こんにちは、野澤です。
寒くなったり暖かくなったり不思議な気候が続いてますがいかがお過ごしでしょうか。
個人的には早く春になってほしいです。
さて、今回取り上げるのは今もなお人気を誇るピアニスト、ビル・エバンスのアルバム。
エバンスが世の中に認知されたアルバム、といえば「Portrait in Jazz」でしょう。
ジャズファンやプレイヤーでこのアルバムを聴いたことがない、知らない、という人はいないと言えます。
エバンスを初めて聞いたのはこのアルバム、という人も多いですよね。
なぜそんなにこのアルバムが聴かれているのか個人的に深掘りしてみたいと思います。
ビル・エバンス「Portrait In Jazz」(1960年)
パーソネル
- ビル・エバンス(Piano)
- スコット・ラファロ(Bass)
- ポール・モチアン(Drums)
アルバムトラック
- Come Rain Or Shine
- Autumn Leaves
- Witchcraft
- When I Fall In Love
- Peri’s Scope
- What Is This Thing Called Love?
- Spring Is Here
- Some Day My Prince Will Come
- Blue In Green
このアルバムからビル・エバンスの黄金期といえるメンバーになっています。
ポール・モチアンは前回も取り上げましたがエバンスのデビューアルバムから付き合いのあるドラマーですね。
今回からベーシストがニュージャージー州出身のスコット・ラファロになっています。
この加入によりエバンストリオのサウンドやバンドコンセプトは激変します。どう変わったのかは後ほど。
曲目はビル・エバンスらしい選曲のジャズスタンダードナンバーに加えエバンスの曲が”Peri’s Scope”とマイルスと共作した”Blue In Green”の2曲になり合計9曲がアルバムに収録されています。
ジャケットも肖像画のようなエバンスの姿が渋くて格好いいですね。
スコット・ラファロが与えた影響
エバンストリオのスタイルがデビューアルバムから激変したのはこのベーシストのおかげと言って構いません。
本来ならグルーヴに徹するように2分音符または4分音符で弾いていくのがジャズベースの主流で、ラファロ登場以前、20年間くらいはどのベーシストもそういう弾き方をしています。
しかもルートやコードトーンをおさえるように弾いていくのでバンドサウンドのどっしりとした土台となるように演奏することこそが美徳ともされていますね。
そんな中ラファロは真逆のアプローチでこのジャズベースの概念を根底から覆していてカウンターメロディックアプローチを使っています。
どういうアプローチかというと「メロディとは全く別のメロディラインでメロディに効果的に絡むフレーズ」のことを指します。
例えば下がってくるメロディーに対して上がるメロディでカウンターするように絡んだりするのもそのアプローチの1種です。
そういうアプローチをとるとメロディックになるので4分音符でコードトーンを抑えていくというより8分音符や3連符などで演奏するスタイルになりますよね。
なので土台をがっしり作るというより土台を作りながらも隙があればメロディと絡んでいくというピアノのフレーズに密着するするようなプレイになり、今までのジャズベースの価値観とは全く違うものとなります。
普通であればこういう新しいアプローチは敬遠されがちですが、この独特のプレイスタイルは緻密なハーモニー作りをするエバンスとの相性が抜群でした。
このトリオが織りなすアンサンブルをインタープレイと呼ぶようになり、後のチャーリー・ヘイデンやエディ・ゴメスなど多くのベーシストがラファロに憧れました。
またポール・ブレイやキース・ジャレットなどさまざまなピアニストがエバンストリオのスタイルに影響されていったのです。
美しくて複雑なハーモニー
このアルバムでの曲はジャズをある程度やっている、もしくは聴いている人ならどれも聴き馴染みのあるスタンダードナンバーですね。
特に”Autum Leaves(枯葉)”や”Someday My Prince Will Come”など初心者でもやる曲ですがこのエバンスのトリオになると曲が美しく整っていながら複雑な部分も混ぜています。
“Autumn Leaves”だとイントロからピアノのリズムとベース、ドラムのキックが複雑です。
曲が始まれば普通に枯葉のメロディに。
しかしここでもラファロがカウンターメロディックアプローチでエバンスに絡んでいきベースソロに繋がります。
ここではベースソロっぽいですが合間にピアノソロだったりドラムが絡んできてみんながソロをやっているかのような演奏を展開していますね。
それもみんなでぐちゃぐちゃにソロをするわけでもなく音を繋いでいくようなソロをするのでお互いがよく聞いてプレイする高度なアンサンブルになっています。
ある程度そのアンサンブルが発展した後はピアノソロになりドラムとベースがウォーキングしだして私たちがよく知っている枯葉になっていきます。その切り替わる瞬間も気持ちよくぜひ聴いてほしいです。
“Someday My Prince Will Come”はピアノ1人でフリーテンポで始めてエバンスがリズムを出し始めたらモチアンとラファロがすかさず入ってみんなでテーマに繋いでいきます。
ここでのモチアンのアプローチが最高です。終始ブラシでサポートするような演奏していてテーマではシンバル系で空間を作るような演奏、ソロに入るとスネアでビートを刻みスムーズに音楽が進み始めます。
この変化だけで曲の雰囲気が明るく前向きに聞こえますね。しかもシンプルに劇的に変化するのでこれはドラマーならかなり勉強になります。
そして7曲目の”Spring Is Here”出だしからエバンスのハーモニーセンスが光ります。あらかじめ用意してないとこの美しくて複雑なハーモニーは出せないだろうというくらい芸術的です。
大学の授業でもこのフレーズを取り上げて勉強したことがありますが音符にしても見事な美しさでした。
オリジナルの”Peri’s Scope”は当時の奥さんにあてた曲。軽快ですがモーダルインターチェンジが途中あったりポリリズムがあったりジャズプレイヤーが好むようなエバンスらしい曲になっています。
ピアノソロもストーリー性があってキャッチー。個人的にはこのアルバで好きな曲です。
“Blue In Green”はマイルスのアルバム「Kind Of Blue」にエバンスが加入した時に収録してこの直後にこのアルバムにも入れました。
「Kind Of Blue」の時とは違ってもっとスペースをとっていたり途中音数を増やしていったりなど静と動がはっきりしています。エバンスが自由にやってラファロがその全てを読み取るかのようにピアノに合わせていきます。
なぜこのアルバムが売れたか考察してみた
時代背景的にエバンスがマイルスのバンドに加入して「Kind Of Blue」を出した後にこの「Portrait In Jazz」がリリースされました。
当時、ジャズの中心はマイルス・デイビスと言って過言ではないほどリスナーからもプレイヤーからも注目されていました。
今もいくつもの資料に当時のマイルスについての記述が数多くあり、いまだに未発表の発掘盤なども発売されるほどです。
そんなマイルスのアルバムを聴いたリスナーが、ビル・エバンスに興味を持ち、聴いてみようと思ったのではと想像できます。
このときのマイルスはクールジャズのムーヴを作り、モードやクラシックなどを取り入れ始めていたため、旧来のジャズプレイヤーのスタイルだけでは彼についていけなくなってきていました。
一方、エバンスはこの全てのエッセンスを持っており、当時の流行にバッチリハマってリスナーの心を掴んだのでしょう。
それに加えてインタープレイができる唯一無二なトリオ。ジャズのスタイルを変えるような革新的な1枚となりました。
スタンダードど真ん中で他のピアノトリオとは全く違うというここまでオリジナリティを出せるトリオは他にいないでしょう。
このアルバムを聴いたことある方もない方もラファロの存在を意識して聴くと印象が変わるかもしれません。