの演奏にあると言われています。
このフェスで演奏した”Round Midnight”のマイルスのソロがとてつもなく素晴らしく会場全体がざわめいたそうです。
マイルス本人はいつも通りやっただけだ、と言っていたようですが、それはその会場にいた全員を虜にしてしまいました。
会場内にはコロムビアレコードの偉い人がいたらしく、マイルスの演奏を聴いたあとすぐにコロムビアに来てもらおうと思い立ってラブコールをかけたそうです。
会場内の感動を目の当たりにしたからなのか、かなり良い条件の契約内容を提示されたそうで、プレステージレコードより遥かに待遇がよかったこともありマイルスはすぐにでも移籍したがったそうです。
しかしまだプレステージと何枚かのレコードを作らないと契約終了にできない状況にありました。
そこで、通常なら考えられないほど短期間でアルバム制作を行い、契約終了することを思いつきます。
このときに収録されたのがマラソンセッションと呼ばれるアルバムたちですね(詳しいことはこちらから)。
プレステージとのアルバムはちゃんと制作しつつも(短期間で制作されましたがこのアルバム群は現在でも高い人気を誇ります)水面下でコロムビアレコードとのアルバムを優先しながら制作していました。
その優先的に制作したアルバムこそが今回紹介するアルバムであり、コロムビアレコードに移籍後発表した初のアルバムとなります。
アルバムのタイトルも「’Round About Midnight」となっていて、あのとき、あのライブで起こった奇跡的な演奏をモチーフとしています(曲名は「’Round About Midnight」「Round Midnight」のどちらも同じ曲を指しますが表記がアーティストやレコード会社で変わります)。
このアルバムから成長していく黄金期のメンバー
最初に出たオリジナル版ではマイルスバンドの第一黄金期のバンドメンバーでのスタジオレコーディングがなされています。
このメンバーは当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあるメンバーでした。
とはいえ水面下でプレステージより先にこっちを手をかけていたので、第一黄金期のマイルバンドのレコーディングは実はこのアルバムが初で少し緊張感のあるレコーディング内容に聞こえます。
なので後にプレステージで「Cookin」「Relaxin」「Workin」「Steamin」のアルバムを制作していく過程でどんどんバンドが進化していき、仕上がりとして個人的には「Workin」か「Cookin」がバンドらしく一体感があって好みです。
好みはさておきマイルスバンドが初めてレコーディングを収めたこのアルバムはかなり貴重なテイクが揃っていて、メンバー全員が常にアンテナを張ってマイルスが出す1音1音に集中してして演奏しているかのような緊迫感を節々に感じるでしょう。
緊張感もありますがソロ中はこれからどうなっていくんだろう的なワクワクできるようなサウンドも収められているので、マイルスと演奏する緊張感と楽しさが入り混ざるような一面も音から垣間見えてくるのでそこら辺もギャップがあって面白いアルバムです。
このアルバムではドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズが音もきれいで端正ですが、どことなく少しおとなしめ。
コルトレーンも後にシーツオブサウンズと呼ばれるほど音を吹きまくるスタイルとなりますが、このアルバムではそこまでではなく、ビバップ的なアプローチを中心としています。
唯一、レッド・ガーランドは絶頂期に近いレベルで演奏していて安心感がありますね。
決して後に出すプレステージのアルバムのほうがいいという批判な意見ではなく、バンドとしてまとまっていくまでの記録として貴重で、このアルバムとマラソンセッションのアルバムを比較するとその違いにビックリします。
マイルスの思うバンドの方向性はこの頃からマラソンセッションが終わるまで一貫していて、このアルバムの制作開始時からこのバンドのビジョンが見えてたのではと思うとマイルスのカリスマ性はやっぱり恐ろしいですよね。
貴重なボーナストラック
アルバムの2005年版には新たなボーナストラックが足されています。
このアルバムを制作するきっかけ、といよりコロムビアと契約するきっかけになったニューポートジャズフェスティバルの”Round Midnight”の演奏が入っています。
それとその後1956年にこのアルバムのバンドメンバーで出演したパシフィックジャズフェスティバルのライブ演奏6曲も追加。
オーディエンスみんなが感動し、コロムビア契約へとこぎつけた演奏「Round Midnight」を現代の私たちでも体感することができるわけです!
今後のマイルスのライフスタイルを変えるようなターニングポイントになるような演奏が味わえるとは貴重ですよね。録音バランスは悪いですがマイルスの演奏はしっかりと聴けます。
それとマイルス黄金期のメンバーでのレコーディングは主にスタジオ版がメインでライブレコーディングは少なめなので2曲目以降のボーナストラックもレアです。
“Salt Peanuts”や”Woody’n’ You”などライブ版で楽しめるのでこのボーナストラックはかなり聴く価値あります。
ちなみにターニングポイントになったニューポートジャズの演奏ですが1人だけマイルスの演奏に納得がいかない人物がいました。
それがまさかの”Round Midnight”の作曲者であり、一緒に演奏をしていたセロニアス・モンクだそうです。
彼は帰りの車でマイルスに直接あの演奏は正しくないと言ったそうです。
マイルスもそのときのモンクの演奏が気に入らなかった、と言い合いになり、嫌気がさしたモンクは乗っていた車を降りてニューポートからニューヨークまで1人で帰ったそうでです。その後顔を合わせることはあったけど喧嘩したときの話は2度と口にしなかった、とか。
一方で圧倒的な感動を与え、また一方ではジャズジャイアントに正しくないと言われる演奏・・・。
余計聴きたくなってしまいますよね。ぜひ2005年版のアルバムを手に入れてマイルスの音を浴びてください。