「目に青葉 山ほとどぎす 初鰹」とはよく言ったもので、新緑の頃、つまり5月頃になると欠かせないのが初鰹(以下、初ガツオ)。
ハシリの頃の食材は正直旬の頃にくらべればまだまだ若い味。しかし季節の変わり目を人間が決めた杓子定規なものではなく地球規模で感じることのできる数少ない出来事。
毎年のように食べていても1年一度と思えば諸処のすべてにありがたさも感じるものです。
さて、そんな初ガツオ。
みなさんは薬味はなにで食べていますか? 実は地域性があるらしく地方によってショウガはショウガでも針ショウガであったり、すりショウガであったりするそうです。
そう聞くと、試してみたくなるもの。
とりあえず知っている限りの薬味を試してみましょう。
と、言ってもそんなに多くはありません。
初ガツオと薬味を用意
若く食感が強い、身をつくるときにも研ぎが悪い包丁では引き切れないほど弾力がある。
触るだけでも活力があふれていることが分かるよう。
食べることでこの活力を取り込めるようで(実際にはそんなことはないけれど)ハシリの食材を食べる前特有のうれしさがあふれてくる。
こういう食材の中でも、質のいいものは山のものでも海のものでもスーパーなどに並ばないんですよね。
旬にかかる直前で獲れる量が少ないため大量消費を目的とする量販店にはあまり出回らないようです。飲食店でも限られたお店でしか出してくれません。
季節の変わり目はよく行くお魚屋さんがありがたい。
ちなみにタタキではなくお刺身です。
カツオの刺身は皮目はごっそり取り除くのでタタキに比べて可食部が少なくなりますが、あぶったりしていない分、身の本来の味わいや香りムッチリとした食感を楽しめます。
僕はタタキよりもお刺身のが好き。
薬味ですが5種類用意。
左からニンニクの薄切りとショウガのすりおろし、大根おろし、マヨネーズ。
こちらは旬の新タマネギ。
それから木の芽。山椒の若芽ですね。
初ガツオを薬味で食べてみる
なにはともあれまずは薬味なしで食べましょう。
うんうん、血なまぐさいくらいの独特のクセ。この力強い食感。力がみなぎるよう、ですが、食べにくいよね。
よほど好きな人でないと。お店で急に出てきたら驚くほどの風味。
では、薬味と一緒に食べてみましょう。
ニンニクとすりショウガ
まずは定番のニンニクとショウガ。
うまいな。
しみじみうまい。ニンニクの強い香味と少しのピリっとした辛味がカツオのクセを見事に旨みに変えている。
ショウガの後味のよさは血なまぐさいほどの新鮮な赤身の香りをこれまた旨みのあるおいしさに。
出合い物なんて言うけれど山の幸と海の幸がこんなにも相性がよくなるなんて。
絶妙だ。
これはいい。お酒なら冷でも熱燗でも合う。
大根おろし
続いて大根おろし。
タタキの場合は大根おろしとポン酢ということも多いようですが今回は生醤油と大根おろし。
聞いた話では都内の割烹料理屋さんで出すところがあるとか。
ということは関東の食べ方なのかな。大根のケンではなくおろしているところがいかにも関東らしい。
和食に使う場合は大根おろしの汁はよく搾って、三杯酢や土佐酢、それこそポン酢(橙酢)を含ませることが多いですが、今回の薬味はなんと大根おろしの汁もたっぷりそのままで使用するそう。
一応なるべく水分の少ない大根を使用しましたが、楽しみ。
では、実食。
おお、すごいね。ニンニクとショウガのときはカツオ本来のクセも旨みに変わっているとはいえ多少感じていましたが、大根おろしにするとまったくと言っていいほどクセを感じません。
なにも知らずに食べたら、カツオだということに気づかない人もいるのではないだろうか。
驚きの味わい。
これなら子どもでも食べられるよ。飛竜頭のみぞれ和えのときも思うけれど大根おろしの力って強力。
味の基本線をそのままに香りも旨みもクセもすべて変えてしまう。
マヨネーズ
続いてマヨネーズ。醤油にもつけるので、正確には醤油マヨネーズということになるのかな。
色物に見えますが実はカツオの本場四国のほうで食べる人がいるそうです。
僕も最初は驚きましたが先入観は己の世界を狭める無用の長物。
いってみましょう!
うむ、大根おろしとはまったくちがう方向性でカツオのクセを感じません。
というより、カツオの感じがまったくありません。
アメリカに七面鳥をマヨネーズでコーティングしてオーブンで焼く料理がありますが、あれに似ている。
例えが悪いですが、これはこれでありかもしれない。
旬の四国のようにカツオが毎日、毎週続いているようなら口代わりにいいかも。
どことなくお肉感。
もう食べられるお店はほとんどありませんがユッケとか、そういった生肉料理をマヨネーズで食べているような感覚。
新タマネギ
続いて新タマネギ。
これもタタキで新タマネギ、ポン酢という組み合わせが多いですよね。
タマネギの辛味をおさえるために今朝方きざんで冷蔵庫で休ませておきました。
もはやカツオがどこにいるのか見えない。
味わいはサラダ感覚になりました。
タマネギのシャキシャキとした感じで歯触りはいいですね。新タマネギはかなり薄切りにしないとお刺身のムッチリとした歯触りがなくなってしまうという諸刃の剣。
カツオ自体は旨みが強くなりますね。気づいたのですが、ニンニクしかり、野菜の持つ辛味がカツオの旨みを増しているような。
しかし、カツオの一品、という印象はかなり薄れました。タマネギ味の魚、という雰囲気。
木の芽
木の芽の画像は撮り忘れました。
これね、僕はちょっとあまり。
木の芽のクセのある香りとえぐみ、カツオのクセ、増長される。
よほどのカツオ好き、もしくはカツオを食べないといられないくらいの人にオススメかも。
ということで、人づてに聞いたり本で読んだりした薬味を試してみました。
一番おいしいと感じたのは…
ニンニクとショウガ!
昔ながらの食べ方というのは、理由があって“昔ながら”なのですね。
圧倒的にうまい。
香り、旨み、それから食感、間違いがない。
ムッチリとしたカツオにニンニクの薄切りがほのかにシャキッとし、すったショウガの舌触りも抜群。
カツオは脂の多い身のため醤油の絡みはそこまでよくないですが、ニンニクとすりショウガにまとわりつく醤油が、身を噛むときにちょうどよく口中に広がる。
圧勝。
そして、次点は…
大根おろし! ぜひ、おろし汁は搾らずに、生醤油でどうぞ。
これうまいよ。
クセの強い魚が苦手な子どもや年配者もこれならハシリの食材で縁起をかつげる。
正直言って大根の持つ力を改めて考えさせられる一品となりました。
そういえば、ブリも大根がよくあったな(ブリと大根の記事はこちら)。
アワビも大根と茹でるとやわらかくなるし、さまざまな海鮮と大根の食べ方を試してみるのはおもしろそうです。
こちらは少し試してみて、いい組み合わせがあったらまた更新しますね。
それにしても、なんだか元気が出たような気がする。
季節に季節のものをいただくのが、人間らしく過ごすコツなのかもしれない。
今年もまだまだいただきます。