2023年プロドラマーがよく聴いたジャズアルバム集(後編)

こんにちは、野澤です。

前回に続き2023年に聴いたアルバムをご紹介していきます。(前回のはこちらから)

ビセンテ・アーチャー「Short Stories」

メンバーはビセンテ・アーチャー(Bass)ジェラルド・クレイトン(Piano)ビル・スチュワート(Drums)のトリオです。

ジェラルドから辿って発見したアルバムですがなんとリーダーがビセンテ。

久々に名前を聞いたプレイヤーですが過去にはロバート・グラスパーやケニー・ギャレット、フレディ・ハバードなどの名プレイヤーのサイドマンとして活躍していました。今はジョン・スコフィールドのアルバムに参加しています。

アルバムタイトルが「Short Stories」ということで曲がシンプル。

メロディらしいフレーズがそんなにないので抽象的に感じますが、各プレイヤーの個性が光っていて内容的には十分楽しめました。

曲もメロディを聞かせるというよりはこんな即興演奏がしたいというコンセプトがあって作曲している感じに聴こえますね。いろんなコンセプトを持った曲たちが集まっているので短編集みたいな感じもします。

気を張って聴くタイプではなくBGMとしても楽しめる感じなので何度でも聴けるアルバムです。

ジャーミー・デュートン「Anyone Is Better Than Here」

ジェームス・フランシーズをはじめビジェイ・アイヤーやジョエル・ロスなど今活躍するミュージシャンのサイドマンとして活躍しているドラマーのジャーミーが出した最新作になります。

ジャーミーはニュースクール時代の友人で在学中から飛び抜けていました。あまり表に出る性格ではなかったので違うドラマーの活躍が目立っていましたがジェーム・スフランシーズとバンドを組めたことが良かったですね。

こんな形で活躍が聞けて嬉しい限りです。しかもプロデューサーがケンドリック・スコットときたもんでこれまたびっくり。

そして凄いメンバーが揃っています。ベン・ウェンデル(T.Sax)、アンブローズ・アキンムシーレ(Trumpet)、ジョエル・ロス(Vibraphone)、ジェイムス・フランシーズ(Piano)、マイク・モレノ(Guitar)、マット・ブリューワー(Bass)という現在のコンテンポラリージャズ界最強の布陣で挑んだアルバムになりました。1曲目からすぐに引き込まれていきますね。

アルバムのミキシングやマスタリングの音圧がもう少しゴージャスでパンチが効いていたらとは思いますが内容は十分。

全プレイヤーが力を注いでいいものにしようとしている音が詰まっています。今のジャズを追うなら聴いておいて損はない1枚です。

リオネル・ルエケ&グレッチェン・パーラート「Lean In」

久々のグレッチェンが聴けてテンションが上がったアルバムです。リオネルとの相性は抜群ですね。前前作でも最高でしたが今回のは更にシンクロ度も自由度も高く聴いていて爽快です。

「If I Knew」なんかはリオネルの世界観が全開です。何度聴いてもかっこいいですね。

特にドラムが入って来るタイミングが最高すぎてテンションが上がります。ドラムはグレッチェンの旦那でもあるマーク・ジュリアナ。ちなみに息子もコーラスで参加しています。

12曲も入っていてたったの45分という贅沢が凝縮されたアルバムです。BGMでもテンション上げたい時もどんなシチュエーションにも合うのでおすすめの1枚です。

ブライアン・ブレイド「Kings Highway」

こちらも久しぶりの発表で、ブライアン・ブレイド・フェローシップの最新アルバム。新作が出るとは知らず発見したときは驚きでした。

メンバーは盟友のジョン・カワード(Piano)をはじめ、メルビン・バトラー(T.Sax)マイロン・ウォルデン(A.Sax)ジョン・トーマス(Bass)という安定のいつものメンバー。それに加えて最近のライヴではほとんど入ることのなかったカート・ローゼンウィンケル(Guitar)が帰ってきました。

ファンにしてみればかなりアツいですよね。

「Catalysts」のギターソロはカートのフレーズが炸裂します。そのフレーズをブライアンが先読みしているかの如くピッタリとくっついていき緩急を作っていきます。

ブライアンが演奏する音楽は奇跡の連続です。それをアルバムでいつでも聴けるのはありがたいですね。

正直にいうと曲は今までのフェローシップの曲の焼き直しみたいな曲ばかりでどれも既視感があります。

が、演奏内容は最高なので贅沢を言えるなら違うコンセプトで新鮮味のある演奏が聴きたい。。

ラーゲ・ルンド「Most Peculiar」

created by Rinker
Cross Cross Jazz

ギタリストのラーゲ・ルンドの最新作です。アルバムのタイトルを日本語にすると「1番変なの」というタイトルからして奇妙なアルバムです。

まあメンバーもサリバン・フォートナー(Piano)マット・ブリューワー(Bass)タイシャン・ソーリー(Drums)という変人ばかりを集めています。

ベースのマットは一番まともそうですが自身のアルバムの曲は相当変わっています。ドラマーのタイシャンはフリーの界隈でも有名です。

ラーゲはこのメンバーの中で一番変わってそうですが(彼のインスタグラムを見ると変なのが分かります)曲は計算し尽くされていてメロディの盛り上がりどころの作り方やモチーフ、コードワークが完璧です。

音楽を聴いているだけでは中々それが分かりづらいですが1度彼の譜面を見せてもらい分析した時は目から鱗でした。

変わった曲に聴こえますしアプローチも奇抜な時もありますが基本は調和するようなプレイをお互いが心がけていてこの感じもヘンテコですね。

他のアルバムにはない体験ができるのでクセになり何回も聴いていました。

ウェイン・ショーター「Live At the Detroit Jazz Festival」

メンバーがテリリン・キャリントン(Drums)エスペランサ・スポールディング(Bass,Vocal)レオ・ジェノベーゼ(Piano)というショーターのバンドとしては初の組み合わせになります。

ショーターとエスペランサが相当親交が深かったのは知っていますがテリリンも考えてみれば繋がりがありそうですよね。

これはすごいことになるだろうと聴く前からワクワクしていましたが想像の遥か上をいく内容で大満足なアルバムでした。

エスペランサのボーカルがかなり大活躍していますね。基本フリーな感じで演奏するウェインのバンドのコンセプトは変わらないのですがエスペランサが歌うことでかなり聴きやすくなります。

ポップとカオスが共存するような不思議な演奏が繰り広げられていくのでこの際どい音楽ができるメンバーのセンスに脱帽です。

エスペランサとテリリンはジェリ・アレンのトリオで演奏していましたのでこの2人のコンビネーションはかなりいいです。

そのジェリアレンのトリオでやっていた曲”Drummer’s Song”も演奏しているのでジェリのことは少し意識はしているのでしょう。

相変わらずスピリチャルな音を出すウェイン。この境地に行くにはどれだけ徳を積んだら出せるのか。。

いつものダニーロペレス、ジョンパティトゥッチ、ブライアンブレイドのカルテットではないのですがメンバーが変わっても同じような音楽になるのが不思議です。これもリーダーのトップであるウェインのなせる業なのでしょう。

以上が2023年によく聴いたアルバムでした。他にも色々ありましたが印象に残っているものを挙げていくとやっぱり新譜ばかりになってしまいますね。。

今回触れてきたアルバムは満足度も高く特にウォルターやグレッチェンのアルバムなんかは曲がいいのでかなり気に入ってます。

今年もどんな新譜が出てくるのが楽しみですね。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。