音楽留学して学んだことはどういう所で役に立っているか

ニューヨーク ジャズ 留学

第1回:音楽留学、実際にかかった費用は?経験者に聞く

第2回:音楽留学のときにあってよかったもの、あればよかったもの

第3回:ニューヨークにジャズで音楽留学するには、演奏技術はどの程度必要?

今回は留学して正直どうだったのか個人的感想をお伝えしていこうと思います。

結果的に言うとニューヨークに留学して本当によかったと思いますし、全く後悔はしていません。

もちろん大変なこともたくさんありましたが、留学という経験は今の自分に大きく影響しているので、もしもしていなかったら…、と思うとおそろしくなるくらい私にとって必要な経験となりました。

経験と一括りに言っても、音楽のこと以外にも日本人とは違う考え方だったり、文化のことも含めていい経験をしたと思います。

なので、どんな経験をしてそう思ったのかをまず最初にお話ししたいと思います。

留学を通して経験したこと

文化

ニューヨークでの生活だけですが一応アメリカの文化を学ぶ機会になりました。

郷にいれば郷に従えと言いますが、そこでの生き方は周りのニューヨーカーをみて学ぶものが多かったです。

ニューヨークでは知らない人といきなり話をすることが普通なので、道で声をかけられたり何か困ったことや言いたいことがあれば道で人に聞くのが当たり前になりました。

最初はなかなか恥ずかしがったりしてできなかったことですが「わからなかったら聞くのが当たり前」という雰囲気がみんなから出ていたので徐々に慣れていった部分です。

知らないことは知らない、わからなかったら人に堂々と聞く、というのがアメリカのスタンスなのであえて空気を読むということはしません。

空気を読むというのが当たり前な日本人からは信じられなかったのですが、客観的に見ていると潔くて恥ずかしく感じなくてもいいんだと心が開けるようになりました。

それとドアを開けたら後ろや前の人も入れるようにドアを押さえてあげる行為も文化の一部として経験しました。

ニューヨークほぼ9割の人たちが扉を開けたときに自分の後ろにいる人たちのためにドアを押さえてあげます。すごく紳士的ですよね。

電車でも扉が閉まるときに押さえて入れてくれる人もいます(日本では迷惑行為ですが。。)。

みんな自己中心的だと思いがちですが日本人にはない紳士的な部分があったりするのでそれは今でも見習ってやっています。

充実した授業

ニュースクール(留学していたニューヨークの学校)での授業はとても充実したものでした。率直に思うところとしては論理的でシンプルでわかりやすいというところです。

授業はハーモニー、聴音、歴史、アンサンブルなどいろいろ分かれています。どれも目的がしっかりしているので最初の授業はシラバスを渡されて身につけるテクニックとその使い道を理解させてくれるように教えてくれます。

その後授業が進んでいって出された課題をやっていくうちに不思議と、それができるようになってコードのテンションを全部聴き分けられたり、新しく自分で作ったスケールで曲を作れるようになっていました。

アンサンブルもコルトレーンアンサンブル、ウェインショーターアンサンブルなど授業内では特定のプレイヤーの曲だけを使ってコンセプトを学び深く掘り下げていきました。

しかも、実際にそのプレイヤーと演奏していた先生から学ぶので説得力はとても大きかったです。

日本だと根性論や感情論、上下関係などが重視されがちですがそういうことはほとんど言われませんでした。

みんな好きだから音楽をやるし、本気でやっているのでじっくりと丁寧に教えてくれます。

だからといって甘い世界ではないので、やらないのであればそれはそれで”自己責任”ということも経験しました。

学年のドラマーが集まる授業でテストがあったのですが、ドラムを囲むようにみんなが円になって座り、挙手制で真ん中のドラムを順番に使いながら、先生の出すお題をこなすテストがありました。

ドラマーがこんなに集まっていろんな角度から見られたり成績をつけるテストということもあって緊張感ある中でのテストでした。

私と何人かがテストをやると挙手する人がいなくなり「あと残りの人たちはやらないの?」と先生が聞いても誰も出ませんでした。

そうすると「じゃあテストはおしまい。今日やらなかった人たちは点数ないから来期またこの授業とってね。じゃ。」と言って先生は教室を出て行きました。

「ニューヨークでは自分から行かないと仕事ないよ」というのを同時に教えてくれたのですが、恐い世界ですよね。。

余談でしたが、学びたい生徒にはとことん教えてくれて、のびのび音楽ができるようにわかりやすく教えてもらえます。

今の自分にとっても影響があり、感情論をぶつけない、できなくても怒らないということは日本に戻ってきてからも続けています。先生の教え方の質で生徒が変わるのでそれを肝に銘じていますね。

ライブ鑑賞

ライヴを週1ペースで見に行く機会も今までなかった経験でした。

それがどれも刺激的だったので「これを求めていたんだよ!」という実感が強く、留学して本当によかったと感じることの1つです。

演奏者のプレイの1つひとつが美しくて格好いいので、こういう風になりたいと毎回思えるのは自分自身のモチベーションにつながり、練習するときのイメージが大いに湧きます。

演奏のテクニックだけではなく、ミュージシャンシップも同時に学びました。ニューヨークのミュージシャンは譜面台出して譜面を見る人たちの方が少ないです。

譜面出して演奏しているときは当日その場で渡された譜面ですが、それでもキメがいっぱいある曲を高いレベルで演奏しているので、このぐらいでないとニューヨークでは生きていけないんだなと思い知らされました。

友達

一番接する機会があるのは学校の友人ですので友人を通して経験することがたくさんあります。

一緒に練習したり、みんなで集まってセッションしたりするのですが、周囲のレベルは驚くほど高いので毎回充実感を味わいながら、アンサンブルの仕方を自分なりの経験として積んでいけました。

毎回録音していたのでセッションが終わったら1人でそれを聴きながら反省会をして次に繋げていくようにしてたので、自分自身と向き合って練習する機会が作れたのも友人たちのおかげです。

今その友人たちは有名なミュージシャンと共演して活躍しているので、それも誇らしく感じますし自慢のできる友人です。

リサイタル

卒業前には自分のリサイタルをメインホールで行うことが必須になっています。

自分のライヴを行う機会は少なかったので念入りに行うのですが、今まで一緒にセッションして共に技術を磨き上げてきた信頼できる友達と一緒に、最後に演奏できるのは嬉しかったですね。

選曲やリハーサルの進行だけではなくステージでのMCも自分でやらなければいけないので、曲のエピソードを語れるように英文で考えて話がウケるかどうかを悩んでいました。。

当日はもちろん緊張しましたが今まで学んできたことを活かして、思うようなステージングができたので、これからは自分でしっかりやっていけば大丈夫、と、自信につながるような経験ができました。

そのリサイタルが終わった後に見にきていた黒人の顔見知りじゃないおじさんが寄ってきてお話ししてくれたんです。

「今君はニュースクールで大金はたいて大事なものを得たんだ。今からこの大事ものを生かすもドブに捨てるのも君の行い次第だからこれから頑張れよ」と言われました。そのおじさんの言葉は今でも刺さるものがあります。

上にあげたみたいに色々経験したものが影響して今の自分に役に立っていることがいくつかあるので、それも軽く例をあげてみようと思います。

留学して今の自分に役立っていること

作曲

授業でハーモニーの聴き取りとスケールの勉強をかなり行ってきたので頭でイメージして出てくるメロディやコードワークなどが広がりました。

卒業後自作した私のCDではオリジナルをほとんど収録することができたり、私自身のライヴでもオリジナルを演奏することをメインにしているので学んできた知識はかなり役に立ちました。

学校でセッションしていた友人のオリジナル曲や先生の曲なども勉強になるので、ここで得た知識と感覚は今もかなり影響を受けているな、と思います。

英語での情報収集

英語が使えるようになったのでYouTubeでの海外ビデオのインタビューや英文で書かれてある伝記なども読めるようになりました。

ジャズにかかわらず音楽全般は、英語での情報量のほうが日本語よりも多いので翻訳がついてなくても知識が入ってくるのはかなり便利だと感じます。

楽器の注文も日本の代理店を通さずに直接向こうの楽器店やメーカーと連絡を取って購入できるため、仲介手数料を取られることもありません。

情報収集以外にも演奏の仕事で外国のミュージシャンから演奏を受けることもあるので、そういうときにもコミュニケーションが取れる英語は今でも役に立っています。

アンサンブルテクニック

他の楽器の人たちとアンサンブルするテクニックは、やはり人と演奏することで上手くなります。なので学校の仲間との毎回のセッションがいい経験になりました。

学校だからこそ部屋をすぐに借りて友達を集めてすぐセッションして、自分が課題にしていることや取り組んでいる曲、試したいオリジナル曲など、なんでも実験できる場があるのは大きいですよね。これは本当に大学に通ってよかったなというメリットです。

その経験が積み重なって留学する前よりも理解を深めながら、周囲とアンサンブルできるようになりました。

自分が何をやっているか自分自身が把握できると伝わるものも説得力が出ます。そして何より、演奏していて楽しいです。

音色

留学していなかったら今の自分の音はないだろうなと思います。自分自身の根っこの部分は変わりませんが、音色のスピード感やタッチなどが昔の録音と聴き比べると変わった気がします。

日本で大学4年生だったときに、自分の音が本当に嫌でしかたなく練習していましたが、これが全く変わりませんでした。

それが留学してからはウソみたいにするすると解決していったような気がしました。

おそらく理想とする音が間近に聴け、その場で真似しながら練習できるのが大きかったのだと思います。リズムやフィールも先生のお手本から直接体に響いてくるのでこれも影響しているでしょう。

今もまだ追及中ですが、お客さんや共演者に海外でやってきた音がすると言われることがあるので、少なからず今の自分のプレイに影響しているんだなと感じます。

留学は必ず将来につながる

私は、日本の大学4年間では学び足りないと思ったのと、自分が出している音に全然満足できないと思ったことをきっかけに、そのときの自分を変えられると信じてすがりつくような思いで渡米しました。

そのなんとかしたいという思いがつながって、留学してからの学びはとても大きな財産になりました。

大学が終わったあと1年は向こうで活動して戻ってきましたが、結果的に学びたいことを吸収し、自分が求めていたものに少し近づけたので、私の留学の目標としては達成できたかなと今振り返ればそう思います。

もちろん自分だけではなくニューヨークでさまざまな日本人ミュージシャンと出会いましたが、彼らもほとんどはしっかり現地で踏ん張って己を向上させている人ばかりでした。

みんな留学して、そこから自分自身の可能性を見つけられているので、前の記事から何度も言いますがこれから留学をしたいけど迷っている方はぜひ検討することを強くオススメします!

4回にわたり留学について書いてきましたがいかがだったでしょうか。また別の機会に違う話題があれば取り上げていこうと思います。

ではまた!



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。