トランペットに向いているジャズの曲

今回はジャズの曲の中でトランペットで演奏しやすい、もしくはトランペットで演奏するとより美しく聞こえる曲、というお題です。

僕としては基本的にはどんな曲をどんな楽器で演奏したって良いじゃんという考え方です。

しかしそれでもトランペットという楽器の特性上、曲によっては多少演奏しやすかったり、もしくは逆に他の楽器で演奏した方が美しく聴こえやすい曲というのが存在することも否定できません。
また、単にトランペットで演奏しやすい曲といっても様々な要素が絡んできます。

今回はいくつかに分けて考えて考察してみましょう。
※記事中に出るそれぞれの曲のキーなどはジャズスタンダードバイブルに準拠します。

音域

当たり前ですが、高すぎたり低すぎる音域が続くようなテーマの曲はトランペットにとってはやりづらいものです。

頑張ればその音を演奏することは可能かもしれませんが、リラックスした豊かな音で歌うのが困難であれば聴いている方も心地良いとは感じませんよね。
例えばこんな曲です。

決して楽譜通り演奏できなくはありませんが、この曲の優しげな雰囲気を活かすのならこのように一部だけでも1オクターブ下げる必要があるでしょう。

Very Earlyも音域という点ではトランペット泣かせの曲ということができます。

もっともこの曲で泣くのは音域だけでなく、複雑なコードチェンジでも存分に泣かされるわけですが…。

いずれの曲も、上にテナーサックスやピアノであれば何の違和感もなく聴こえるかと思いますが、これをトランペットで楽譜通りの音域でそのまま演奏するとなるとちょっと苦労するものです。

逆にBlue Bossaなんかは高めの音域ですが、曲の緊張感と相まって非常に良いバランスだなと感じます。

テーマで必要とされる音域とテーマの持つ雰囲気、そしてトランペットという楽器の持つ音域によっての特性がマッチしている良い例であると思います。

キー

これはずばりBbメジャーかGマイナーの曲、もしくはそれに近い調号を持つ曲であると思います。

その理由は単に指づかいが簡単であるというのはもちろんですが、ピストンを何も押さないで出る音(押したとしても短い管長)が比較的多いためにトランペット本来の響きを活かしやすいからです。

トランペットという楽器はピストンを押して空気が通る管の長さを変えることによって様々な音を吹き分ける楽器です。
過去記事:ジャズミュージシャンに聞く、トランペットから音が出る仕組み

一般的なBbトランペットの場合、ピストンを押さずに最短距離で出る音がBbとそこから派生する倍音列に属する音ですから、それらの音を多用するキーが最もトランペット本来の響きを活かしやすいということができます。

例えばいわゆるチューニングBbと呼ばれる音は指番号0(ピストンを押さない)で演奏されるものですが、23でも出すことが可能です。

実際に比べてみると23で演奏した方がわずかに暗く、こもったような音色になりませんか?

ジャズなんだからこもった音が必ずしも悪いということはありませんが、「トランペット本来の響き」という観点からはそれを活かしきれているとは言いがたいものでしょう。

ただしあまり細かい違いに気をとられる必要はありません。

例えば同じ曲をそれぞれBbメジャー,Fメジャー,Ebメジャーと比較してもトランペット本来の響きという点ではほぼ違いは表れません。

むしろ先に書いたようにテーマの演奏で必要になる音域の方がはるかに重要です。

やたらと調号の多い曲の場合、特に23や123などのように管長が長い運指が頻出するキーの曲は少し気を使います。

例えばWaveやTristeなどのような曲はBbトランペットの楽譜ではそれぞれEメジャー(#4つ)、Bメジャー(#5つ)となりますから、運指だけでなく十分に息を入れてきっちりと音を鳴らすようにしなければ全体的

にぼやっとしたピントの合っていない音色になりがちです。

例えばこの音源ではキーを半音上げています(Bbトランペットの楽譜でのEメジャーをFメジャーに)。

ジャムセッションではボーカリストによって指定された場合でもない限りこのように演奏することはまずありませんが、#4つが♭1つのキーになるわけですからトランペットとしては非常に演奏しやすくなります。

ところでマイルスデイビスの演奏で有名なRound MidnightなんかはBbトランペットの楽譜ではFマイナー(♭4つ)ですが、トランペットらしい曲として有名です。

必ずしもキーが全てを左右することはないという好例でしょう。

テーマの難易度

音域やキーだけでなく、音の跳躍が難しかったりなどの要素も組み合わさり、これらの曲はトランペットプレイヤーにとってはとても苦労する曲です。

もはや説明の必要はないでしょう(笑)。

……あれ、「トランペットに向いているジャズの曲」っていうテーマだったのにいつの間にか「トランペットで吹くのが難しいジャズの曲」になってますね(笑)。

トランペットに向いた曲、それはあなたが演奏していて気持ちが良いと感じる曲です。

ゆったり朗々と歌うのもよし、テクニカルなフレージングに快感を覚えるのもよし、太くてダークな音を響かせるのだってもちろんトランペットの良さを活かすことになります。

他の人と決して同じではないあなたの頭の中に鳴るトランペットのサウンドを表現しやすい曲と出会うことはあなたの個性を引き出すことにもなります。

ぜひ向き不向きにとらわれることなくさまざまな曲にチャレンジしてみてください。



ABOUTこの記事をかいた人

金村 盡志(かねむら つくし)

1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。