トランペット初心者の参考にオススメのブルー・ミッチェル

ブルーミッチェル

ハードバップを演奏するプレイヤーのことを、ハードバッパーなんて呼んだりもしますが、今回取り上げるブルー・ミッチェルはまさにハードバッパーと呼ぶにふさわしいトランペッターであると思います。

まずはブルー・ミッチェルといえばこれ! という演奏。

トランペッターであれば誰しも納得いくであろう超有名な作品、”Blue’s Moods”に収録されているジャズスタンダードナンバー、”I’ll Close My Eyes”です。

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左手に吸いかけの煙草とその箱を持ち、トランペットから湧き立つように見える煙…演奏を聴く以前にジャケットデザインからしてまさにジャズって感じです。

クリフォード・ブラウンやリー・モーガンなどのハードバップ全盛期を支えたトランペッターらと同じく、ブルー・ミッチェルもハードバッパーとして時代を駆け抜けたトランペッターの1人でした。

そもそもハードバップとは

厳密な定義づけは難しいところですが、1950年代頃から生まれたモダンジャズのスタイルの1つで、それ以前に存在したビバップというスタイルを少々洗練させたようなイメージです。

ビバップは、プレイヤーには強く支持されたものの、実験的で、ときに聴き手に難解な印象を与え、このスタイルの盟主であったチャーリー・パーカーの死後、ジャズはクールとハードバップという2つの流れに分岐しました。

クールは、カリフォルニアなどアメリカ西海岸で流行し、主に白人プレイヤーによって演奏され(発祥はマイルス・デイビスだと言われていますが)、洗練されたメロディとその名の通り少し抑制的な”クール”な雰囲気を持ち味としていました。

一方ハードバップの方はというと、ニューヨークなどアメリカ東海岸で主に黒人プレイヤーによって演奏され、ビバップよりは洗練されていつつも、より挑戦的でいわゆる”アツい”演奏が特徴でした。

分かりやすい例としては、クール派のチェット・ベイカーとハードバップ派のクリフォード・ブラウンの演奏を比べてみれば一目瞭然でしょう。

ハードバッパーとしてのブルー・ミッチェル

アツい演奏が身上であるはずのハードバップ。

ブルー・ミッチェルもご多分に漏れず熱い演奏をしますが、リー・モーガンなどに比べれば少し落ち着いている方です。

彼の音色の特徴は線が細くダークでいて、しかし伸びやかに飛んでいくような感じで、現代のトランペッターに例えるとその音色はロイ・ハーグローブに似ているような気がします。

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ハードバップだけでなく、後期に見られるようなファンク要素を取り入れた演奏を聴いてもその特徴は変わりません。

アドリブのお手本としてうってつけ

ブルー・ミッチェルのもう1つの特徴として、アドリブを学ぶためのお手本として非常に優れているという点があります。

たとえばクリフォード・ブラウンの演奏は誰が聴いても抜群にカッコいいのですが、もし仮に完全にコピーされたアドリブソロの楽譜を渡されたとしても、それをまともに演奏することは容易ではありません(理由はクリフォード・ブラウンの記事を参照)。

しかしブルー・ミッチェルの場合は演奏するのにクリフォード・ブラウンほどのテクニックを必要としないだけでなく、曲のコードチェンジに沿って非常に美しいメロディラインを描いたアドリブソロを展開していくのです。

ですからアドリブを学びたいと思っているトランペッターが初めてトランスクリプション(耳コピ)に挑戦する場合には非常に良い教材となることは間違いありません。

特に冒頭で紹介した”I’ll Close My Eyes”は、現代のほぼ全てのジャズトランペッターが学んでいると言っても過言ではないでしょう。

トランペッター目線からのオススメ作品

多くのリーダー作品を遺しているブルー・ミッチェルですが、ホレス・シルバーのサイドメンとしても活躍したことがよく知られています。

Blue’s Moods

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ユニバーサル

冒頭でも取り上げましたが、これは絶対に外せない作品です。

ブルー・ミッチェル本人の演奏が素晴らしいのは言うまでもないことですが、ウィントン・ケリー(p) 、サム・ジョーンズ(b) 、ロイ・ブルックス(ds)という強力なリズムセクションはトランペッター以外の方も必聴です。

聴いてみると地味な印象を受けることかと思いますが、I’ll Close My Eyesだけでなく全ての曲が「多すぎず少なすぎず、ちょうどいい」バランスの上に成り立っている素晴らしい作品です。

…まあ、聴いたことのない人は、いませんよね?

Horace-Scope

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Blue Note

ホレス・シルバーによる作品で、ブルー・ミッチェルは彼のもとで”Blowin’ the Blues Away”や”Song for My Father”などの重要な作品に関わっています。

特にこの作品中の”Nica’s Dream”でのブルー・ミッチェルのアドリブソロは、アドリブを学ぶうえで非常に参考になるものです。

冒頭の1コーラスだけでもいいので、頑張って耳コピしましょう。

トランペット初心者であれば、それだけで景色が一変します。

The Things To Do

ホレス・シルバーの元を離れてからの第1作品目です。

最後に収録されている”Chick’s Tune”のタイトルの通り、ピアノにチック・コリアを迎えた作品なのですが、1曲目の”Fungii Mama”ではカリプソのリズムを取り入れたりと、よくハードバップにある、新しい風を吹き込もうとしているような曲選です。

他の曲に関してもよくアレンジされており、スイング一辺倒だった時代からの脱却を図ろうとした時代の流れを感じます。

Big 6

ブルー・ミッチェルの出した初めての作品です。

デビューアルバムとはいえ、彼の持ち味である「ちょうど良さ」や歌心がよく表れている作品だと感じます。

フロントにはブルー・ミッチェルの他、カーティス・フラー(tb)とジョニーグリフィン(ts)。

そういえばこの作品、ベニー・ゴルソン(ts)による有名なスタンダードナンバー、”Blues March”が初めて吹き込まれた作品なのだそうですが、その収録にゴルソン本人ではなくグリフィンが参加しているというのも変な話です(笑)。

もしかしたらその裏には何かのエピソードがあるのかもしれませんね。



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1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。