隠れた名ドラマーのアート・テイラー

アートテイラー

ジャズドラマーの中で誰が一番好き? と聞かれて真先に答えるのがこの人、アート・テイラー

アート・テイラーといえば、サイドマンでセロニアス・モンク、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランドやその他多くのミュージシャンと共演しています。

共演している人数もですがリピート率も高く、特にレッド・ガーランド、コルトレーン、ケニー・バレルなどのミュージシャンのたくさんのアルバムにサイドマンとして携わっています。

しかし実は日本では、マックス・ローチ、アート・ブレイキー、フィリー・ジョー・ジョーンズなどの有名ドラマーほど知名度がないイメージです。

なので今回はこのアート・テイラーに焦点をあてて、彼のプレイスタイルと参加している名アルバムを紹介していきたいと思います。

アート・テイラーのプレイスタイル

根っこのプレイスタイルとしてはスイング系のバップドラマーと言っていいでしょう。

ソリストのさまざまなフレーズに反応してインタープレイをしていくスタイルというよりは、グルーヴの流れを大切にしているプレイヤーです。

グルーヴの作り方もリズムを前に引っ張ってくれるほうで、曲の展開も凄くスムーズに進めていきます。

なので曲が明るくクリアなのでアルバムを通して聴いていても印象がとても良いです。

アート・テイラーのグルーヴの凄さがわかりそうなイチオシの演奏です。

ヘッドホンやオーディオなど、少し音質のいいデバイスを通して聴いてほしいんですが、シンバルの4ビートのスムーズなリズムと、キンキンしすぎない少しダークで少しドライなサウンドがドラマー目線で言うとたまらないんです(笑)。

グルーヴもリズムの出音のポイントがみんなより少し速いオントップと呼ばれる感じで叩いています。

ただオントップなだけにドラムソロになると大抵走ります(笑)。そこが人間味もあって好きです。

これは好みの問題ですがアート・テイラーに限らず完全無欠のプレイヤーよりどこかしら人間味(親近感)があるほうが好きです。

少し話がそれましたがアート・テイラーはグルーヴを大事にしながら皆んなのサウンドに溶け込むように音楽を創っていく名ドラマーと言えるでしょう。

アート・テイラーが関わった名盤

ジャズの名盤といえばこれ! みたいな音源はいくつもあるのですが今回はアート・テイラーが関わった名盤をいくつか紹介していきます。

マイルス・デイビス「Miles Ahead」

トランペッター、マイルス・デイビスと作編曲家のギル・エバンスが共作で世に出した名作。

大編成でレコーディングされたこのアルバムは、主にギル・エバンスがアレンジを担当しています。

基本的にマイルスがメロディを吹いてソロを取っていくのは普通の演奏と変わりないのですが、周囲はアレンジがしっかり決められてそのアレンジに沿ってマイルスがソロを展開していきます。

当時もそうですが今聴いても新鮮なコンセプトで作り込まれています。

ビッグバンドのようなきらびやかなフィーリングもありますし、クラシックのオーケストラのような雰囲気でジャズのハーモニーが楽しめるアルバムです。

そんなアルバムのドラマーに、アート・テイラーが起用されました。

当時、少し前からフィリー・ジョーがマイルスバンドで叩いていたのですが、薬物の問題があり、音楽的に繊細な反応のできるアート・テイラーが選ばれたようです。

ジョン・コルトレーン「Lush Life」

アルバムタイトル曲は残念ながら演奏してないですが、5曲あるうち最初の3曲に参加しています。

このアルバムでのアート・テイラーはいつもと比べると少し落ち着いています。

編成はサックスとベースとドラムのコードレストリオです。

コルトレーンについていくよりベースとドラムで流れを作っていく感じです。

余談ですが、この頃マイルスのバンドで演奏していた影響で、アートはマイルスからよく「フィリー・ジョー・ジョーンズみたいに叩け」とか、「左足のハイハットを強く踏むな」と言われていたそうです。

なのでフィリーのフレーズが少し入っていたり、何かしら影響されていたのがこのアルバムから伝わるような気がします。

ちなみに3曲目の「Trane’s Slo Blues」でアートのソロがあるんですがやっぱりテンポが走ります。

デクスター・ゴードン「One Flight Up」

ブルーノートから出たアルバムですが、パリでレコーディングしていて録音環境が少し変わっているようです。

イヤホンやヘッドホンで聴くとライドシンバルよりスネアがかなり目立つ感じなのでステレオで聴いたほうがいいアルバムです。

コルトレーンのラッシュライフよりも後のアルバムで、叩き方やフレーズも少し変わっています。

特に1曲目はエルビン・ジョーンズの雰囲気に寄せてるような感じがします。

ジャッキー・マクリーン「swing swang, swingin」

こちらもブルーノートからのアルバムです。

このアルバムは、個人的にアート・テイラーらしさがしっかり出ているアルバムだと思います。

特に3曲目の「Stablemates」のバンドのサウンドや、ソリストとリズム隊のバランスがとてもいい感じで聴いていてとても気持ち良いです。

アルバムのタイトル通りやはりスイングといえばこの人と挙げたくなるドラマーですね。

最後に

アート・テイラーといえば、積極的にスイングしていくライドシンバルが特徴的というのがアルバムをチェックしていくとわかると思います。

好みが分かれるドラマーというよりは万人受けしやすいプレイスタイルのドラマーです。

あまり有名どころに入るかはわかりませんが、これを機会にぜひ深掘りしてほしいドラマーの1人ですよ。

 



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。