数あるジャズスタンダード曲の中でも「枯葉」=“Autumn Leaves”はあまりジャズに接したことのない方でも比較的多くの人が知っている曲です。
トランペットプレイヤーだけでもマイルス・デイビス、チェット・ベイカーなど多くのジャズミュージシャンによって演奏されています。
さらにこの曲は単に知名度が高いだけでなく、ジャズを学ぶ際にも初心者が取り組みやすい曲として多くの教則本で取り上げられています。
僕が大学時代所属していたジャズ研でも1年生になって初めての課題曲はFブルースと枯葉でした。
今回はそんなジャズスタンダード曲、「枯葉」にクローズアップしてみようと思います。
「枯葉」の歴史をおさらい
非常に有名な曲なので既にご存知の方も多いかとは思いますが、この曲の歴史や由来について簡単に書いておきましょう。
作曲者はジョゼフ・コズマというオーストリア出身のユダヤ人(のちにフランスへ帰化)の作曲家で、数多くのフランス映画音楽を作曲した人物です。
「枯葉」は彼の作品の代表曲の1つであり、一般的にはジャズとして演奏される前はシャンソンのスタンダード曲だったとして知られていますが、実はここが微妙にややこしいのです(僕も今回初めて知りました)。
1945年、「ランデヴー」というバレエ作品のためにコズマが作曲した伴奏曲の一部が、翌1946年「ランデヴー」をモチーフとして製作された映画「夜の門」で用いられることになりました。
そのときにジャックプレヴェール(フランスの詩人、映画作家)が歌詞をつけたものが「枯葉」、フランス語の原題“Les Feuilles moutes”として作られたということのようです。
もともとは「夜の門」に出演した歌手イヴ・モンタンによって歌われたのですが、当時人気のあった歌手ジュリエット・グレコによって歌われたことでシャンソン曲としての知名度を獲得しました。
「枯葉」がアメリカに持ち込まれたのは1949年のことで、それから数年してさまざまなジャズミュージシャンによって演奏されるようになります。
1949年に英語の歌詞をつけるときに本来存在したヴァースに歌詞がつけられなかったのですが、その影響で少なくともジャズとして演奏される場合にはヴァースを含めて演奏されることが稀になってしまいました。
※上の動画だとグレコによる演奏ではヴァースが演奏されています。
「枯葉」はなぜ初心者向きなのか
さて、冒頭で「枯葉」は初級者がジャズの演奏を学ぶときにもよく取り上げられると書きましたが、なぜこの曲は初心者に人気なのでしょうか。
その秘密は一言で言うならば、アドリブを勉強する上でシンプルで分かりやすいコードチェンジを持っているからです。
どういうことかというと、細かい点を除けば、この曲では大きく2つのII-V-Iのみに集中して演奏することができるのです。
しかも曲を通じて転調が起こっていないため、II-V-Iを律儀にきっちり演奏するやり方以外の演奏も容易に可能です。
※II-V-Iについてはこちらから
また、2つのII-V-IもそれぞれメジャーとマイナーですからII-V-Iを練習しだして1曲目に練習するのにはもってこいです。
「枯葉」を演奏するにはこの2つのII-V-Iに注目
Cm7|F7|BbM7
Am7b5|D7|Am7
相変わらず少し乱暴なことを承知で言うならば、この2つのII-V-Iだけ演奏することができれば、この曲はほぼ演奏できたも同然です。
※ジャズスタンダードバイブルでは最後の1段がEb7|D7|Gm7となっていますが、このEb7は機能が似ているのでAm7b5と思ってしまいましょう。
実際にこれらのII-V-Iをきっちり演奏するためには過去記事(プロのジャズミュージシャンに教わる ツーファイブワンって何ですか?前編・後編)にも書いたようにナナさんの練習と、いわゆるツーファイブワンフレーズ
をいくつか演奏できるようにするやり方が有効です。
また手前味噌で恐縮ですが、別の手法としてツーファイブワンに頼らない方法も合わせて練習してみるといい相乗効果を生むことになります。
あくまで初心者向けの記事ではありますが、アドリブソロに行き詰まった方も、もう一度見直してみると新たなヒントが隠されているかもしれません。
特に#3では枯葉を扱っています。
参考音源
キャノンボールアダレイ “Somethin’ Eles”
個人的にはこの演奏がイチオシです。
あまりに有名すぎてまったく捻りがありませんが、どう見てもこれが一番なので仕方がありません(笑)。
リーダーはキャノンボールアダレイということになっていますが、レコード会社との契約の都合でそうなっているだけで、実質的にはマイルスが仕切っていたようです。
素晴らしい演奏であることはもちろんのこと、昔から聴いているので今となっては何の違和感も感じませんが、よく考えてみたら非常に独特で美しいアレンジですよね。
ビルエバンス “Portrait In Jazz”
お次は当然こちらでしょう。
超絶イントロをサラッと演奏してしまうあたり凄いを通り越してもはや恐ろしいとしか言えませんが、それだけでなくエバンスとベースのスコット・ラファロとの掛け合いをはじめとして演奏全体に漂う、良い意味での
緊張感がたまりません。
チェットベイカー “She Was Too Good To Me”
トランペットプレイヤーとしてはこのアルバムを外すことはできません。
チェット・ベイカーの特長である柔らかな音色とリリカルなフレージング。
この曲だけでなく全編に渡ってチェット・ベイカーの良さを存分に味わうことのできる一枚です。
曲によってリズムセクションが異なるのでその違いを聴くのも楽しいでしょう。
ウィントンマルサリス “Standard Time, Volume 1”
こちらもトランペットプレイヤーとしては外すことはできません。
マルサリスのテクニックもさることながら、メトリックモジュレーションを用いた大胆なアレンジは初めて耳にした時衝撃でした。
“Live at Blues Alley”では同様のアレンジで長くソロを演奏しています。
どちらもあわせて聴いてみると良いと思います。