ジャズにおけるジャムセッションで演奏される曲というものは、多くがジャズスタンダードと呼ばれる曲です。そしてスタンダードには以下のような特徴があります。
1.決まりごとが少なく
2.そこそこの知名度があり
3.コードチェンジが複雑過ぎないもの
もちろん例外はありますが、ジャズスタンダードと呼ばれる曲のほとんどはこの3つのいずれかの条件に当てはまります。
なぜならジャムセッションは演奏が上手い人からそうでない人まで、そして初対面の人であっても共に曲を演奏するという状況下で演奏を行います。
演奏の前に「イントロはこのリフで、何小節目はこういうキメで・・・え? あんた楽譜読めないの? 参ったなこりゃ・・・」などというようなやりとりをいちいち行なっていられないのです。
もちろんやっていけないわけではありませんが、順番待ちの方々からの白い視線に耐えるだけの面の皮の厚さが必要とされるでしょう(笑)。
ですからジャムセッションで演奏される曲というものはある程度固定化されてくる傾向があります。
しかし、それではある程度ジャムセッション慣れした人にとっては面白くないと感じることもしばしばです。
というわけで今回はジャズスタンダードバイブルvol.1掲載曲のなかで「あまりジャムセッションではやらないけどもっと普及してほしい曲」を列挙してみることとします。
個人的な意見が多く含まれます・・・というか100%個人的な意見ですが、まあそこは目をつむっていただきましょう(笑)。
結構、意見の合う人もいるはずですよ。
※曲名の後のカッコ内はジャズスタンダードバイブルvol.1当該ページ
リクエストされないけれどいい曲 10選
April In Paris (p.17)
ん? 一発目がこれ? と思われるかも知れません。
この曲は非常に有名で、ボーカルの人が比較的よく演奏する曲です。
しかし、インストでこの曲をコールしているところはあまり見たことがありません。
美しいテーマとちょっと複雑なコードチェンジの曲ですから、ちゃんと演奏すれば非常に楽しい曲です。
ジャムセッションでやるわけにはいきませんが、個人的にはカート=エリングが非常にかっこいいアレンジで演奏しているのが印象的です。
Autumn In New York (p.19)
この曲も知名度の高い曲ですが、ジャムセッションでインストでとなるとあまりコールされることは多くないような気がします。
テーマの美しさだけでなく、コードチェンジもちょっと複雑で・・・ってよく見たらこの曲、April In Parisと同じくヴァーノン=デュークによる作曲でしたね。どうりで。
Beatrice (p.22)
好きな人は好きだし、今回挙げる曲の中では比較的よく演奏される方かもしれません。
この曲をきっかけにサム=リヴァースを知ったという方も多いのではないでしょうか。
アバンギャルドとされる彼の演奏スタイルからは想像もつかない、儚く美しい曲です。
Forest Flower (p.68)
うーん・・・難しいけどぜひやってみましょうという感じの曲です。
この曲をコールするのにはちょっと勇気が必要かもしれませんが、とても楽しいコードチェンジですし、練習していて勉強になる曲です。
Little B’s Poem (p.128)v
決してスタンダード曲とは呼びづらい曲ではありますが、ジャズスタンダードバイブルではこの手の素晴らしい曲がいくつも収録されていることに感謝せざるを得ません。
この曲も多くのスタンダード曲とは異なる独特のコードチェンジです。
強いて言うならばA Child Is Bornをぎゅっと縮めて転調も取り入れて難しくしたような? 曲です。
この曲の本家本元は恐らくボビー=ハッチャーソンの “Components”というアルバムですが、フレディ=ハバードの名前がクレジットされているから期待して買ったにもかかわらず、この曲ではソロを取っていなくてが
っかりした記憶があります(笑)。
トランペットでの名演奏はエディ=ヘンダーソンの“Inspiration”に収録されているものでしょう。
Peace (p.169)
個人的にはSong For My Fatherの印象が強すぎるホレス=シルバーによる作曲です。
こんな繊細な曲も書ける子だったのねホレスおじさん(失礼)。
同タイトルでオーネット=コールマンによる曲もありますがそれとは異なります(そっちも良い曲ですが)。
原曲通りバラードでも、そしてボサでの演奏も楽しい曲です。
ボサアレンジはスティーブ=カーディナスの”Melody In A Dream”というアルバムに収録されています。
Prelude to a Kiss (p.175)
ご存知デューク=エリントンによるバラードです。
当然知名度は高いしテーマも美しいので人気はある曲なのですが、やはりジャムセッションでインストで演奏されるのはまれな気がします。
テーマを演奏するだけでも歌い方のトレーニングになりそうな曲ですから実際にジャムセッションでやるかどうかは置いておいても練習しておきたい曲です。
この曲のジョー=ワイルダーによる素晴らしい演奏が収められているアルバム、 “Wilder ‘n’ Wilder”は全曲必聴です!
Sophisticated Lady (p.200)
エリントンによる美しいバラードをもう一曲。
この曲もジャムセッションの場で、インストでとなるとなかなか演奏されません。
ジャムセッションではそもそもバラード自体演奏頻度が低いので(ボーカル除く)、バラードでも少し難しいものになってしまうと途端にコール率が下がってしまうのかもしれません。
きっとそんな事情をくんだのでしょう、クラーク=テリーは”Memories of Duke”の中でこの曲を速めのラテンで演奏してくれています。
うん、まあ・・・このお方なら何をどんなアレンジで演奏しても許されるかな(笑)。
You Must Believe In Spring (p.250)
こんなにガラッとキー変えなくてもいいじゃんか・・・と思って作曲者名を見てみると納得!のミシェル=ルグランです。
ルグランの曲でこんな風にひとつのモチーフをしつこくいろんなところで展開していく曲って他にもありませんでしたっけ?
まあ綺麗には聞こえるんだけど、よく考えたでしょ?でしょでしょ?というルグランのドヤ顔が目に浮かんでくるようで個人的には苦手です(笑)。
しかし歌い回しが苦手なものこそよく練習する価値があるというものです。
You Stepped Out Of Dream (p.251)
難易度は大したこともないにもかかわらず、あまりコールされているところを見たことがありません。
ソニー=ロリンズの演奏で知名度もあるはずですし、ぜひもっと幅広く演奏されてほしい曲です。
もちろんロリンズのようにスイングでも良いのですが、ニコラス=ペイトンは “From This Moment On”の中でアーマッド=ジャマルのPoincianaのリズムを用いて演奏しています。
柔らかく爽やかなサウンドなのでぜひチェックしてみてください。
というわけで10曲紹介してみました。
ある程度難易度が高いものや、他のジャズスタンダードに比べてそこまで有名ではない曲も出てきたかと思いますが、あくまでジャズスタンダードバイブルの、しかもvol.1に載っている曲です。
ここで取り上げた曲を実際にコールしてそんな曲知らないと言われても、あまり無茶な選曲だとは思われないでしょう。多分・・・。