ジェームズ・ボンドみたいにキャビアを食べる

ランプフィッシュのキャビア

僕が中学生のころ、ニンテンドー64でプレイできる伝説的なソフトが発売されました。

それが「ゴールデンアイ 007」。

ピアース・ブロスナン版007シリーズの映画、ゴールデンアイを題材にしたFPSで、学校終わり、休日、親に隠れて深夜に、はたまた部活をさぼって、なんなら学校をずる休みして、忘我、という言葉がここまで似合うことはないほどやりこみました。

もともと007シリーズの映画は好きでしたがこのゲームが決定的な要因となり、007にどはまり。

当時はまだVHSが主流だったのでレンタルビデオ店でアダルトコーナーを横目にシリーズを総なめし、至福の時間を過ごします。

ジェームズ・ボンドのスマートな立ち振る舞いに憧れ、一時期は自分の名前を言うときに「さとし、のじさとし だ」と話すほどの痛いキッズとなり、将来的にスーツを着て仕事をするときには蝶ネクタイをしよう、と真剣に考えていました(半年ほどで落ち着きました)。

映画版も楽しいですが、実はこの時期ハマったのはもう1つ。それが原作であるイアン・フレミング版の007シリーズ。

原作小説では派手なガンアクションよりも頭脳戦や政治闘争、スパイたちの心情描写や理念、突拍子もない奇抜な作戦やガジェットにスポットライトの当たることが多く、映像作品で言えば「スパイ大作戦(1960年代ころから放送されていたドラマ。トム・クルーズ主演のミッションインポッシブルの元になった作品。トム・クルーズ版とは別作品レベルに内容がちがう)」と同じベクトルです。

これが中学から高校にかけて自分の中でのブームとなり、読みふけりました。

映画でもそうですが007の食事シーンというのがこれまた一段とスマートで、出てくる食事やお酒が子供の時分では聞いたことのないものも多く、夜中に布団のなかで小説片手に、食べたこともない異国情緒あふれる食事に思いをはせたものです。

時は過ぎ現在、そんな007熱は冷め、本棚の中央にそろった原作小説はどこかにいき、久しく映画シリーズも見ずにだくだくと日々を過ごしていました。

そんな中、偶然ネットで最新のダニエル・クレイグ版007の映画を視聴。いままでよりもハードなアクションによって冷めていた気持ちが久しぶりに再燃。

ショーン・コネリー版から見直して再びダニエル・クレイグ版に追いついたときに、件の食事シーンがちょろっと描写されているのを見かけました。

「あれ、原作ではここ、もっといろいろ表現されてたよな」と思い10年以上前に購入した原作本シリーズを本棚で探しますが、見つかりません。

スライド式本棚3つ分に、倉庫にしまっている分もマジでひっくりかえして探しましたが見つかりません。

見つからない、読めない、となると異常な欲求が生まれるもの。

アマゾンでポチ。

既に持っている本を買う屈辱…。

そうして四半世紀、とまではいかないもののずいぶん久しぶりに手にしました。

「007 カジノロワイヤル」。これがシリーズ一番最初の作品です。

めちゃくちゃひさしぶりに目にしたので、記憶がおぼろげですが、もっとシンプルな表紙だった気がする。でもなつかしいです。

もう一度読み返してみるとやはり食事シーンの描写は映画よりもふんだんでした。

なんか、読んでいたらこの料理を食べてみたくなった。

よし、いまや布団の中で想像の世界に合わせてよだれをたらす小僧ではない。少々ながら財布にも余裕がある。食ってみるぞ!

キャビアが見つからない

まあ、有り体に言うと出てくる料理、というか、素材の名前はご存じキャビアです。

世界3大珍味などとも呼ばれる高級食材ですが、作中でのこれの食べ方がほんとにおいしそうなの。

ちなみにホタテのソテーなんかにちょこっとついてくる程度のものは食べたことはあるものの、キャビア自体を食事として味わったことはなく。

ちょっと楽しみです。

が、マジでキャビアが見つかりません。

いや、もちろんネット通販などで売ってはいるのですが、知り合いの料理人に聞いたところ、じつはキャビアとのたまう偽物も結構な量出回っているらしく、お店によってはキャビアの容器を(ビンや缶詰になっていることが多いらしい)お客さんの目の前で開けて本物であることを証明してから盛りつけに入るところもあるそうな。

高級食材を食べるのも楽ではない。

で、やはり信用できるのは店頭販売と考え探しあぐねて数日、ようやく見つけたのですがキャビア代用品という偽物、というか、公言されたものでした。

ふたたびさきほどのシェフに聞いたところ「キャビアは高級な上に一時期乱獲による個体数の激減も問題とされ、代用品というものが存在する。風味や細かな部分ではちがうもののおおまかな味わいは似通っているからまずはそれ食べておいしいと感じたら本物いってみたら」とのことで今回は代用品を使用します。

みなさんもキャビアをお買い求めの際は信用できるお店で購入することをオススメします。

カジノロワイヤルの通りに調理

カジノロワイヤルのキャビア

こちらがキャビアの代用品、ランプフィッシュのキャビアです。

チョウザメの魚卵の塩漬けが本来のキャビアですが、こちらはランプフィッシュというお魚の卵。

チョウザメのものと比べると圧倒的に安いものの、この量でこの価格!? と思わないこともないお値段です。

嗜好品だな。

キャビア代用品(黒)ということはほかの色もあるのかな。

ランプフィッシュのキャビア

開封、してみたら真っ黒じゃねえか。

これ肉眼で見るとすごい黒い。バカな表現ですがマジで黒々としている。

なんというかほかの素材でみることのない黒み。昆布や海苔ともちがう黒みに思わず一歩引いてしまいました。

これはとんぶりとはちがうわけだぜ。

とりあえず試しに1口いってみます。ジェームズ・ボンドいわく、トーストで食うのがおいしい味わい方らしいので薄いトーストを用意。

ランプフィッシュのキャビア

後ろにがっつりほかの夕食も見えていますがいただきまーす。

うん、うんうん。

これ、たらこにそっくりだな。

マジでたらこ。癖をそぎ落として塩みを強くした、たらこ。

うまいけれど、しょっぱいたらこ。

いやいやいや、これは僕の食べ方が悪い。なにせボンドはこんな風にたべていなかった。

ちゃんと作品の食べ方を再現しよう。

まずは多めのトーストを用意。

ボンドいわく、充分なキャビアよりも充分な量のトーストを用意させるのが面倒らしいので。

これで足りなくてもすぐに焼けるよう、一斤で準備してあるぜ。

「山のように積み上げたトースト」と作中で表現されていましたが、正直独身者1人の食卓では余る可能性が大きすぎるのでスルーします。

最近そんなにたくさんは食べられないのよ。

カジノロワイヤルのキャビア

あとはこちらの3点セット。

カジノロワイヤルのキャビア

まずは固ゆで卵の白身をすりつぶしたもの。

カジノロワイヤルのキャビア

ついで黄身をすりつぶしたもの。

カジノロワイヤルのキャビア

最後にタマネギのみじん切り。

タマネギは辛味をぬくために水にさらしてザルにあげ、時間をかけて水分を落としてから盛りつけました。

この3点とキャビアをトーストにのせて食べるのがボンドの食べ方。

しかし、この3点、トーストにのせにくいことこの上ない。

ぽろぽろ、ぽろぽろこぼれ落ちて、とてもスマートに食べられない。

時計の修理職人なみの作業感でなんとかトーストにのせます。

カジノロワイヤルのキャビア

できた! このビジュアルにするのに1分はかかったぞ。

タマネギは多すぎると味わいを壊すので食べるさいはほんのちょっと、と聞いたので言うとおりにします。

では、いただきまーす。

ああ−、これはこの食べ方がいいですわ。

塩味の強いキャビア(代用品)を、卵の白身と黄身の濃厚さがちょうどいい塩梅にし、ほんの少しのタマネギがもともと少ない癖をうまみに変えて風味をよくしていますね。

それにうすくきってザクザクとした食感のトーストが、ふんわりとした卵とプチプチとしたキャビアとあいまって舌触りもよくしてくれます。

これはキャビアや卵などをトーストにのせすぎるとバランスが崩れるので、そこそこの量のキャビアを食べるには、たしかにたっぷりめのトーストが必要となる訳だ。

通風と高コレステロールにがぷり四つで取り組む姿勢をとっていますがこの組み合わせは絶妙ですね。

意外と主張の少ないそれぞれの食材が一体となることで料理としての体裁を保っています。

見た目もいいし、作中でボンドはものも言わずに夢中になって食べていたようなことが書かれていましたが、上手にトーストにのせるところまで含めて、たしかにものも言わずに食べてしまう。

日本で言うならば、これは茹でカニを食べるときに近いな!

カニもハレの日の食べ物として使われることが多いですが、キャビアも大変な高級品、自分で一手間加えるところもハレの日の食事にぴったりです。

キャビアとカニは、同じカテゴリーの食材だ!

ちなみにデキャンタいっぱいの冷えたウォッカも用意しようと思いましたが(作中にでてくる)、最近お酒を飲まなすぎてすぐに酔ったのでやめました。

でも、ワインとかより強めであまり渋みのないお酒のが合うのでしょうね。

ちなみに後日、このキャビアの食べ方の話を人にしたら、キャビアをまんま塩たらこに変えてもおいしいそうで、北海道でたらこ版の料理を提供してくれるお店があったそうです。

たしかに、素材としての味わいも似通っていたし、新鮮なたらこがすぐに手に入る北海道ならば、むしろたらこVer.のほうがおいしいかもしれない。

おまけに鉄のスプーンでキャビアをすくうのは高級なお店ではタブーとされ、真珠などで作られたスプーンで供されるのが正式なものらしい。

なんて贅沢な逸品なんだ。

 

それにしても、やはりこういった作品に出てくるお料理はおいしいし、楽しいですね。

本の魅力の1つに、出てくる料理や食材について映像作品よりも詳しく表現されることが挙げられると思いますが、実際に食べてみると没入感や作者への共感度合いも変わるというものです。

それにしても30代のおっさん1人の食卓にキャビア1瓶は多かった。

ほんとうに、多かった…。

お酒も飲まないとなると4つに切ったトースト3枚程度で充分であった…。

塩蔵なのでしばらく保つようですが、なにかほかの食べ方も探さなくては。

池波正太郎の作品に、なにか出てないかな。

いや、粉山椒をかけることになりそうなのでやめておきます。

キャビア、みなさんもなにかの際にぜひ。



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大学卒業後に新聞社に入社、その後ビジネス書の制作を得意とする編集プロダクションに転職。フリーでWEBや紙媒体での企画、編集、執筆、撮影などを担当し、現在はモジカル編集長。趣味の料理が高じてレシピ記事なども制作。