ジャズドラマーの選ぶ2025年ジャズベストアルバム7選

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こんにちは、野澤です。

2025年もあっという間に終わりに近づきましたね。

夏の終わりくらいから、ずっと忙しくしていました。

気がついたらいつの間にか12月。気持ちはまだ11月くらいでもうあと数日で年が変わるなんて嘘みたいです。。

というわけで今年の最後も恒例の、個人的に2025年に聴いて良かったジャズのアルバムをご紹介したいと思います。

25年もありがたいことにライヴ、レコーディングなどたくさんのお仕事をいただきました。

その中でレコーディングする曲のイメージを近づけるためによく聴いたもの、自身のスキルアップのために聴いたもの、趣味として聴いたもの、など。

まとめて5つほどリストアップさせていただきます。ぜひご一読ください。

リー・コニッツ「Motion」

とあるレコーディングの参考音源として手渡されたアルバムです。

メンバーはリー・コニッツ(A.Sax)、ソニー・ダラス(Bass)、エルビン・ジョーンズ(Drums)というコードレストリオです。

リーコニッツの浮遊感のある柔らかいサックスサウンド、エルビンの滑らかで流れのあるグルーヴ、コード感が薄くモーダルで自由を与えてくれるようなソニーのベースラインが見事にマッチしています。

エルビンと言えばコルトレーンのバンドでの活躍を連想させますがリーコニッツはコルトレーンのサウンドとは真逆。

コルトレーンサウンドをプッシュするような馬力を持つエルビンがどういうふうにリーコニッツと絡むのか想像もできませんでした。

聴いた結果から言うと互いが邪魔しないような関係で演奏しています。

こういうアプローチの仕方もあるのかとかなり勉強になりました。

エルビンの勢いのあるグルーヴは変わらずですが音色が少し丸くなって音数も少し減らしてフレーズも少しシンプルになり高低差のあるグルーヴ感よりは横に流れていくスムーズさを感じます。

リーコニッツもエルビンに触発されるようなプレイではなく淡々と自分の音色を貫いていてフレーズ感もとてもクールです。

これがクールジャズの行き着いた境地なのか、バックが少しハードでもブレることなく一貫したスタイルを保っています。

アルバムに収録されている曲はどれもジャズスタンダードで”I Remeber You”、”All Of Me”、”You’d Be So Nice To Come Home To”等どれも定番の選曲。

ですがコード進行はあるけどモーダルのような自由度も高いです。

最初のテーマも吹かずにいきなりソロから入って吹きまくる、そしていきなり後テーマのメロディが入ってきて唐突に終わるような感じは斬新です。

曲のメロディがない分とっつきにくいアルバムではありますがジャズの自由さを求めた結果のコンセプトのあるアルバムだと思います。

さっき述べたようにサックスがバンドリーダーの方から渡されたアルバムです。

この方もクールジャズのようなサウンドを目指しているプレイヤーなのでウエストコーストジャズのような曲もアルバムには収録しました。

ですがもっと変わり映えのするコンセプトで1曲録りたいということでこのアルバムを参考音源として取り上げてくれたのでしょう。

口じゃ説明できないジャズのエッセンスが詰まったアルバムですのでぜひ一度聴いてみてください。

ポール・コーニッシュ「You’re Exaggerating!」

ブルーノートレーベルで自身のファーストアルバムを今年リリースしたピアニストのポール・コーニッシュ。

現在はジョシュア・レッドマンのバンドにも参加したり、エレクトロなどビートミュージック系で活躍するドラマーのルイス・コールのアルバムにも参加しています。

マルチで幅広いジャンルで活躍するミュージシャンは多くなりましたが、そんな中でも突出して個性をしっかり持ったミュージシャンがポールコーニッシュです。

現代的なジェラルド・クレイトンやテイラー・アイグスティのようなポップなエッセンスを持っていたり、ロバート・グラスパーやジェイソン・モランなどのような頭の回転が速いインテリジェンスなプレイがこのアルバムでは際立ってるのが分かります。

2曲目の“Queinxiety”ではリズミックな複雑なコードワークにシンプルなメロディラインから、どことなくジェラルド・クレイトンやアンブローズ・アキンムシレイのような空気感を感じるでしょう。

ですが真似して最近の流行りを取り入れるというのではなく完全に自分の出てくる音楽として昇華されたものになっていてオリジナリティが表現されています。

“Star Is Born”もシンプルなメロディラインですがテーマが終わるとフリーになっていきます。このフリーな感じもどこかスタイリッシュでジェイソン・モランのような雰囲気を感じますね。

“Dinosaur Song”はベン・ウェンデルのようなリフの使い方をしていて少しソリッドな曲になっており、このアルバムを引き締めるような曲になっていて聴きごたえ抜群。

メンバーもジョシュア・クランブリー(Bass)とジョナサン・ピンソン(Drums)と、若い2人ですがドラムのジョナサンは18歳の時にウェイン・ショーターのバンドに参加した後、マーク・ターナーやギラッド・へクセルマンなどビッグネームのバンドで活躍していった今のジャズ界を支えるドラマーの1人ですね。

リズムや音色がとてもクリアで何が起こっているのか分かりやすい。かつ、アグレッシブなプレイも一歩引いた演奏も素晴らしくとてもバランスがいいドラマーです。

ジェイムス・フランシーズのときも感じましたがまたジャズ界に新しい風がこれから吹きそうな予感がこのアルバムを聴いて感じました。

これもレコーディングの時の参考にさせてもらいましたが参考にしたのは音作り。

レコーディングした後はミキシングとマスタリングという工程があり、そこでドライな音にするとかホールのような広がりをもたせるとか。

またはピアノがよく聞こえるようにするのかシンバルの音色は柔らかいほうがいいのか立ち上がりをよくした方がいいのか細かい音をその工程で決めていきます。

そのミキシング、マスタリングの感じがこのアルバムはかなりいいのでリファレンスにしてミキシングしてもらったらかなりいい感じに。

ピアノトリオだけど適度な広がりと各楽器の音の距離感や立体的な感じがとてもバランスのいいアルバムです。

ギラッド・ヘクセルマン「Downhill From Here」

個人的には販売前から今年1期待度が高いアルバムでした。

もちろんその期待を応えてくれて、というか期待以上の演奏内容で大満足な1枚です。

なぜそんなに期待していたかというとマーカス・ギルモアがまた参加してくれたからというシンプルな個人的な趣味です。

前回はカシュ・アバディだったりライヴではジョナサン・ピンソンが参加していますが個人的にはギラッドのトリオではマーカス・ギルモアのドラムが一番ハマっていると思っています。

ギラッドのギターはコードやメロディが綺麗というのもありますがとにかくナチュラルなサウンドが個人的には好きです。

そのナチュラルなサウンドと同じくらいギルモアのドラムもナチュラルなサウンドがしていてこの2人の相性は抜群です。

そこにブラッド・メルドーのトリオやマーク・ターナーなどのバンドでも活躍するベーシストのラリー・グラナディア。

彼のベースもかなり生音を生かしたサウンドがしていて気持ちいいです。まるでオーガニックのような質のいい音が広がっていくのでとにかく気持ちいい。

“Wise Man”のような7拍子の変拍子でもメンバー全員ビートの共有が凄まじくギラッドとギルモアのソロのトレードは聴きごたえがあります。

メンバー全員盛り上がっているけどどこか冷静で聴いていてストレスを感じないです。この心地よさが今年の私にはハマっていたのでよくリピートしたアルバムの1枚ですね。

ジョナサン・ブレイク「My Life Matters」

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Blue Note

ニューヨークで活躍するドラマーのジョナサン・ブレイクの9枚目のリーダーアルバム。前回も良かったのですが今回のアルバムも良作でした。

ダイナ・スティーブンス(Sax)ジェイレン・ベイカー(Vib)ファビアン・アルマザン(Piano)デズロン・ダグラス(Bass)に、DJにジャヒ・サンダス、ボーカルにビラルを迎えてジャズドラムとヒップホップのようなブラックミュージックを展開しています。

前作のエマニュエル・ウィルキンスとジェルロスの新世代が入った感じも面白かったですがこのメンツでしか出せないサウンドもいいですね。

このアルバムのテーマとしては人種差別。

音楽を通して声を上げるためにこのアルバムを制作したそうです。

わざわざ音楽で語る必要があるのかという問いに対して「何かが起こっているのに声をあげなかったら自分も同じくらい問題だ。」という自身の考えで立ち上げたプロジェクトなので全力でこのアルバムに向き合っていることがコンセプトからもわかります。

音楽だけで表現するのは難しいですがDJで断片的なスピーチをいくつか切り張りしてリスナーの心に呼びかけてオープニングが始まります。

映像が出てくるような感じで個々のソロ+スピーチで6曲くらい進んでいき、7曲目のバンドでの演奏がこのアルバムの前半の盛り上がりを見せます。そこからは演奏の爆発力も凄まじいです。

ジョン・コルトレーンの史上の愛のように曲間がなくシリアスな雰囲気がずっと続きますがダイナミクスやリズムのメリハリがしっかりしているので飽きることなく聴けます。

最初のリーダーアルバムは個人的には曲の感じがハマらなかったですが「Homeward Bound」以降のジョナサンのリーダーアルバムはいい曲が多いです。

テイラー・アイグスティ「Plot Armor」

ピアニストのテイラー・アイグスティの2024年発表のアルバム。

メンバーはチャールス・アルトラ(Guitar)、ジュリアン・ラージ(guitar)、ハリシュ・ラガバン(Bass)、デイビッド・ジンヤード(Bass)、ケンドリック・スコット(Drums)、オスカー・シートン(drums)、ベッカ・スティーブンス(vocal)、グレッチェン・パラート(vocal)テレンス・ブランチャード(Trumpet) 、ベン・ヴァデル(T.Sax)、ダイナ・スティーブンス(T.Sax)他にもストリングスのメンバーが合わさってかなり大がかりなアルバムになっています。

そしてこのメンバーは私の世代にはとても刺さるメンバーで、テイラーに関わってきた古くからのミュージシャン仲間が多数います。

5曲目の”Light Dream “ではテレンス・ブランチャードのアルバムを思い出させる壮大な曲で、テレンスのバンドに長年在籍していたケンドリックもこの曲に参加していて個人的にはグッとくる曲でした。

曲調もテレンスブランチャードらしい雰囲気でトランペットの高音で響き渡る壮大な音も柔らかく包んでくれるような空気感でとてもドラマチックです。

ドラマーのオスカー・シートンはエリック・ハーランドなんじゃないかと思うくらいフレーズ感が似ています。そこからさらに音質が今の時代にアップデートされたような感じで個人的には結構好きです。

3曲目の”Look Around You”はベッカ・スティーブンスの歌声が聞こえた途端懐かしい気持ちになりました。

2010年の「Daylight At Midnight」は大学生当時かなり聴いていてアルバムの2曲目の”Magnoria”はこのアルバムを象徴する曲でした。

このときにベッカを知って新しく音楽の間口が広がったのでまたこの感じの雰囲気を年月を経た今聴くのは感慨深いものがあります。

同じくグレッチェン・パラートの「The Lost and Found」もよく聴いていた世代なので9曲目の”Beyond the Blue”も個人的にはアツいです。

個人的には世代ど真ん中のアルバムで大満足でした。

マーク・ターナー、ブラッド・メルドー、ピーター・バーンスタイン、ラリー・グラナディア、ビル・スチュワート「Solid Jackson」

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Zach Top

たとえ内容は分からなくてもこのメンバーだったら即聴き間違いなし。

現代を代表するようなジャズミュージシャンばかりで音楽性の相性も自由自在。

ブラッド・メルドーとラリー・グラナディアは長年の仲、ピーター・バーンスタインとビル・スチュワートもバンドで演奏している歴はかなり長いです。

マーク・ターナーはどのメンバーとも親交があるのでこれはディープなインタープレイが期待できるアルバムだとワクワクしますね。

曲自体は気をてらったことをするわけではなく超ストレートなモダンジャズを演奏しています。

どの曲も大人の落ち着きがありながらそれぞれのプレイヤーの個性が発揮され主張してくるけど強すぎないこの感じが一流の質を感じます。

雲の上のような存在ですがアンサンブルの仕方や音楽の向き合い方がとても勉強になりました。

ただクリスクロスのサウンドなので、もっと上質な感じだったら最高なのになぁとは思いますがこのメンバーでの演奏を聴けるなら文句は言えないですね。

マッコイ・タイナー&ジョーヘンダーソン「Live at Slug’s」

今年10月に惜しくも亡くなってしまったドラマー、ジャック・ディジョネットも参加しているアルバムです。

リーダーとしてはマッコイ・タイナーとジョー・ヘンダーソンという60年代を代表するピアニストとテナーサックスプレイヤー。

1曲目からエンジン全開でジョー・ヘンダーソンの曲In’N Outが始まります。

ディジョネットはトニーの要素が強いドラマーだと思っていましたが、とんでもなくエルビンを感じます。

というかエルビンとトニーを足したハイブリッドなドラマーです。

それが一発目からバシバシ感じます。これはとにかく聴いて体感して欲しいです。音源で圧倒されたのはかなり久しぶりですね。

人によってはうるさいと思うかもしれませんがソリスト、ベーシスト、ピアニストにかなりアンテナを張っていて、誰か何かアクションを起こせばすぐさま反応します。

このピッタリ引っ付いて迫ってくる感じがもはや狂気です。

とにかくディジョネットのここまでキレキレな演奏は他で聴いたことがないくらい凄まじいものがあります。

ジャズの帝王マイルス・デイビスと演奏していたときともチャールス・ロイドと演奏していたときともプレイが違うのでディジョネットをあまり聴いたことがない人が聴くとディジョネットへの価値観がガラリと変わると思います。

そんなディジョネットに反応するマッコイもコルトレーンの伝説的なバンドに在籍していたときとはまた一味違って、テクニカルな面が見えたりドラムのリズムに反応するリズムのアプローチも多彩です。

これはディジョネットがすごいのかマッコイの引っ張る力が強いのか、、とにかく音楽が前に進む力が強力かつ緻密なアンサンブルで度肝を抜かれました。

 

以上7つのアルバムを今年の個人的ベストに選ばさせてもらいました。どれも素晴らしいしジャズの奥深さを感じました。

現代のプレイヤーもレジェンドのプレイヤーも違った意味で素晴らしい。

レジェンドには真似したくなるような音の魅力を感じますし現代のプレイヤーも精度が高く音楽性もハイクオリティで満足度が高いです。

年末年始にぜひプレイリストに入れて聴いてみてください。今年も最後まで読んでいただきありがとうございます。

また来年からもぜひ、ご愛読よろしくお願いいたします。

よいお年をお迎えください!



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。