ドラマー野澤宏信のジャズの深みにハマるきっかけになった1枚

皆さんお気に入りのアルバムはたくさんあるかと思いますが、ジャズにハマるきっかけを作ってくれたアルバムを覚えていたりしますか?

ジャズファンの方であれば、きっと何かしら衝撃を受けた1枚があると思います。

もちろん、私にもあります。

今回はそんなジャズに衝撃を受け本格的にハマるきっかけになった1枚をご紹介しますね。

ブライアン・ブレイド「Perceptual」

パーソネル

  • Brian Blade(Drums)
  • Myron Walden(Alto Sax)
  • Melvin Butler(Tenor Sax)
  • Kurt Rosenwinkel(Guitar)
  • John Coward(Piano)
  • Christopher Tomas(Bass)
  • Dave Easley(Steel Guitar)
  • DanielLanois(Pedal Guitar)
  • Joni Mitchell(Vocal)

アルバムトラック

  1. Perceptual
  2. Evinrude-Fifty
  3. Reconciliation
  4. Crooked Creek
  5. Patron Saint Of Girls
  6. The Sunday Boys
  7. Variations Of A Bloodline
  8. Steadfast
  9. Trembling

ちゃんとジャズに向き合った最初のアルバム

前回お話ししたアルバムや父の持っていたCDは片っ端からiPodに取り込み、聴くには聴いていましたが今考えれば趣味程度の聴き方でした。

こんな聴き方しかしていないせいで、中高校生でジャズをかじっただけなのに音大に入学したときにはジャズをほぼ完璧に演奏できるつもりでいたことを覚えています。

大学で理論や作曲法を学んだらジャズをマスターできるだろうと思っていたのも懐かしい思い出です(今考えるとめっちゃ恥ずかしい)。

それが勘違いだと気づいたのは入学してすぐ後のこと。

先輩や先生のプレイを見た後に、自分とレベルが違うことに気がつきます。

違うと気づいたのはテクニックについてではありませんでした。

まず、音が違ったのです。

そのとき演奏していた先輩に「普段何を聴いているのか」と聞いてオススメしてもらっったのが今回のアルバム。

このアルバムを聴いたとき、今までに自分が触れたことのない音楽を体験し、もっと勉強したい、もっとジャズの世界を知りたいと思った初めてのアルバムとなりました。

今まで感じたことのない音楽を体験

バンドリーダーでドラマーのブライアン・ブレイドは、アート・ブレイキーやマックス・ローチなどそれまでに自分の知っていたジャズとは明らかにサウンドが違っていて最初に聴いた印象は「新しい」と思ったのを覚えています。

もちろんブレイキーやマックス・ローチは昔のミュージシャンですから、彼らの時代よりも新しいブライアン・ブレイドは録音状態もよく、サウンドもクリアですが、決してそれだけではなく音楽そのものが新しく聞こえる不思議な体験でした。

そして曲の構成やメロディラインもそれまでに聞いていたジャズとは違いましたが、テーマがあって、アドリブパートがある、という従来のジャズのフォーマットはそのままで、これまでの形を保ちつつ、かつ新しいところに感銘を受けます。

特にフィールがスイングではなくイーブンエイトと呼ばれるもので、このフィールに触れたのはこのときが初めてです。

ボサノバやラテンとも違うフワッとした心地いい雰囲気が最初の曲”Percepetual”から体感できます。あまりこのフィールを聞いたことのない人はぜひチェックしてください。

ギターソロもとにかくかっこよく、ロックとは違うけど1960年代のギターヒーローであるウェス・モンゴメリーのようなジャズでもないサウンドは新体験だったのです。

“Crooked Creek”はこのアルバムを代表するような楽曲。

5拍子のギターリフからじわじわと音楽が広がっていくイントロから口ずさみやすいポップなメロディに繋がっていきます。

そしていつの間にかスイングフィールになったり元に戻ったりしてテーマが終わった後また気に入ってたギターがソロを取りはじめます。違うギタリストも混ざってさらに音楽が大きく盛り上がるところは今聴いても最高です。

昔のジャズと何より違うのは構成でしょう。

昔のジャズはテーマと同じコード進行で全員アドリブをとるというのに対して、このアルバムはソロパートがテーマと別で存在しているのです。しかも音楽のストーリーを作るという意味でソロパートが存在しているので音の重みや説得力があります。

このコンテンポラリージャズを初めて体験してからはもっと積極的にジャズをやりたいと心が動いていきます。

ブライアン・ブレイドの存在

いろいろと書きましたが、一番衝撃的だったのはドラマーであるブライアン・ブレイドです。

繊細なシンバルの音色、どんどん前に進んでいくグルーヴ、他の楽器のフレーズや呼吸を巻き込みながら大きく発展していくようなプレイスタイルがそれまで聴いてきたジャズより違って一気に虜になりました。

パッと聴いた感じはわかりやすく聴こえるのによく聴くと複雑、豪快だけど音楽の中身は緻密という相反するようなことが詰まっていて理想的なドラマーだということを当時は感じ、このブライアン・ブレイドに憧れます。

スティックもブレイドが使っているスティックを買ってみたり、ブレイドのフレーズや叩き方を真似してみたりとにかくブレイドに一歩でも近づきたかったのです。

ちなみに紹介してくれた先輩もブレイドが大好きだったのであだ名がブレイドでした笑。

今でもブレイドを追いかけているとオリジナリティがなくなるのでヤバイですが、こういう時代も必要です。

これをきっかけにブライアン・ブレイドが参加しているアルバムを片っ端から調べてコンテンポラリージャズにハマっていきます。

コンテンポラリージャズにハマっていくきっかけになる

当時まだ Youtubeというものも存在するかしないかだったので学校の資料室で片っ端からブライアン・ブレイドの名前が入ったCDを探しました。

そこで見つかったのがブラッド・メルドー、ジョシュア・レッドマン、マーク・ターナーです。

このアルバムで気に入ったギタリストのカート・ローゼウィンケルも一緒に探していると、アルバムに参加している共通ミュージシャンが多いのに気づき一気にコンテンポラリージャズの面白さにはまります。

自分にとってみれば今回ご紹介したアルバムがきっかけだったのですがコンテンポラリージャズが好きな30代、40代ミュージシャンはこの界隈のプレイヤーから少なからず影響を受けていると思います。

今でもコンテンポラリージャズ好きは変わらず今のも聴きますが、この時代のジャズが一番好きですね。

(あの時代が一番良かったなんでいうおじさん臭い事は言いたくないけどそう思ってしまう。。)



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。