空気感を最高にプロデュースするトニーウイリアムスの神業その場の空気感を支配するエルビンジョーンズ

Miles In Berlin

今回もドラマーがあえて叩かなかったアルバムの1曲とニューヨーク時代に聞いた面白い話をご紹介します。

前回はドラムの演奏者が一度完全にいなくなり、再度出てくるときに勢いよく戻ってくるパターンをご紹介しましたが今回は音楽のシーンに合わせて出たり入ったりするパターンの紹介をしたいと思います。

トニー・ウイリアムス「Stella By Starlight」

前回と一緒でまたマイルス・デイビスがリーダーのアルバムですが前に紹介した曲とはメンバーもコンセプトも全然違います。

このバンドのほうがよりシリアスでストイックな音楽でかつ自由度が高いです。

前のバンドはある程度決まったパターンで音楽が動いているので聴いているほうにとってはわかりやすい音楽でした。

それに対してこのバンドではテンポやコード進行、また、ソロの交代すらもコーラスの途中で切り替わったりするくらい自由にその場の状況で音楽が進んでいきます。

何が起こるのかよーく耳を凝らして頭で追いながら聴くような音楽なので、気軽に聴くタイプの音楽ではありません。

しかしその音楽の変化に気づいて追うことが出来ればこのバンドの音楽の素晴らしさが見えてきます。

音楽の状況でじわじわ出たり入ったりする

Miles In Berlinの中での「Stella By Starlight」は、この曲自体しっとりとしたスタンダードナンバーなので、アルバム中で最高潮の盛り上がりを見せるかというと、そのようなタイプの曲ではありません。

盛り上がる曲が終わったあとの落ち着いた曲としてピックアップされています。

イントロの部分もピアノで始まってしばらくはマイルスのトランペットとピアノのみで進んでいきます。この雰囲気が曲の土台となるためドラムのトニー・ウイリアムスは空気を読みながら入ってきます。

急にバンと出るのではなくブラシで少しビートを作ったり、シンバルで音楽の色付けをしたりマイルスのフレーズにうまく反応しながら最終的に4ビートに。

これはマイルスがうまくバンドをコントロールしてるようにも聴こえますが、ビートを刻むのか刻まないのか、この絶妙なバランスをつかさどるトニーのテクニックは必聴です。

最終的に4ビートにいって淡々とビートを刻んでいるのがこの曲のピークになりますがこれだけで満足に思えるほどです。

普通、他にコンピングやフィルなどの演奏がたくさん欲しくなってしまいますが、それまでのドラムが消えている状況とのコントラストがうまく付いているのでそう感じるのでしょう。

叩くのをやめる勇気

サックスソロに入ってからもしばらく4ビートのグルーヴが続いてさらに迫ってくるような感じでいきますが途中ふっと2ビートに変わりすぐに消えてしまします。

段々と消えるのはなんとなくドラマーのみなさんもやりますが、ここまで脈絡ないような感じでいなくなるのはトニーぐらいかもしれません。

そして脈絡ないように見えて全体的に聴くと音楽的にいなくなって全く違和感がありません。まさに神業。。ここまで自然にやっているのを他で聴いたことがありません。

消えた後かすかにスネアかタムを鳴らしていますがリズムというより効果音的な感じで叩いています。

ドラムが消えてからバックで支えているピアノとベースは全音符や2分音符を中心にサックスを支えていて段々とリズミックにアプローチしていきます。

そこにサックスが微妙にリズミックに反応したところにトニーがまた2ビートですかさずライドのパターンに戻ります。

このトニーの無茶なパスに周りが対応できるというのはこのバンドだからこそできる技ですね。

他のソリストの見せ場を作るためにやめる

トニーの演奏はピアノソロのときにまたなくなりますがこのときはベースもいなくなってピアノだけが残ります。

ベースがいなくなることによってテンポもコードにも縛られずにピアニストが自在にハーモニーやリズムを決めることができるのでいろいろなしがらみがなくなります。

ピアノソロが終わった後はイントロのときの空気感と一緒になりまたマイルスが入ってきて後テーマへと流れていきます。

抜けることによって前テーマと後テーマの関係性も持たせるとは恐るべしトニー・ウイリアムス。。

アルバム全体を聴きたい方はぜひ買って聴いてみてください。

ミュージシャンには参考に、リスナーにも一流の演奏技術の絡み合いを楽しめる作品となっています。

以上が今回のトピックですがまだ少し余裕がありそうなので他にも、あえて演奏をやめることで音楽の楽しさや挑戦する力を表現しているエピソードをご紹介したいと思います。

他の理由で演奏をしなくなるケース

目の前のミュージシャンを見極めるときに演奏をやめる

これは私がニュースクールで教わっていたサックス奏者のビリー・ハーパー本人から聞いたお話です。

当時まだヒューストンからニューヨークに引っ越してきたばかりのビリー・ハーパーがエルビンのライヴを見にヴィレッジヴァンガードへ行ったときの出来事でした。

ビリーはエルビンの近くの席でライヴを見ていたそうで、1セット目が終わった後エルビンに駆け寄りシットイン(飛び入り演奏)させてくれとお願いしたそうです。

エルビンは既にジャズ界ではレジェンドプレーヤーの1人ですから、この行動には相当な勇気が必要だったと思います。

もちろん、見ず知らずの輩に飛び入りが許されるわけもなく、すぐに断られました。

しかし、ビリーは2セット目が終わった後、それだけではなく次の晩、また次の晩とライヴハウスに通ってシットインを願い出ました。

最終的にエルビンは根負けし、仕方なくバンガード最後の夜にビリーをステージにあげました。

曲が始まりテーマが終わってレギュラーバンドのプレイヤーがソロをとりその後にビリーのソロが回ってきました。

ビリーは思いきり吹き始めます。それなのに、その瞬間エルビンは叩くのをやめてしまいました。

びっくりしたビリーは一瞬後ろを振り返りますが、エルビンはニヤニヤしながらじっとビリーを見ていたそうです。

これは意地悪ではなく「やれるもんならやってみろ」という感じでしょうか。

ビリーはそれに応えるようにソロを吹きまくりました。しばらく演奏するとエルビンから認められたのか、パワフルなエルビンの演奏も加わりこのステージは大いに盛り上がったそうです。

それからビリーはエルビンのステージに呼ばれるようになり成功を手にした、というのが本人から直接聞いたエピソードです。

ある種の逸話のようになりましたが、今目の前で演奏しているプレイヤーを試すために自身の演奏をストップするというのは今の時代ではなかなかできません。

レジェンドプレーヤーであるエルビン・ジョーンズだからこそ許されることであり、またその間に演奏するミュージシャンの実力を測ることができます。

くれぐれも、みなさんは試してはいけませんよ(笑)。

しかしジャズの面白さやスリリングな面を改めて思い知るエピソードとして彼自身が語ってくれたことは、忘れることのできない体験です。



ABOUTこの記事をかいた人

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。