最初の数秒に込められるジャズドラムイントロの魅力

ジャズ ドラムイントロ 参考

人は第一印象でいろいろなものを判断しています。

特に今時のSNSは最初の数秒だけ動画を見てその人の心にささらなければ、すぐにスクロールするなど、特に顕著に現れていますね。

音楽も同様です。最初に印象をつけるものが大事。そしてこの印象付けはイントロと呼ばれています。

カウント(メンバーの1人のカウントに合わせて同時に曲を始めること)して曲のテーマからいきなり入ることもありますが、多くのセッションではイントロが演奏されます。

そしてジャズの場合、この大事なイントロはスタンダードブック(ジャズのテーマの譜面集)などには書かれていません。

そのためプレイヤー達は曲をどうやって始めるのか、それぞれで独自に考えます。

プレイヤーが曲のイメージをどのように捉え、曲のメロディーにどのようなイントロを付け加えるのかを楽しむ、これもジャズの醍醐味ですね。

イントロは、たいていの場合ピアニストが演奏する確率が高いのですが”Bolivia”や”I’ll Remeber April”など、慣習として決められたリフから始まるものはベースやギターが担当するもの多くあります。

バラードでは管楽器がイントロを出したりするなど、ジャズではどの楽器でも曲のイントロを出すことが可能です。

もちろんドラムもイントロを出す時もあります。

ドラムがイントロを任されるときはだいたい元気に曲をスタートさせたい、またはその曲のフィールをみんなに感じさせたいという意図があるように感じます。

今回はそんなドラムイントロにスポットをあてていろんなタイプやレジェンドのイントロをご紹介していきます。

有名なドラムイントロ

※各曲の冒頭に記載しているアーティスト名はアルバムのリーダーではなくイントロを演奏しているドラマーの名前です。

ジーン・クルーパー “Sing Sing Sing”

ドラムイントロで最も有名なのはこれといっても過言はないでしょう。

吹奏楽でも演奏されたりしているので知名度は高いですね。

このリズムを聴けばすぐこの曲を連想できるくらい世の中に定着しているドラムイントロです。これをジャングルビートとも呼んだりします。

マックス・ローチ “St.Thomas”

有名なスタンダード”St.Thomas”はこのマックス・ローチのカリプソのリズムが特徴的です。

この場合ラテンの空気感や曲の軽快さを提示するようにアプローチしています。

特定のリズムで始まるのですがそのリズムに指で叩いたりスネアのリムショットを元のリズムに足して装飾する形で発展していきます。

とりわけ超絶テクニックというわけではないですがマックス・ローチが叩いたこのシンプルでキャッチーなイントロが耳に残りやすく、セッションなどでこの曲を演奏する時はこのイントロをモチーフにする人が多いと思います。

マックス・ローチ  “Cherokee”

こちらの印象的なイントロも、またマックス・ローチの演奏です。

4小節スネアとハイタムで4分音符叩き続けるだけでのイントロですがこれを聴けば一発でCherokeeが始まるんだと思い浮かびます。

ただの4分音符というわけではなく頭にアクセントを置いていてプレイしていて、その後に加わってくるピアノのリズムやベースのアクセントを見事にイントロデュースしています。

これぞ文字どおりイントロって感じでお見事です。

アート・ブレイキー  “A Night In Tunisia”

こちらも、とても有名なイントロです。

アート・ブレイキーといえばこの曲! みたいなところもあります。

本人も結構気に入っているのかこの曲がアルバムタイトルとなっている CDを2枚も出しています。

上の動画が2枚目のアルバムで下が1枚目のアルバムです。

メンバーやテイストを変えて再構築した感じで1枚目と2枚目で大きく変わります。

1枚目はラテンのリズムをアートブレイキーなりの解釈で提示しているアルバムだと思います。2枚目はもっとそれが昇華されて極められたテイクに感じます。

音のスピード感や臨場感が違うのがはっきりわかりますね。

フィリー・ジョー・ジョーンズ  “Four”

少しマニアックになりますがジャズマニアの中なら有名だろう”Four”のイントロです。マイルスクインテット黄金期の時のテイクですね。

しっかりメロディをモチーフにして繰り返しています。

最初の音は1拍目の裏から入ってきてフレーズ終わりは4拍目裏にシンコペーションする形になっています。なのでボーッと聴いていると騙されそうになりそうです。

そういう場合はテーマのメロディを一度聴いてもう一度ドラムイントロを聴くと仕組みがわかりやすいかもしれません。

模範的なドラムイントロ

ジャムセッションやライヴでドラムイントロお願いって言われたら困ってしまうそこの貴方、いいイントロのアイデアないかなと思いませんか? 個人的に参考にできそうなドラムイントロです。

アート・ブレイキー “Blues March”

曲はブルースですがマーチがベースになっている曲です。

イントロはまさにマーチを現していますね。このマーチのリズムにルーディメンツと呼ばれる基礎的なフレーズが結構入っているので音色やフレーズの使い方を参考にしながら自分なりに応用できそうです。

フィリー・ジョー・ジョーンズ  “Half Nelson”

フィリー・ジョーは本当に模範的なイントロを提示してくれます。

この曲はアップテンポですがビバップのフレーズを使ってはっきり8小節のドラムイントロを出してくれています。

まずわかりやすいのが1,2小節目のリズムを使って3,4小節目を発展させていますね。

8小節のイントロだとこの4小節目で一旦区切りたくなるんですが、このフィリーの場合4小節目の3,4拍目からもう次のフレーズに繋ぐように仕掛けています。

後半4小節はお得意の3連フレーズとクロススティッキングでフィリーらしさが出ています。

この8小節の流れがとても自然なのでテーマに入った時もスーッと曲が進んでいきます。

フィリー・ジョー・ジョーンズ  “Stable Mates”

このイントロの入りも最初の2音をモチーフに発展させています。

普段のライドシンバルのパターンのティンガレンのフレーズを使ってスネアやタムで応用させるのはビバップフレーズとして王道なリックでフィリーはこのパターンをよく使います。

イントロの小節数は16小節と長めに叩いていますがしっかり”Stablemates”のテーマのイメージにつながるように4小節ごとに展開をつけていますね。

いかがだったでしょうか。今回は有名どころとジャズらしいイントロをピックアップしました。

次回は不思議なドラムイントロ、現代的なドラムイントロ、個人的にカッコいいと思うドラムイントロをご紹介していきます。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。