Roy Hargroveからスタートするトランスクリプション

Roy Hargroveという偉大なプレーヤー

 

2018年、トランペット吹きとして最も大きなニュースはやはりRoy Hargroveの急逝でしょう。

わざわざここで書くまでもありませんが、Roy Hargroveは今年11月2日にニューヨークにて透析中の心不全によって亡くなりました。49歳でした。

1989年のデビューアルバムDiamond in the Roughに始まり、Public Eye, The Vibeなど初期の作品群、そして2002年にDirections in Musicを出したかと思えば今度はRHファクター、そしてRoy Hargrove BigbandEarfoodで示したスタイルを基軸としたRoy Hargrove Quintetでの活動(メンバー交代あり)と続きました。

Roy Hargroveの特徴といえば少し上の世代のWynton Marsalisや同年代のNicholas Paytonらが柔らかく暖かい音色だったのとは対称的に、鋭く刺さるような音色、そしてジャズ独特のイントネーションを帯びたこれぞジャズという感じのフレージングでしょう。

よくアドリブを学ぶために昔のジャズプレイヤーの演奏を楽譜に書き起こし(=トランスクリプション)、演奏することがありますが、Roy Hargroveの演奏はそのための良い題材でもありました。

今回は彼が遺してくれた素晴らしい演奏を聴き、なんだったら実際に楽譜として書き起こして、そして演奏してみて、演奏の向上に役立てていただこうということで、そのためのガイドになるようなものを書いてみたいと思います。

そもそもトランスクリプションのメリットとは?

ジャズプレイヤーの素晴らしい演奏を譜面におこし、それを実際に演奏してみることのメリットは多岐に渡ります。

世の中には偉大なプレイヤーのアドリブソロを採譜した楽譜集なども発売されていますが、なるべくそういうものには頼らずに時間を掛けて自力で採譜した方がより多くのメリットを享受することができます。

まず第一に採譜するためにはその音源を何度も何度も聴き直すことになります。

この作業を繰り返すことにより単に音の高低やリズムだけでなく、その細かいニュアンスも含めて知らず知らずのうちに身につけることが可能になります。

これは「ジャズは伝統的な音楽なんだから昔のプレイヤーの真似をしなきゃいけないんだ」という意味ではありません。

本当の意味で新しいもの、独創的なものを創り上げるためには古いものをよく理解しておくことが必要だということです。

次のメリットとしてはハーモニーやリズムへの理解が深まります。

演奏を聴きこみ、楽譜に1つひとつ音符を書き込んでいくという作業をすることによって、このコード進行でこんなアプローチをしてるんだとか、こういうリズムの使い方をしているのかなどさまざまなことに気づくことができます。

これは一見すると市販されているアドリブソロ集でも学ぶことができるように見えますが、やはり自分で苦労して書き上げた楽譜と数千円かそこら出してポンと買ったような楽譜では身につく度合いが段違いというものです。

そういえば僕自身ニューヨークで買ったFreddie Hubbardのアドリブソロ集が自宅の本棚のどこかで眠っているのを今思い出しました。何度か練習したことはあったはずですがもはや何の曲が入っていたかすら覚えていません(笑)。

もちろんハーモニーやリズムに関しては音楽理論を勉強すれば身につけることは可能ですが、アドリブソロをトランスクライブすることによって、それが実際の演奏ではどのように使われているかをよく理解することができるのです。

英語を読み書きだけで勉強するよりは、リスニングやスピーキングと同時並行で勉強する方が理解が深まりやすいのに似ていますね。

さて、それでは比較的耳コピしやすくなおかつジャムセッションですぐに使うことができそうなRoy Hargroveの音源を紹介していきましょう。

彼の演奏は1つひとつの音が明快で、例えばClifford BrownWynton Marsalisなどのように、採譜したとしてもバカテクすぎて全然吹けない…ということは少ないので耳コピしやすいと言えます。

今回紹介する音源は全てParker’s Moodというアルバムに収録されているものです。

ここに挙げたもの以外の曲も大変素晴らしいものばかりなので絶対に購入すべきアルバムと言えるでしょう。

Parker’s Mood

ジャズのニュアンスを身につけるためには最高の音源でしょう。

この曲自体はジャムセッションでよく使われる曲集、『ジャズスタンダードバイブル vol.1, vol.2』には未収録ではありますが、Bbブルースなのでさまざまなシチュエーションに応用することが可能です。

「耳コピって大変そうだよな〜」と二の足を踏んでしまう方は、短いイントロの後の1コーラスのテーマをそのまま真似して吹くだけでもかなりジャズのエッセンスに触れることができます。

本人がどんなつもりで演奏していたかは分かりませんが、自由奔放に歌を歌っていたらジャズになっちゃったというような素晴らしい演奏です。

ピアノソロの後の2回目のトランペットソロは少し難易度が上がりますが、完璧に吹くことができなくても良いので頑張って耳コピしてみましょう。得るものは多いですよ。

Yardbird Suite

この曲はParker’s Moodより少し速めのテンポになりますが、速い音符が少なくソロ自体も1コーラスと短いわりには即使えるフレーズが多いというとてもお得(?)な演奏です。

ソロ直前のピックアップでのアウトもサラッと決まっていますし、エンディングの逆循環も教科書かのように美しく着地しています。

Repetition

Neal Heftiによる曲で、正直言ってジャムセッションではまず演奏されることのない曲です。

楽譜は僕の手持ちの中ではJamey AebersoldのVol.91でしか見つけることができませんでしたが[Neal Hefti Repetition PDF]でググると海外の楽譜サイトのサンプル版が見つかりました。

サンプル版なのでサイトロゴが入っていますがどうにかテーマ部分のコード進行は読むことができます。

お金の無いジャズミュージシャンはぜひ活用しましょう(笑)。

https://www.molenaar.com/files/pdf/JAVol091_Players_Choice.pdf

なぜこの曲をチョイスしたかというと、いくつかのキーに渡ってII-V-Iが美しく繋がっており、曲自体がアドリブの練習に適した作りであるからです。

当然これを演奏しているRoy Hargroveの演奏が素晴らしいことは言うまでもありません。

長めの音符と短めの音符を効果的に組み合わせながらコードの進行に合わせて非常にスムーズにメロディーを運んでいます。

16部音符が多く耳コピするのは少し大変ですが、この演奏中のフレーズをいくつか切り取るだけでもとても勉強になりますし、単調になりがちなボサノバの曲をメリハリをつけて演奏するための参考にもなります。

というわけでParker’s Moodより3曲紹介してみました。

2018年、ジャズ界を牽引してくれた素晴らしいトランペッターRoy Hargroveに感謝と敬意を込めながらトランスクライブしてみてはいかがでしょうか。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。