セロニアス・モンクはジャズ界のピカソで奇才なピアニスト

※記事の中にアフィリエイト広告を利用しています。

こんにちは野澤です。

暑さもまだ残りますがだいぶ涼しくなってきていい季節になりましたね。

ベタですが秋になったらジャズスタンダードの”Autumn In New York”や”September In The Rain”を聴いて季節を感じています。

さて今回もジャズの巨匠にスポットを当ててご紹介したいと思いますが・・・。

今回は他のジャズマンとは違い一癖も二癖もあるピアニスト、セロニアス・モンクをピックアップしてみます。

セロニアス・モンク(Piano) 1917年-1982年

先述したようにジャズピアニストの中ではかなりクセのあるピアノを弾くプレイヤーではありますが、奇才と呼ばれ、過去、現代問わず多くのプレイヤーがモンクに影響されてきました。

近代で影響が色濃く出ているのがピアニストではジェイソン・モランやエメット・コーエン。少し前のピアニストだとマルグリュー・ミラーやケニーカークランド。

他楽器ではベースのチャールス・ミンガスやテナーのジョン・コルトレーン、アルトサックスのオーネット・コールマンなど。

ジャズの帝王と呼ばれたマイルスディビスもセロニアス・モンクに影響を受けています。

彼の演奏を知らなければ一度聴いてみる必要があるでしょう。

どうでしょうか。。この演奏が万人受けするかと言われると正直人を選ぶタイプの音楽だと思います。

実際こういうプレイヤーが目の前にいたら、プレイヤーとしてはセッションを敬遠したくなる人もいるでしょう。。

しかし、かれは奇才ピアニストとして賞賛を受け、さまざまなプレイヤーに影響を与え続け、死後何十年経とうがファンが存在し続けています。

何が人々を魅きつけるのか、まずはロジカルに深掘りしてみましょう。

モンクのプレイスタイル

一見すると下手に弾いているように感じるかもしれません。

しかしピアノをパーカッションのように弾くスタイルはモンクならではのスタイルで、これこそが人気を支えるファクターの1つでもあります。

音楽の3大要素はメロディ、ハーモニー、リズム。

3つの要素は別々の楽器で担当することもあります。メロディをサックス、ハーモニーをピアノとベース、リズムをドラム、などのような感じが想像しやすいかもしれません。

モンクはピアニストですから、この中でいうとハーモニーを担当することになります。

が、パーカッショナブルな演奏はハーモニーとリズムという2つの要素を1つの楽器で担当することができます。

この一種ドラム的なアプローチはかなり特殊です。現代でもこのスタイルはそうそう多くありません。

間の使い方も特殊ですね。

単純に音数多く弾きまくることもありますが基本は間を空けて次のフレーズのタイミングをとる瞬間をうかがっています。

ベースやドラムのリズムセクションに音楽を委ねる瞬間とも言えますが、モンクの場合ビビットカラーのような主張が強い演奏になるので弾きすぎるとベタっとしたソロになってしまいます。

そこであえて弾かずに間を空けることによってバンドサウンドのバランスを保っているのですね。

クロマティックなアプローチもしますがホールトーンスケールで上ったり下りたりするフレーズもモンクの特徴です。

メロディックなラインより抽象的なイメージを持たせるようなソロも芸術的。

その特徴的なプレイスタイルが自身の作曲したものにも反映されているのが実に面白いです。

曲の作りがとてもロジカル

曲の中で何度も繰り返されるメロディのことはモチーフと呼ばれます。

全く同じリズムと音階を繰り返すこともありますが、リズムと音を少しずつ変化させて面白くするのがジャズの醍醐味です。

ソロパートも、ぐちゃぐちゃ、でたらめ、に演奏するのではなくこのモチーフを使ってみんなで音楽を展開させるのがジャズマンとしては楽しいのです。

そのモチーフがモンクの曲ではしっかりしています。アルバムMonk`s Musicの中のモンクの代表曲”Well You Needn’t”のメロディを聴いてみてください。

created by Rinker
Riverside

Aセクションは同じリズムを使っても1回目と2回目のメロディが微妙に変化しています。

BセクションはAセクションの最後のフレーズをモチーフに、メロディがだんだん上がって少し曲が盛り上がり少し下降してまたAセクションのメロディへ自然と繋がっていきます。

他のモンクの曲でCriss-Crossの中の”Rhythm-A-Ning”や、Thelonious Monk With John Coltraneの中の”Monk’s Mood”はリズミックなアプローチが取り入れられていて、プレイヤーも惑わされるほどトリッキーな曲です。

それでもモチーフがしっかりしているのでAセクションとBセクションのメロディのつながりがよくわかります。

シンプルなアイデアですがリズムのアプローチを変えるだけでここまで複雑にできるのはすごいですよね。

created by Rinker
ソニーミュージックエンタテインメント

奇抜なピアノのプレイを見せますが意外と曲はロジカルでリズミックなアプローチになっている曲が多いです。

めちゃくちゃなようで見えて実は非常に理論的。数々の名プレイヤーが好む理由が分かるようですね。

きらびやかな美しい曲

“Four In One”や”Brilliant Corners”のような奇抜な曲もありますが”Monk’s Mood”や”Ruby My Dear”のような美しい曲も多く書いています。

マイルスもレパートリーとして演奏しているバラード”Round Midnight”も実はセロニアス・モンクの曲です。

理論がどうこうというわけではなく名ピアニスト、デューク・エリントンのようなゴージャスで美しいハーモニーと情緒的なメロディーで曲が成り立っているのが聴いていてよくわかります。

繊細な曲なのに本人のオリジナルテイクはモンクの独特な力強い歌い方がプラスされて独特な仕上がりになっています。

created by Rinker
LEGACY RECORDINGS

曲の持つイメージと実際の本人の弾き方で曲の雰囲気が変わりますね。

このギャップのようなものも人気の要素の1つでしょう。

モンクのバックボーン

奇抜なプレイをするモンクですがそのスタイルはどこからきたのでしょうか。それは彼が習い始めたピアノの師匠の影響がありました。

モンクはノースカロライナで生まれたあと3歳でニューヨークに引っ越し、近所のピアノが弾ける人の所へ行って6歳からピアノを始めました。

そこのピアニストがファッツ・ワーラーやジェイムス・ジョンソンなどのストライドピアノの演奏スタイルを教えてくれたそうです。

他にもバッハ、ベートーベン、リストなどのクラシックも勉強したそうですがそっちの方にはハマらずクラシックのレッスンは諦めたそうでジャズに集中していきます。

16歳くらいからは教会で演奏してお金をもらいながら過ごしてきました。

その後20歳を過ぎてくらいからビバップが始まったミントンズというジャズクラブでホストピアニストとして呼ばれてジャズの演奏仕事をするようになりました。

モンクが直接インタビューされた時の伝記も残っており、そこに影響されている音楽家を述べていたのですがデューク・エリントン、アート・テイタム、ジェイムス・ジョンソンなどストライドピアノを得意とするピアニストを挙げています。

奇抜で独特なアイデアを使うモンクですがルーツはジャズど真ん中。

変わったプレイですがミントンズではディジーガレスピーやチャーリーパーカー、ケニー・クラークやマイルス・ディビスなどのミュージシャンと関わってビバップを築き上げ、ジャズの可能性を広げていきました。

オススメのモンクのアルバム

・「Genius of Modern Music」

1956年にブルーノートレーベルから出したコンピレーションアルバムです。これを聴けばモンクの代表曲が一気にわかります。有名曲だと、

  • Round About Midnight
  • Ruby My Dear
  • Off Minor
  • I Mean You
  • In Walked Bud
  • Epistrophy

などが収録されていてvol.1と2があるのでぜひ2枚とも集めてモンクの世界に浸ってみてください。

コンピレーションなので5年という長期にわたってレコーディングされたものが入っています。

なのでいろんなメンバーでレコーディングしていてアート・ブレイキー、ミルト・ジャクソンなどのレジェンドもこのアルバムに参加していて聴きごたえもあります。

・「Brilliant Corners」

リバーサイドレーベルから出したアルバムでジャケットもジャズマニアの中で結構有名です。

曲はほぼモンクのオリジナルでかなり挑戦した内容になっています。

1曲目のアルバムトラックである”Brilliant Corner”では25テイクくらい録ったとか。。メンバーも相当苦労したそうです。

そのメンバーはとても豪華。サックスにソニー・ロリンズ、トランペットにクラーク・テリー、ドラムにマックスローチ。ベースはオスカー・ペティフォードがほとんど弾いて1曲だけポール・チェンバースが参加しています。

百戦錬磨のミュージシャンがこれだけいて苦戦するレコーディングがあるのかと思うとモンクの世界観が恐ろしいですね、。この作品にどれだけの音楽の力が込められているのかぜひご自身の耳で確認してみてください。

・「Monk’s Music」

created by Rinker
ユニバーサル ミュージック

このアルバムではリバーサイドレーベルで初めてスレテオレコーディングされたアルバムとなっていて、これより前のアルバムと比べて音質がグンと上がっていてピアノの音もサックスの音もかなりクリアに聞こえます。

このアルバムではホーンが中心にテーマを演奏しています。このアルバムからジョン・コルトレーンがモンクのバンドに加わり昔から長い付き合いのコールマン・ホーキンスも参加。

他にもアルトのジージー・グレイス、トランペットのレイ・コープランドも入れて4管の編成になってとてもゴージャスなサウンドです。

ブルーノートのアルバムと被っている曲もありますがそれとは違った広がる世界観で曲を楽しめます。こっちの方が曲の展開がドラマティックで個人的には好きなアルバムです。

 

以上が私がオススメするモンクのアルバムでした。

他のプレイヤーとは全く違う奇抜なアプローチでジャズの表現の幅を広げたジャズ界のピカソ的な存在。

普通じゃないアプローチでもモンクなら許される、というかモンクの手法が多くのジャズプレイヤーやオーディエンスを魅了しています。

きちんとジャズのルーツを含みながら自身のリズムのアプローチやハーモニーのアイデアを曲やアドリブにうまく混ぜて昇華させている音楽性に惹かれるのでしょう。

初めてモンクを聴く方はなかなか良さを理解するのに時間がかかるかもしれませんがずっと聴いているとだんだんハマってきますよ。



ABOUTこの記事をかいた人

アバター画像

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。