プロのジャズミュージシャンに教わる ツーファイブワンって何ですか?(後編)

まずは前回の練習問題の答えからいきましょう。
※前記事はこちらから。

1.Ebm7(D#m7も可)-Ab7(G#7)-C#M7
2.Em7-A7-DM7
3.Gm7-C7-FM7
4.Am7-D7-GM7
5.Dm7b5-G7-Cm7
6.Bm7b5-E7-Am7
7.F#m7-B7-EM7, F#m7b5-B7-Em7
8.(重要な順に)トニック、ドミナント、サブドミナント。

トニック:安定した状態。起承転結の結。

ドミナント:不安定な状態(コードトーンの3度と7度が増4度の関係にあるということに触れられればなお良し)。物語のクライマックス。起承転結の転。

サブドミナント:これから不安定な状態へ向かう物語の前ふり。起承転結の起や承。

いかがでしたか? 全問正解したらもうツーファイブワンは大分マスターしましたね!
おそらくそこまで難しくはなかったかと思います。

さて、筆記はできるけど、演奏に際しては、このツーファイブワンというコードチェンジをスラスラと演奏するためにはどうすれば良いか、という点が多くのビギナーの悩みでしょう。

一般的にも「ツーファイブワンというものを一応理解はできたんだけど実際にアドリブでやってみようとすると上手くいかない」「ツーファイブワンのフレーズをたくさん練習したんだけど、アドリブ中に上手く当てはめられない」という声が多いようです。

今回はこういったツーファイブワンをスムーズに演奏するための練習方法をご紹介したいと思います。

やっぱり王道?フレーズ練習

先にもちらっと書いた通り、“ツーファイブワン(Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ)のフレーズ”というものがあります。

フレーズとは、こういうメロディーを、このツーファイブワンで演奏するとかっちりはまるよ、というものです。

フレーズがたくさん記載されたものでは、オムニブックというチャーリーパーカーのアドリブのトランスクリプション集が有名です。

フレーズがたくさん記載されています。

ツーファイブワンを手っ取り早く演奏できるようにするためにはこういった、フレーズを直接練習するのが昔から有効とされてきました。

もっと言えば本来はトランスクリプション集などを使うのではなく自分で好きなプレイヤーのソロのトランスクリプションを作成(=耳コピ)するのがベストですが、初心者の方はちょっと心が折れてしまうかもしれません(笑)。

練習方法はシンプルです。

まずはフレーズ単体で練習し、次に伴奏が鳴っている状態で演奏してみると良いでしょう。

近年ではiReal Proというアドリブ練習のために役立つアプリも販売されていますし、YouTubeでバッキングトラックを検索すれば無料で伴奏付きの練習をすることができます。

はじめのうちはゆっくりと余裕のあるテンポで、また狙ったツーファイブワンの場所以外で音を多く吹きすぎないのがコツです。

ただしこの練習方法にはいくつかの疑問が浮かびます。

それはツーファイブワンだったら、必ずフレーズを演奏しなければならないのか?

もしそうだとしたらジャズをバリバリ演奏するためには途方もない数のフレーズをマスターしなければならないのではないか?

結論から言えば必ずしもそんなことはありません。

魅惑の「ナナさん」に頼ろう

というわけで今回主に取り上げたい練習がこれです。

ネーミングに関してはおいおい分かっていただけるかと思います。多分(笑)。

先週の記事で「ハーモニーが“解決”する感じを敏感に感じとることができれば、ツーファイブワンの演奏は決して難しいものではない」と書きました。

これは本来であればツーファイブワンの中で行われるハーモニーの起承転結を正確に感じることさえできれば、ツーファイブワンというコードチェンジを難しい理論のように考えなくとも(ましてや多くのフレーズを練習して蓄積しなくとも)流れるようにスムーズに演奏することが可能になるということです。

またインタープレイという要素を、より複雑で顕著な形で表現することの多い現代のジャズの演奏ではツーファイブワンなどというコードチェンジのみに対してわざわざ頭を使ってはいられません。

かのブルースリーの有名なセリフ“Don’t Think. Feel.”ではありませんが、いろいろとややこしいことを学び全て理解した上で、あとは感じるがままに演奏する状態が理想的です(あくまで究極的には、ですが)。

さて、そのII-V-Iの起承転結に深い関わりをもつのが前回も書いた通り、ドミナントの3度と7度の音です。

まず先週は重要なV-Iに注目して解説してみましたが、今回はついでにII(=サブドミナント)も含めて考えてみましょう。

ツーファイブワン

上段がコードトーン、下段がガイドトーンとそれに関連する音を抜き出したものです。

下段1~2小節目のサブドミナント(Dm7)からドミナント(G7)への2組の音程に注目すると、Dm7の3度(F)と7度(C)の関係は完全5度ですからとても安定した響きです。

先週解説した通り、ドミナントの3度と7度は増4度の関係で不安定な響きであり、そこからトニックへと解決していきます。

ようはこのハーモニーの流れを感覚として身につけてしまえば良いのです。

そのための練習として「魅惑のナナさん」なのですが、具体的にはこんな感じです。

お分かりでしょうか?

サブドミナントの7度からドミナントの3度へ、そして同じドミナントの7度からトニックの3度へと音が移り変わっていっています。

7→3, 7→3……ナナさん、ナナさん……

いかがでしょう? これが魅惑のナナさんです(笑)。

II-V-Iのコード進行の中で遷移していくこの重要な音を実際に演奏し、感覚として身につけることによって、普段なんとなくやっているアドリブの演奏が自然とII-V-Iの流れに乗ってくるようになります。

ただしさらに本格的な演奏のためにはもちろんスケールに対する理解が必要ですし、そもそもコードトーンを正確にスムーズに演奏することができなければこの練習はできません。

ですのでこの練習に当たっては少なくとも各コードのコードトーンだけは把握しておくようにしましょう。

I’ll Close My Eyesを題材に実践

さて「ナナさん」のラインを単体のII-V-Iで、しかも伴奏も無しに演奏したところでほぼ全くピンとこないことでしょう。

ここで実際に曲を使ってやってみましょう。
※突然手書き譜になりますが絶対に気にしてはいけません(笑)。

ツーファイブワン

まずはII-V-Iを意識しやすくするためにII-V-Iの箇所にマークを付けます。

細かい説明は省きますがマークの付け方は図の通り書いてみましょう。

ツーファイブワン

そしてナナさんを書き込んでいきますが、慣れないうちは1小節の間にII-Vが入るショートのII-V-Iはスルーしても結構です。

ツーファイブワン

こんな感じになるかと思います。

もちろんII-V-Iではない部分は何も書き込む必要はありませんし、これを練習するついでにコードトーンや何かアドリブしてみてもいいでしょう。

重要なのは何も考えずにただこのラインを練習するのではなく、II-V-Iの起承転結やそのハーモニーが流れていく様子を意識することです。

慣れないうちは伴奏を鳴らしながらの方が良いでしょう。

複数の手法のミックスが重要

というわけで今回はツーファイブワンの練習方法の1つとして「ナナさん」をメインにご紹介しました。

「ナナさん」の前にフレーズ練習もご紹介しましたが、この「ナナさん」を練習するようになるとII-V-Iフレーズも綺麗に「ナナさん」のラインを匂わせているものが少なくないことに気づくかと思います。

それに気づくようになるとそれらのフレーズを自分なりに変化させる場合にもそのキモが見えてくるようになります。

また、この「ナナさん」のラインに装飾音を足していく形でもアドリブの練習をすることは可能ですし、そこにより多くのコードトーンやスケールを組み合わせていくことによってさらに複雑なメロディを構築すること

が可能になっていきます。

とまあこんな風にII-V-Iに潜む「ナナさん」を把握し、練習することによっていくつかの手法によってより効率よく練習するための足がかりを得ることができます。

アドリブ初心者の方はもちろん、なんとなく自由にアドリブをすることができないなという方もぜひトライしてみて下さい。

魅惑の「ナナさん」があなたの知らない世界を覗き見るきっかけを与えてくれるかもしれません。
※あくまでジャズの話です(笑)。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。