ドラムの名手といえどさまざまなタイプのドラマーがいると思います。プレイスタイル? いえ演奏の話ではなく人柄(キャラクター)のタイプのお話です。
バディ・リッチやアート・ブレイキーのようなスター性があるドラマー、またはフィリー・ジョー・ジョーンズやロイ・ヘインズのようなサイドマンとして人気のあるドラマー、一般的には理解されにくいけれど芸術的センスが高いドラマー、そしてあまり表には名前が出てこないけどリーダーの音楽を最大限に引き出せる職人気質のドラマーが存在します。
人柄的に職人気質なドラマーは寡黙だったりそこまで目立つのが好きなタイプではないので、こんなに上手いのになんで知名度がないんだ、、と思うことが多々あります。
いろいろなドラマーがいますがカリスマ性があるドラマーばかりがいつももてはやされ、影で支える人たちはなかなか取り上げられません。
なので今回はマイナーだけどこのドラマーはオススメ! という人物をピックアップしてご紹介したいと思います。
Shadow Wilson(シャドウ・ウィルソン)
1919年にニューヨークで生まれ。割とジャズが始まった頃にいるドラマーで初期にはベニー・カーターやライオネル・ハンプトン、ウッディー・ハーマンなどと共演していました。
後期にはセロニアス・モンクやソニー・スティット、ケニー・バレル、リー・コニッツ、ファッツ・ナバロなどのレジェンドとも作品を残しています。
どんなプレイスタイル?
一言でいうとシンプルです。余計なコンピングをまったく演奏しません。
シャドウという名前の通り影から支えるタイプのドラマーですね。シャドウというのは芸名みたいで本名はロジェール・ウィルソンだそうですよ。
影から支えるからといって物足りないわけではなく、シンプルだからこそ他の楽器が遊べるスペースがあって音楽全体で聴いたときにとても聴きやすいです。
そしてここぞというときのパワーはものすごいです。特にテーマで勢いが欲しい時やソロのビルドアップ時に力を一瞬で全開にして音楽の流れを押し出すのでそのフレーズがくるとテンションが上がります。
ドラムのサウンドを前面に出したり影に隠れたりと存在感を自在に操ることができるプレイスタイルがシャドウ・ウィルソンのトレードマークだと個人的には思います。
そしてブラシのテクニックはピカイチで美しい音色とライトなタッチもウリにしています。
せっかく名前が売れ出したのに…
こういった知名度の低いジャズミュージシャンはなかなか情報がなく、いつも誰とどういうCDを出してるんだろうとwikipediaを参照にするのですが、シャドウは1955年から1957年にかけていろんな人とたくさんのミュージシャンとレコーディングしていることに気付きました。
シャドウが売れ始めたのはセロニアス・モンクとの共演がきっかけでしょう。そこから一気にシャドウの時代が来たかと思いきや1959年にシャドウ・ウィルソンは亡くなりました。
表舞台で活躍できたのが約4年とは短すぎる。。せっかく時代が来たのにここで終わるとは残念という感じですが数少ないながらも名盤を残しています。
シャドウ・ウィルソンが残した名盤
・「Thelonious Monk With John Coltrane」
モンクとコルトレーンが取り上げられる名盤ですがシャドウ・ウィルソンの功績も大きいと思います。ライドを淡々と刻み、コンピングもほとんどしません。
主張するときはテーマや大事なキックだけで極力シンプルな演奏に徹しています。アート・ブレイキーもこのアルバムに2曲ほど入っていて、シャドウのプレイとは正反対なのが顕著にわかります。
ここを聴き比べるだけでもおもしろいかもしれません。
・「Sonny Stitt Plays」
著名なアルトサックスプレイヤー、ソニー・スティットのアルバムです。王道なビバップスタイルなのでこのアルバムではアグレッシブに演奏している場面が結構あります。
コンピングのキレやライドの推進力も大きいという印象を受けますね。それでも基本はソニー・スティットが目立つように影からバックアップしているようなプレイをしている、そんなアルバムです。
・「Kenny Burrell」(Volume 2)
なかなか手に入りづらいこともあるケニー・バレルのアルバム。
アルバム中4-8曲目に参加しています。どうしても他のトラックでケニー・クラークとかのほうが派手で耳についてしまいますがレガートがひたすら美しいです。
5曲目の”Cheeta”ではシャドウの珍しいドラムソロが聴けます。
他のレコーディングとは違うプレイスタイルを見せるアルバム
これもモンクとコルトレーンとのアルバムですが、こちらはカーネギーホールで行われたライヴレコーディングです。
モンクもコルトレーンも勢いに乗っていて音の状態もかなりよく録れているのでかなりオススメです。
シャドウ・ウィルソンは淡々と刻んでいるタイプなのですが、このアルバムではコルトレーンの吹きまくるソロについていくようにコンピングをいつもよりアグレッシブに叩きにいってます。
手のコンピングと足のコンピングを6:4くらいの割合で入れているので他のドラマーと比較すると足が多めですので、ドラマーならシャドウウィルソンのコンピングの部分をトランスクライブすると他のプレイヤーとは違うコンピングスタイルを見つけられると思います。
モンクのソロ中は基本シンプルにしていてモンクがスペースを開けるとすかさず攻めてきますし、モンクがリズミックに弾くとそのフレーズをプッシュするように同じリズムでかぶせてきます。
このバンドで慣れてきたからアグレッシブになったのかヤクでハイになっているせいなのかはわかりませんが、初期の頃と比べるとだいぶアグレッシブになっていて影ではなく前面に出てくるプレイスタイルになっています。
もう少し長く活躍できれば…
シャドウ・ウィルソンは名前の通り影で支えるタイプのドラマーで1957年にどんどん売れ出しましたが、活動期間は1959年までの約2年間。
幸いにもその時代の音源がいくつか残っているのでこれを大事に聴いていきたいですね。
シャドウは最終的にヘロインのせいで人生をダメにしてしまいましたが、薬をやってなければその後も活躍してアート・ブレイキーのような有名ドラマーになっていたかもしれません。
本当に惜しいことです。
他にもあまり知られていないドラマーがいるので次回もオススメしていきたいと思います。