前回は少し昔のアルバムを取り上げましたが今回は現代のアルバムを取り上げてみようと思います。
皆さんKurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)というギタリストをご存知でしょうか。今のコンテンポラリージャズはこの人なしでは語れないでしょう。
スイングジャズやフリージャズとは全然違うタイプのジャズなので、昔の日本のジャズファンはあまり好きではないイメージです。
だからと言ってカートの曲はキャッチーに聴こえない曲がほとんどなので新規参入も難かしそうですね。。
それでもアメリカや世界でのコンテンポラリー界ではかなり有名なプレイヤーです。
日本でも一定のファンやジャズプレイヤー、特にギタリストからは高く評価されています。
ギターのテクニックでかなり影響を受けたギタリストは多いと思いますが、作曲やソロのアプローチの仕方もこれまでのジャズミュージシャンとは変わっています。
そのためギタリスト以外の現代のミュージシャンもカートから影響を受けているでしょう。
そんなKurt Rosenwinkelのアルバムの中から「The Remedy」という1枚をご紹介していきたいと思います。
Kurt Rosenwinkel「The Remedy」(2006)
パーソネル
- Kurt Rosenwinkel(Guitar)
- Mark Turner(T.Sax)
- Aaron Goldberg(Piano)
- Joe Martin(Bass)
- Eric Harland(Drums)
曲目
Disc1
- Chords
- The Remedy
- Flute
- A Life Unfolds
Disc2
- View From Moscow
- Terra Nova
- Safe Corners
- Myrons World
このアルバムはニューヨークのビレッジバンガードという場所で収録されたライヴレコーディングです。
他にもスタジオ版のアルバムはいくつか出ているのですがどれも暗い印象を受けるアルバムが多いので、カートを聴くならまずは演奏の熱量がわかりやすいラこちらを選びました。
編成はクインテットでサックス、ギター、ピアノ、ベース、ドラムという構成になっています。
この前ご紹介した2管のクインテットとは違い、ギターとピアノというコードを弾けるプレイヤーが2人もいるのでその場の空間、雰囲気の変化がつけやすい編成です。
特にギターはエフェクターやアンプで音色が変えられるのでバンドのサウンドに厚みを持たせることができますね。
また、ピアノソロになってもギターがコードをサポートしてくれるのでこの編成はアンサンブルが作りやすい編成になっていると思います。
駆け抜けるようなスピードで展開される音楽
アルバムが2枚組で1枚につき4曲収録されています。1枚のアルバムが1時間くらいあって1曲の長さが10分以上という結構なボリュームですが、聴いていたらあっという間に感じるような音楽を展開していきます。
2枚とも1曲目はノリノリな曲で1枚目の「Chords」は速い3拍子、2枚目の「View From Moscow」は6/8のリズムでドラムのエリックハーランドがバンドを鼓舞するようにアグレッシブに攻めます。
この時のエリック・ハーランドはグルーヴ時のシンバルのビートでガンガン責める感じや、音数や勢いがあるフィルインで音楽の展開を作ったりする姿勢からこのバンドに対する気合が伝わりますね。
「Chords」ではテーマが終わってソロに入ってからもそのままテンションが上がった状態でカートのソロに突入します。
カートはこのバンドの勢いに乗って弾きまくります。フィールや音の質感が違えど、どこまで弾けるか挑戦するような感じはビバップに通じるもがありそうですね。
もちろん周りとのアンサンブルも考えながら弾いているので決して自分勝手に音楽を進めたりするのではありません。
ジェットコースターのようなカートのソロが終わるとベースとドラムがマーク・ターナーのためにスペースを作り、その合間からマーク・ターナーのソロがスッと入ってきます。
雰囲気を作るようにしてマーク・ターナーがソロをとっていきますが、エリック・ハーランドが音量を抑えながらも細かい音符でサポート。
それに影響されてか、マーク・ターナも早めの段階でリズミックにソロをしていきます。
すぐに盛り上がってしまうと後半の音楽の展開がしづらくキツくなるはずなんですが、ギターとドラムのコンピングが息をぴったりにしてサックスのソロに反応していくのでどこまでも盛り上がる感じが凄まじいです。
サックスソロが終わってからのピアノソロはインタープレイの本領発揮といった感じでピアノ、ベース、ドラムの絡みかたがとっても密になっていきます。
空間を空けながらシンプルなリズムで短い音で反応し合ったり、音を伸ばして空間を埋めるようにして間を感じさせるプレイで進んでいきます。
そしてピアノのワンフレーズをきっかけに段々とリズミックなプレイになっていき、ピアノのフレーズと一体化するようにベースとドラムが反応していきます。
単調化しない映画のようなソロを展開していくので曲が長くても没頭して聴いてしまいます。
バランスの取れた作曲とアレンジ
曲が素晴らしいのはもちろんなんですが誰がテーマのメロディを演奏してどうやってそのメロディにハモるか、どういう風にベースとピアノがメロディに絡んでくるのかというバランスが細かいんです。
「Flute」でのテーマは基本サックスとギターで同じメロディを演奏しているのですがテーマの盛り上がり部分でカートがさりげなく違うメロディを弾いてサックスのメロディを引き立てています。
「A Life Unfolds」ではギターがメロディをとっていてそのメロディの下の音域にサックスがハモり、高音部分でピアノがメロディに絡んでいます。この感じがサウンドに広がりを持たせていてメロディが浮遊しているように聴こえるのが気持ちいです。
それとは対照的にテーマ後半ではみんな同じフレーズを弾いて曲がまとまる部分もあります。バランスの取れた曲をかなり自然とやってのけるので作曲したカートもすごいですがそれを汲み取って演奏できるメンバーもすごいですよね。
曲のコードの流れも不思議ですが自然に流れていき、しっかりコード進行がキックに繋がるように作られています。「Safe Corners」でのバラードはそのスムーズなコードの流れに自然にキックがかみ合う感じが美しいです。
全体の調和を考えながらも自分のプレイを主張
クインテットのワンホーン+リズムセクションという編成だとメロディはテナーメインになりがちですが、このアルバムではカートのギターがしっかりメインになるようにアレンジされていますね。
それを頭に置いてこのアルバムを聴いてみるとカートのリーダー性、ギタリストとしてのカリスマ性が楽しめる内容だと思います。
今回のアルバムではないですが、カートを知らない方のためにも興味を持ってもらいたいのでぜひ下の動画でカートの音楽に触れてみてください。
ジョシュア・レッドマン、ブラッド・メルドー、ラリー・グラナディア、アリ・ジャクソンという豪華メンバーです。