現代ジャズトランペットの祖(?)、フレディ・ハバード

フレディ・ハバート

ザ・男のトランペットという感じの圧倒的な音の太さ、美しい音色、輝かしいハイトーン。

彼の心に描いた「歌」を表現するために、ミスノートをも気にせず猪突猛進に突き進んでいく姿は、トランペッターはこうあるべきという理想像を体現してくれているようでもあります。

90年代以降は唇の不調からか、全盛期と比べると辛そうな演奏があったのも事実ですが、それでもいくつかの素晴らしい作品を残してくれています。

そんなトランペットプレイヤーであるフレディ・ハバードといえば、オーソドックスなスタイルのジャズだけでなく、ジャズロックと呼ばれるようなスタイルの演奏がクローズアップされることが多いかと思います。

しかし今回はそれとは全く異なる、しかしジャズトランペットについて考える際に非常に重要なポイントについて書いてみたいと思います。

ジャズトランペットのターニングポイント

フレディ・ハバードの特徴といえば何でしょうか。

冒頭で書いたように、太い音、美しい音色、輝かしいハイトーンというのは誰が聴いても分かることですが、そのフレージングというか、アドリブに対するアプローチもそれまでのジャズトランペットのスタイルとは少し異なったものでした。

それは必ずというわけではなく、あくまでそういった傾向が見られるということなのですが、フレージングがそれまでのジャズトランペットとは少し異なり、それぞれのコードに対してよりメカニカルに組み立てられているという点です。

例えばこの曲はいわゆるジャズブルースと呼ばれる構造なのですが、ハバードのアプローチが非常に分かりやすく表れています。

 

以前は多くの場合、各チェンジに対してそれぞれのスケールをきちんと吹いていくだけでなく、よりメロディックな要素が多く取り入れられた傾向にあります。

すなわち装飾音符やクロマティック(半音階)アプローチ、ブルーノートスケールなどが頻繁に、そしてモザイク的に用いられ、1つのコードチェンジに対して多様なフレージングを行うことがほとんどでした。

一方ハバード以降になってくると、特にII-V-Iというコードチェンジに対してより素直でシンプルなスケールを用いたり、定型的なアプローチを行うか、そのコードチェンジを一時的に別のものに置き換えてのアプローチ(リハーモナイズやアウトなどと呼ばれる)が増えてきます。

※II-V-Iについては以下の過去記事をご覧ください。

プロのジャズミュージシャンに教わる ツーファイブワンって何ですか?(前編)

プロのジャズミュージシャンに教わる ツーファイブワンって何ですか?(後編)

分かりやすく言い換えるならば次のような感じです。

ハバード以前:既に楽譜に書いてあるコードチェンジに比較的忠実に、しかしそのチェンジの上でなるべく多彩なフレージングを行う。

ハバード以降:コードチェンジに対するアプローチはよりシンプル、定型的に。しかしそのチェンジを一時的に置き換えること(リハーモナイズ、アウト)によってフレージングの多様さを確保することが増えてくる。

これは決してフレディ・ハバードが始めたことではないのでしょうが、トランペッターではハバードが活躍する時期を境にこのような変化が見られるような気がします。

僕は恐らくマイルス・デイビスの第二期クインテット(マイルスがこういう演奏したというわけではなく、彼に率いられたハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスによるリズムセクション)の誕生が大きな影響を与えたのではないかと思いますが、長くなるので割愛します。

いずれにせよ、それまでのジャズトランペットのアドリブに対するアプローチ方法に起きた変化は、その後から今日に至るまでのトランペッターに大きく影響を与えたことは間違いありません。

ニコラス・ペイトンやロイ・ハーグローブをはじめ、現在のトランペッターの特に若い頃の演奏を聴くとそういった傾向は如実に表れています。

トランペッター目線からのオススメ作品

そんなわけで現在のトランペッターに大きな影響を与えたフレディ・ハバードのオススメ作品をご紹介してみます。

Open Sesame

ハバードのデビュー作品です。

この時期のハバードはまだあまりリハーモナイズなどの手法を用いなかったので、コードチェンジに対してシンプルで明快なアプローチを行っており、トランスクリプション(耳コピ)して勉強するのにはうってつけでしょう。

Hub-Tones

created by Rinker
Blue Note

こちらも同じくハバードの初期の作品ですが、とくにタイトル曲Hub-Tonesなんかは若くて勢いに満ち溢れた演奏が本当に爽快です。

リズムセクションによるサポートも熱いだけでなく、アルトとフルートのジェームズ・スポルディングの演奏も非常に独特な雰囲気に溢れています。

ウディ・ショウとの共演作品

ハバードに負けず劣らずどころかより非常に現代的なアプローチが特徴なトランペッター、ウディ・ショウとの共演作品が2つ存在します。

Double Take

The Eternal Triangle

両作品ともまず選曲が素晴らしいですし、2人の演奏スタイルの違いがとても興味深い作品です。

Double Takeの方にはHub-Tonesが収録されていますが、オリジナル版とのアレンジの違いも大変面白いですし、その他にもLotus BlossomやDown Under、The Moontrainなどトランペッターにとっては見逃せない曲でしょう。

またアドリブの研究材料としても、1つの音源で2人の、しかもかなり現代的なスタイルの演奏を聴くことができるので非常にお得な作品です。

At Jazz Jamboree Warszawa ’91: A Tribute to Miles

ワルシャワでのライブレコーディング作品です。

特に1曲目のBoliviaは圧巻です。

この演奏が行われた1991年、ハバードは既に唇にトラブルを抱えており、思うように演奏できていなさそうな点がしばしば見受けられます。

しかしそれでもステージに立ち、しかも安全な領域のみでの無難な演奏に徹するのではなく、彼の持てる能力を限界まで発揮し、結果として素晴らしい演奏を繰り広げるのですから本当に超人としか思えません。

まさにザ・トランペッターという姿勢を体現してくれているような気がしてしまいます。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。