Like Minds | 素のチック・コリアを感じられる最高なアルバム

chick corea like minds

今回はチック・コリアのアルバムからおすすめの1枚をピックアップしたいと思います。

彼の残した作品はジャズミュージシャンの中でもひときわ多く、名盤と呼ばれる作品がたくさんあります。

特に1960年代後半からのジャズに影響を与えました。今回どれをピックアップしようかとても悩みました。。

今回もあまりジャズに詳しくない方のために少しだけチック・コリアについて触れてからアルバムをご紹介したいと思います。

チックコリアが築いた音楽

新ハードバップ

名前は私が今勝手につけたので(笑)一般的ではないですがコルトレーンやアートブレイキーなどの熱い演奏のハードバップとはまた違ったアプローチをとっています。

メロディはシンプルですがアレンジなどの構成でよりリッチなバンドサウンドを作りつつハーモニーやプレイスタイルはハードバップ的なアプローチしています。

初期のアルバム“Tone’s For Joan’s Bones”“Now He Sings Now He Sobs”はそれがよくわかる作品です。

フュージョン

70年代からはフュージョンと呼ばれるジャンルが流行り始めました。

それまでのジャズのようなアコースティックなスタイルではなく、電子楽器やジャズ以外の音楽の影響を多分に取り込んだ演奏や構成が特徴的です。

そしてチック・コリアはこのジャンルを大きく動かした1人でしょう。

特に“Return To Forever”というアルバムを出してからこのメンバーで築いてきた音楽は今のミュージシャンにも影響を与えています。“The Chick Corea Electrik Band”もジャズのテイストを残しつつも電子音に特化したバンドをやっていました。

スペイン音楽+ジャズ

過去にマイルスも”Sketch Of The Spain”でスペインの音楽を取り上げていたりしましたが、チックもまた違った形でジャズとスペインの音楽を混ぜて作品に残しています。

“My Spanish Heart”はスペイン音楽をかなり取り入れたアルバムです。その中にある”Armondo’s Rhumba”は今でも世界中で演奏される名曲です。

クラシック+ジャズ

チックはアレンジ能力にも長けているのでオーケストラなどのアレンジも数日で書き上げられるという話を聞いたことがあります。

“Mad Hatter”“CHICK COREA Continents”などのアルバムでそのアレンジや作曲の才能を味わえます。

2台ピアノ

ジャズクラブにピアノ2台も普通は置いてないので他のピアニストと共演するケースはほとんどありませんでした。しかしチック・コリアとハービー・ハンコックのピアノDuoアルバムから世に浸透してきた印象があります。

チック・コリアは日本人ピアニストとの交流もあり小曽根真さんや上原ひろみさんとの共演CDも残しています。

ピアノトリオ

チック・コリアの真骨頂といえばピアノトリオかもしれません。ピアノトリオでは色んな人と色んな挑戦をしていて、ベースのジョンパティトゥッチとドラムスのデイヴウェックルのアコースティックトリオも有名ですし、アビシャイ・コーエンとジェフ・バラードのトリオも有名です。

後期はクリスチャン・マックブライドとブライアン・ブレイドのトリオやチャリトス・プエルトとマーカス・ギルモアのトリオなど自分のやりたい音楽に合わせてメンバーを組んでいました。

またFive Trio Seriesという名でピアノトリオのアルバムを制作しています。

ベースとドラムのバッテリーを5組選んでマイルスの曲をフィーチャーするトリオのアルバムを作ったりビル・エバンスの曲をフィーチャーするトリオのアルバムだったりそのトリオの組み合わせに合う面白い選曲をして挑戦しているアルバムも出しています。

これだけフットワークが軽くて勢力的にいろんなことができる人は数少ないでしょう。サイドマンというより自分のやりたいことをいつでもどんな音楽でもできるように追求して楽しんでたプレイヤーでした。

そしてどんなスタイルで演奏してもチックコリアらしさが必ず聴こえてくるのがチックの素晴らしいところです。たくさんのことを追求して全部自分の音楽に落とし込める人はそうはいないと思います。

それでは今回のアルバムを紹介しようと思います。いろいろやってきたチックコリアですがこのアルバムはプレイはもちろん選曲やメンバーからチック・コリアの本質がよくわかるアルバムだと思います。

Chick Corea「Like Minds」

created by Rinker
Stretch Records

パーソネル

  • Gary Burton(Vibraphone)
  • Chick Corea(Piano)
  • Pat Metheny(Guitar)
  • Dave Holland(Bass)
  • Roy Haynes(Drums)

アルバムトラック

  1. Question And Answer(by Pat Metheny)
  2. Elucidation(by Pat Metheny)
  3. Windows(by Chick Corea)
  4. Futures(by Chick Corea)
  5. Like Minds(by Gary Burton)
  6. Country Roads(by Gary Burton)
  7. Tears Of Rain(by Pat Metheny)
  8. Soon(by George Gershwin)
  9. For A Thousand Years(by Pat Metheny)
  10. Straight Up and Down(by Chick Corea) 

チック・コリアリーダーというよりリーダー不在のバンドです。

ゲイリー・バートンがプロデューサーとしてアルバムの制作をまとめていて、他のメンバー特にパット・メセニーとチック・コリアは自身が作ったオリジナルをバンドに提供しています。

メセニーの曲が割と多くその次にチックの曲が多いですね。

メンバーとのつながり

ジャズをよく知っている人が見れば、このメンバーはかなりアツい組み合わせと思うのではないでしょうか。

まずはチックとヴィブラフォンのゲイリー・バートンのつながり。2人はDuoアルバムの“Cristal Silence”というアルバムを作っていますがこれがすごくよくジャズの名盤に挙げられるほどこの2人の相性は抜群です。

チック・コリアとロイ・ヘインズ。チックはロイ・ヘインズのことをかなり尊敬しているのが初期のアルバム”Now He Sings Now He Sobs”でよくわかりますね。

デイヴ・ホランドとはマイルスのバンドを共にしてきた戦友みたいなものなのでお互いをよく知っています。

そして意外なのがチック・コリアとパット・メセニーこの2人の組み合わせです。よくよくこうやって見てみると2人が一緒にやっているアルバムがこれ以外にないことに気づきました。

音楽性だけ見るとすごく相性が良さそうなのに今まで共演がないのが不思議ですね。なのでより聴く前にどんなアルバムなんだろうとワクワクします。

ちなみにパット・メセニーからするとゲイリー・バートンは師匠のような存在です。

パットは若い頃ゲイリー・バートンのバンドに入りたいためにゲイリー本人の前でゲイリーの曲を譜面見ずに弾いてみせてバンドに入れてもらったそうです。

なので今回メセニーのオリジナルが多く取り上げられているのを見るとゲイリー含め他のメンバーに認められている感じがいいですね。

もうジャケット見ただけで聴く前から興奮してしまいます。

個々の次元が高いアンサンブル能力

みんなの強い個性をぶつけ合うのかなと思いきや最初の曲からみんないい意味で一歩引いてバンドの調和を保つ大人な演奏をしてきます。

特にロイ・ヘインズがバンドの舵をうまくコントロールしているようにも感じます。

それとチック、ゲイリー、メセニーのアンサンブルのバランスも絶妙です。3人ともコードを鳴らせる楽器なので普通この状況だとお互い注意して弾かないとコードのテンションがぶつかる可能性があるので大変です。

ですがこのアルバムではお互いが邪魔しない関係になっています。それぞれお互いが何を演奏しているのかよく把握して自分の立ち位置を音楽の中でうまく見つけています。

2曲目のアップテンポスイングの”Elucidation”は今回のアルバムの要チェックポイントです。

まず曲が本当によくてメセニーの曲なのにゲイリーの曲のようにも聴こえるしチックの曲のようにも聴こえます。それくらいみんなのプレイのキャラクターにハマる曲です。

まずはチック・コリアのソロからスタートします。軽やかで正確なリズムで進んでいくのですがたまにレガートで歌うような横の流れを意識したソロも入れてきて緩急あるソロの流れになっています。

チックのソロが終わってメセニーのソロに移ってかなりバンドのギアが上がっていきます。隙間なく音符を埋めていくストイックなメセニーのソロが展開されていくのですが、その合間をチックが的確にコンピングを突いてくる感じが本当に職人業です。

ギターソロが終わってゲイリーもそれを超えてくるような勢いで入ってきてさらに展開していきます。ビブラフォンのバッキングではピアノもギターも一緒に弾いています。

ピアニストやギタリストだったらわかると思いますが一緒にバッキングするとコードがぶつかる場合があるのでどっちかがバッキングしていたらもう片方は普通弾きません。

そんなコード楽器特有の障害すらも超越してしまうのでこのメンバーのアンサンブル能力は本当に次元が違うのを感じます。

リバイバルされるチックの名曲

このアルバムはチック・コリアのオリジナルがいくつか入っているんですがこのオリジナル曲たちはチック・コリアが過去に出していた自身のアルバムでも収録しています。

なのでオリジナルテイクを知っているとこのアルバムのテイクの良さがより感じられるでしょう。

“Windows”はチックコリアの2枚目のアルバム”Now He Sings, Now He Sobs”で収録した曲です。この時はピアノトリオでロイ・ヘインズもドラマーとして参加しているアルバムです。

それが今回は5人という編成で聴くことができます。チックがイントロを出し、テーマのメロディはメセニーとゲイリーで弾いています。メロディの弾き方や音色がこの2人ならではのサウンドがしているのでテーマを聴くだけでも十分満足です。

その後のチックのソロも素晴らしいのですがそれ以上にゲイリーのメロディアスなソロには聴き入ってしまいます。

このアルバムの最後の曲はチックのオリジナル“Straight Up and Down”で締めくくります。この曲をあらかじめ知っている人は意外な選曲だなと思うでしょう。

元は1枚目の”Tones For Joan’s Bones”に収録されている曲です。そう、新ハードバップをやっていた時期の曲です。

このアルバムの他の曲は全部80、90年代のコンテンポラリージャズ感が強いですがこの曲だけ前の60年代後半に戻ったような色を持つ曲です。

テーマが始まれば今までの曲と感じが違うのが明らかにわかります。しかしそれがソロに入ると一変します。

モードの曲なので曲の展開がある程度見えてしまうはずなんですがベースのホランドがこっちにもいけるよと言わんばかりに新しいルートを展開していきます。

それにナチュラルにチックが答えてソロをとりその後はメセニーのソロではさらに世界を広げるかのようにチックがコンピングしていきます。このサウンド感がオリジナルテイクとは全く違うのでかなり新鮮です。

そしてアツい演奏なのにこんなに爽快に感じるのは不思議な感覚です。しっかりとこのメンバーならではの色が出ているのでオリジナル版と聴き比べるとその違いに驚くと思います。

チック・コリア2021に永眠

知っている人は多いと思いますがチック・コリアは今年2021年の2月に亡くなりました。これは本当にジャズ界に衝撃的で多くのミュージシャンが残念に思っています。

私もその一人で好きなアルバムやYouTubeでまた聴き返しました。

エレキジャズやブラジル、ラテン音楽など色々聴いてチックの良さはどれも感じられますがその中でもこのアルバムは素のチックコリアの演奏と味わえるアルバムになっていると思います。

私はそこまで熱狂的なファンではないと思っていましたが今回これを取り上げてみて改めてチックコリアの音楽をずっと聴いてきてその音楽のトリコになってたんだなと感じました。

なのでまだまだいっぱい伝えたい気はしますが長くなるのでまた今度に!



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。