ジャズ好きなら知らないといけないすごいコンビ(ベーシスト&ドラマー編)

前回に引き続きジャズ史上の名コンビをご紹介していきます。

今回はベーシストとドラマーの名コンビです。

ヨーロッパではジャズドラマーのことをバッテリアと呼び、まさに野球のピッチャーとキャッチャーのバッテリーのような存在で音楽を動かしていきます。

この2人がグルーヴを2ビートにするのか、いきなり4ビートで走り出すかで音楽の方向性も変わっていき、フィールにおいても意見を合わせながら、ラテンにしたりスイングにしたりと音楽の舵をとる上での重要なコンビになります。

実際ドラマー目線で話すとやっぱり気が合うかどうかというのは大切です。

自分が「こうしたい」と感じたときに相手も同じことを感じていたり「こうするかな」と思ったときに自然と察してくれるベーシストと演奏すると、ストレスもなく音楽だけに集中することができます。

阿吽の呼吸で合わせるバッテリー

ポール・チェンバース+フィリー・ジョー・ジョーンズ

ジャズの帝王マイルス・デイビスのマイルスバンド第一黄金期を支えたバッテリーです。

ポールもフィリーも、当時ものすごい勢いを持ったミュージシャンであったことが音源から伝わってきます。

個人的にポール・チェンバースは紳士的なベーシストな感じがして全体のハーモニーまで深く、広く考えているベーシストだと感じます。

それでいてあの強靭なフィリーのグルーヴを易々と支えているのでとんでもないベーシストですね。

一方フィリーはマイルスが演奏している時のバッキングと他のメンバーの時のバッキングでカラー(雰囲気)を変え、コンピングに関してもレッド・ガーランドのコンピングにすごくアンテナを張っています。

それでいてポールに気を張りながら演奏しているかというと違うかもしれません。ですがよく聴くとものすごくお互い密な関係です。要は阿吽の呼吸ですね。

互いの演奏を気にしているっていうよりこの2人にとっては演奏の方向性が合っていて当たり前の存在なのかもしれません。

ベーシストとドラマーのコンビネーションが完璧な2人だからこそ、他のメンバーやバンドのことに気をまわせる、そんな風に感じます。

しかし、プライベートの2人の関係はというと仲が非常に悪く、口もきかないような状態だったらしいですよ。。

私ならそんな関係なら一緒に演奏するのはちょっと嫌ですが(笑)、この2人の演奏では、仲のよさや人間性を超えたなにかが作用し、最強のタッグを組めていたのでしょうね。

そのため、仲が悪いにもかかわらずマイルスバンド以外にもたくさんのバンドで一緒に演奏していた記録が残っています。

ジミー・ギャリソン+エルビン・ジョーンズ

伝説的なサックスプレイヤーのジョン・コルトレーンのバンドを共にし、その後もエルビンのトリオで長く一緒に演奏していた名コンビです。

さっきのポールとフィリーとはスタイルが違い、荒波のような、うねるグルーヴを作りだす2人です。

エルビンだけでも強烈にグルーヴしますが、エルビンが上から下に落とすようなフレーズを仕掛けてきたときにジミーがすかさず強烈な低音で合わせてくるのでグルーヴの高低感を深く感じさせます。

常にトランス状態な感じでお互いどのように音楽を感じて次に何をやろうとしているのかを計算せずとも心でわかってしまうような瞬時の対応を何度も何度も繰り返していきます。

そのためある種、異常な関係とも言えるかもしれません。

心を読むようなエスパーみたいですがテクニック、演奏経験、音楽に対しての考え方をバンドで積み上げ、そしてお互い尊敬があるからこそできることだと思います。

ロンカーター+トニーウイリアムス

マイルバンド第2黄金期のときのバッテリーです。

このバンドでコンビを組み始めた当初、2人ともまだ若く、トニーは16歳くらいだったというから驚きです。

若いとはいえ今までのドラマーとは比較にならない洗練されたテクニックに、華があるドラムを叩いていたのですごく目立つ存在だったようです。現代で聞いてもその理由がよく分かります。

基本マイルスがバンドをコントロールしていますがトニーの気まぐれで音楽が進むこともしばしばです。

それをロンが影からガッチリサポートして、ただの暴走とせずドラマーと他のメンバーをつなぐ存在となっていました。

マイルスバンドを抜けてからもこの関係は続いていて、ロンと精神的に大人になったトニーとのコンビはさらに進化を遂げているので、こちらも注目です。

もっとも強くこの成長を感じられるのがVSOPのアルバムですね。

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ソニーミュージックエンタテインメント

マイルスバンドではトニーがいきなり演奏をやめて少し混沌とする場面もあったりしたのですが、トニー自身が成長したことでこのバンドでは責任を持って他のメンバーをサポートしています。

ロンのベースラインもヌルッとしていてますがクセになりそうな個性あるサウンドですね。

それでいてベースらしい極太のサウンドなのでトニーとのコンビは最強です。

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ソニーミュージックエンタテインメント
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Blue Note

ジョー・サンダース+ジャスティン・ブラウン

現代の名コンビと言えるでしょう。ジェラルド・クレイトン・トリオでのベースとドラムです。

クレイトン含め学生時代からの付き合いらしく3人とも仲がいいですが、馴れ合いだけはなく切磋琢磨し合いそれぞれが世に出て活躍するようになりました。

ジョー・サンダースはケンドリック・スコット、ベン・ウェンデル、エリック・ハーランドなどその他にも有名なプレイヤーのバンドに参加しています。

ジャスティン・ブラウンもアンブローズ・アキンムシレ、サンダーキャット、テレンス・ブランチャードや自身のエレクトリックバンドなど多様なバンドで活躍しています。

そんな2人がいろんなことをやっても最終的にこのジェラルド・クレイトントリオで演奏すればホームに帰ってきたような素の2人に戻るところがいいですね。

CDだけだと気づきませんがライヴだとシリアスな音楽なのにお互いずっとニヤニヤしながら演奏しています。

ジョー・サンダースは気ままなベースラインを色んなバンドでお構いなく弾くのでそれにほんろうされるプレイヤーをたくさん見てきましたが、そんなジョーを全て把握しているかのようにジャスティン・ブラウンはそれに合うように自然にシーンを作るドラムを叩きます。

お互い何がやりたいか自然と伝わる関係は素晴らしいですよね。

ピーター・ワシントン+ケニー・ワシントン

これも現代のコンビですが大御所にあたる名バッテリーです。どちらも名字が同じで兄弟と勘違いしそうですが、まったく関係ありません。

これは言葉で表すのが難しいので、ぜひ上の動画を見て欲しいと思います。

純粋なジャズが味わえるコンビですね。

ピーター・ワシントンはジャズメッセンジャーズのメンバーだったりジミー・コブ、トミー・フラナガンなど、1950,60年代から活躍する多くのレジェンドプレイヤーを支えてきました。

ケニー・ワシントンもトミー・フラナガン、ケニー・バレル、ディジー・ガレスピーなど多くのレジェンドプレイヤーとの経験を積んでいてピーター・ワシントンとの系統が似ています。

バックボーンとしても似ているところがあるのでこのコンビが組み合わさったなり染めになるジョージ・ケーブルのアルバム「Cables Fables」は必聴でしょう。

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Steeple Chase

ジャズランゲージの認識が大事なんだなと再認識させてくれる名コンビです。

他にもオススメのアルバムがあるのでご紹介しておきます。

意外な組み合わせで新鮮に聴こえるバッテリー

レイ・ブラウン+シェリー・マン

この組み合わせについては以前別の記事で少し触れてあるのでぜひこちらも参考にしてみてください。

淡々としたドラミングをするシェリー・マンとゴリゴリの演奏をするベーシスト、レイ・ブラウンだと、ドラムが追いやられてしまうイメージが先にきてしまいますが意外とマッチしています。

むしろレイ・ブラウンのグイグイいく感じとシェリー・マンのクールなライドシンバルのバランスがちょうどよく、いつまでも聴いていれるような気持ちいいグルーヴが生まれています。

ぜひ一度聴いてみることをオススメしたい1枚です。

ミロスラフ・ヴィトウス+ロイ・ヘインズ

チック・コリアのセカンドアルバム「Now He Sings Now He Sobs」でのバッテリーです。

超絶テクニックを持つヴィトウスとチック・コリアのハーモニー感の相性がバッチリなのはもちろんですがロイ・ヘインズとのグルーヴの相性もバッチリ合っています。

突き進むようなヴィトウスのベースラインにふわっと乗っかるようなロイ・ヘインズのグルーヴが印象的です。

パッと聴いた感じはヴィトウスのリズムに依存している感じにも聞こえますがドラムはドラムでグルーヴがしっかり独立しています。

なので”Matrix”ではヴィトウスが急に2ビートから4ビートに変化してもドラムのグルーヴのブレが全くないまま自然とベースに寄り添っていくのが、現代の感覚から聞いても新鮮で面白いです。

普通ドラマーだったら2ビートから4ビートに移るときに自分の中でノリを切り替えたりするものですが、ロイ・ヘインズはグルーヴの境界線すら超越していてグルーヴがどのように変化しても音楽が成立させる力があるようです。

そこにスリリングで常に攻め込んでくるヴィトウスのベースが合わさると音楽がものすごいスピードで自由自在に変化していきます。

チックはこれを狙ってたのかもしれません。このアルバムはキャッチーなものとアバンギャルド寄りなインタープレイなものとで、曲の雰囲気のバランス構成もうまく取れた面白いアルバムになっています。

ベーシストとドラマーの終わらない関係

ロイ・ヘインズやエルビンのようなドラマーもいればフィリー・ジョーやトニーのようなリズムがしっかりしているドラマーもいますしベーシストでも堅実にバンドを守るように弾く人、攻め込んで危ない道に進みたい人など色んなタイプがいてベースとドラムの関係は本当に奥が深いです。

僕らの普段のセッションやバンドにも当てはめられますね。

一番いいのは最初に挙げたような気が合うプレイヤーとずっと演奏できるのが理想ですが、そうでない場合でも、お互いがどういうプレイスタイルか、タイプなのかを見抜きながらバランスよく演奏することが大事というのが先人の演奏から伝わります。

まさに、普段の人間関係と一緒ですね。

そういう意味では、ジャズとは音楽の技術力だけを問われるのではない、別の側面があるとも言えるでしょうね。

 



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。