「Tokyo ’96」美しさと音楽の可能性を求めるキースジャレットのピアノトリオ

Tokyo`96

一番好きなピアノトリオはと言われれば迷わず「キースジャレットのピアノトリオ」と即答できるくらい好きです。

メンバーはゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットで、ここ40年近くはスタンダードしか演奏しないトリオです。

スタンダードをたくさん演奏してるしビッグネームだし聴いておきたくなる内容ですよね。

今回はその中でも特に好きなキースのアルバムを取り上げて、その素晴らしさとなぜ難解に聴こえるのかも交えながらレビューしていこうと思います。

Keith Jarrett「Tokyo ’96」

パーソネル

  • Keith Jarrett(Piano)
  • Gary Peacock(Bass)
  • Jack DeJohnette(Drums)

曲名

  1. It Could Happen To You
  2. Never Let Me Go
  3. Bille’s Bounce
  4. Summer Night
  5. I’ll Remember April
  6. Mona Lisa
  7. Autumn Leaves
  8. Last Night When We Were Young
  9. John’s Abbey
  10. My Funny Valentine

全てがリハなしのライヴアルバム

聞いたところによるとこのトリオはリハーサルをやらないとか。

「まあスタンダードだし大丈夫っしょ」と、思っている…のではなくてメンバーの確固たる信頼関係があって、イマジネーションを膨らませてその場での即興を大事にしているのでリハーサルをしないんだと思います。

ミュージシャンあるあるですが、一度リハーサルで曲やバンドの感じをつかむと本番でも同じことをやってしまいます。

え? 本番で同じことをやるためのリハーサルじゃないの? と思うかもしれませんが、リハーサルをすると逆に新鮮さがなくなって自由度が減ってしまう場合もあるんです。

プロ、アマ問わずよく演奏される曲であるスタンダードとなれば、尚更イメージが固まってしまうので本番だけでいいのでしょう。

このトリオではスタンダードを演奏しているはずなのに違う曲に聞こえるくらいどんどん発展していきます。

マジックがかかったように新鮮に聴こえるスタンダード曲

よく演奏されるスタンダードをこうも新鮮に弾けるのがこのピアノトリオの凄いところの1つです。

1曲目からジャズスタンダード定番中の定番である「It Could Happen To You」。

最初のキースのイントロからきれいで明るいサウンドを創っています。

イントロが終わりそうな時にゲイリーピーコックとジャックディジョネットがスッと入ってきます。

キースのピアノをサポートした瞬間テーマに入っていく流れがかなり自然です。

テーマに入ってからも後半からアドリブが始まるかのような匂いを感じさせてソロパートに入っていくので、どういう展開に発展するのかワクワクさせられます。

ピアノソロ中はアイデアが途切れないようにするためにリズムのグルーブが解決するようなフレーズがほとんど出てきません。

ゲイリーもジャックも解決を主張することがないのでじっくり聴いているとフワフワした印象が続きます。

ですが全員のリズムがはっきりしてお互いを聞き合っているので、全体的には音楽としてしっかりと構成されます。

ドラムソロの途中とか崩壊しているように聴こえなくもないですが、3人とも音楽の着地点が見えているのがわかるのであえてドラムソロにスペースを作っているのでしょう。

その場でクリエイティブに音楽をするための決断を毎回3人が対等に決められるのはすごすぎますね。。

「Never Let Me Go」や「Mona Lisa」は明るいバラードで浄化されるようなサウンドです。

特にゲイリーピーコックのソロ、Mona Lisaでは後半メロディーをとっている場面もあるんですが、優しく歌いかけてくるようなフレーズが本当によすぎて感動します。

他にも定番曲「Autumn Leaves」や「Billie’s Bounce」もこのアルバムの聴きどころですね。

Billie’s Bounceではジャックディジョネットが最初のテーマ終わった後でも短い同じフレーズをずっと繰り返し叩き続けています。

キースもゲイリーもわかっていながらそこまでドラムに干渉せず普通にソロをとったりウォーキングしたりして弾き続けています。

ジャックが元のスイングのパターンに戻ってきたときにキースが曲のメロディをフェイクしながら弾く場面がありますが、新たな展開にいくためにワンクッション置く役割としてあえてテーマのメロディを匂わせているのでしょう。

曲全体が見えているからこそ、こういう機転がきくんでしょうね。

「Summer Night」からの「I’ll Remember April」の曲のつなぎも引き込まれます。

ゆったりで落ち着いたサマーナイトですけどだれることなく美しい音楽が展開されます。途中爆発するようなキースのソロがたまりません。

ソロが終わって後テーマに入ったらまた落ち着いた雰囲気になって終わるんですが、その後にジャックがドラムソロをとってI’ll Remeber Aprilに繋げていきます。

タムを使ってメロディックにソロをするとこから始まり、ラテンの明るい感じをシンバルで出していきます。そこにすかさずキースが絡んできますが入ってくるタイミングが絶妙すぎて「そこから入ってくる?!」驚かされます。

そこからどうテーマにつながるかは出たとこ勝負。それでもこの3人の信頼関係なのですぐにぴったりと息が合って形になっていきます。

1曲通してラテンのフィールで進んでいき、キースがしっかりリズムを出しながら明るいフレーズでソロを弾いているのが特徴的です。

前の曲の暗さとのギャップがあって余計に明るく聴こえますね。

エンディングではジャックのアフリカのようなリズムとキースのソロ(個人的にはこれがライオンキングの曲に聴こるメロディ)がいい感じに合わさって最後は曲が終わるのを惜しみながら“人力”フェードアウトで終わります。

曲が終わっても音楽がまだ続いていくかのような余韻がおいしいところです。

最後の「My Funny Valentine」でもゲイリーの渾身のベースソロが聴けて最後にキースが美しいメロディで締めくくります。

その場にいたかのような雰囲気が味わえますが、これを聴くと本当にこのライヴを生で見たかったと思わせる演奏で胸がいっぱいになります。

キースが演奏中にうなる理由

アルバムのレビューとは別になりますがCDにはキースの唸り声がかなり入っているので演奏を聴いている最中かなり気になりますよね。

あのうなり声と演奏のテンションがシンクロして音楽が進んでいるように聴こえるので、個人的には声が入っている方が好きです。

うなり声を拾う用のマイクがあるとかいう噂も聞きますが、ピアノのマイクにすごく入っているのでしょう。

それでうなる理由ですが、インタビューでこう答えています。

体が情熱に支配されるとそうなってしまうのと、知っている知識が頭の中に出てきてしまうと弾けなくなるのでそれを頭の中から追いやろうとすることでうなり声が出てしまうそうです。

しかし実際の生のコンサートを見に行った時はうなり声はほぼ聞こえませんでした。ホールが広いせいもあって耳をすましてないと聞こえてきません。

ちょっと物足りく感じて残念でしたけどうなり声がない分ピアノの音がかなり際立って美しいサウンドを味わえました。

もう生のライヴでは見られない?

キース自身ここ数年の間に体が不調になってしまい左半身の感覚がないそうです。このままピアノを弾き続けるのは難しいらしく療養中とのことでかなり悲しいニュースが去年入ってきました。

その直後にベースのゲイリーピーコックが亡くなってしまいもうこのピアノトリオでは聴けなくなってしまいました。

本当に残念でたまりませんが私たちができるのはキースの残してくれた作品の素晴らしさをCDで味わうことでしょう。

キースジャレットにもし馴染みがなければまずはこの東京で行われたライヴCDをぜひ楽しんで聴いてほしいです。



ABOUTこの記事をかいた人

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。