ジャズミュージシャンがリクエストされて困る曲

一般のお客さんとジャズミュージシャンの好きな曲のズレ

 

長いこと音楽をやっていると、そうでない一般の方との感覚のズレを感じることがあります。 もっともこれを感じるのは、曲のリクエストを受けたときです。 一般の人が、ある曲を聴いたことがあるとリクエストする。

しかし、肝心のミュージシャンがその曲を知らない、もしくは曲名は知っているが練習していない。

もちろん基本的にはミュージシャンの側がきちんと勉強しておけ! ということになるのですが、それでも「ああそういえば一般の人ってこういう曲好きなんだよね…」と感覚のギャップのようなものを感じることは少なくありません。

というわけで、今回はジャズの曲だけどリクエストされて困る曲ということで少し書いてみましょう。

ただし、何をリクエストされて困るかなんて主観に依るところが多いものです。あくまでも個人的な見解が少なからず含まれるということを念頭に置かれた上でお読みいただけると幸いです。

ダントツぶっちぎりで困る曲

さてしょっぱなから思いっきりエクスキューズした後ですが、恐らくこの曲だけはダントツで多くのジャズプレイヤーに共感をいただけるのではないでしょうか。

ご存知の通り、Take FivePaul Desmondによる曲で、ジャズにあまり慣れ親しんでいない方でもなんとなく聴いたことはあるという方が多いのではないでしょうか。

一般的な知名度だけならもっと高い曲はあるでしょう。しかしこの曲はプレイヤーにとってある三重苦を抱えているのです。それは… 

5拍子である。 キーがややこしい(Ebマイナー)。  なんならテーマのサビとコード進行も(見た感じ)ややこしい。

まあ全てはしっかり練習すれば解決する問題なのですが、この曲は知名度の割にはジャムセッションでコールされる機会が多くありません。

それどころかジャムセッションでよくコールされる曲で5拍子やEbマイナーの曲というのもあまり見かけません。 ですから自然と練習する機会も少なくなりがちなのです。 

ちなみにTake Fiveのヒットにあやかろうとしたのか、後年Paul DesmondによってTake Tenという曲も作られています。 

※Take Fiveとあんまり変わらんじゃん! というツッコミは故人のためにどうかご遠慮ください。

知名度はあるけど難曲であるという意味ではSpainRound Midnightも同様です。 特にトランペットにとってSpainはテーマを正確に吹くことすら苦労するでしょう。

歌ものでは有名な曲も…

Take Fiveは正直言って特殊な例だったかもしれません。

なぜなら既に書いたように曲の作り自体が非常にユニークだからです。知名度の高いものでこんな曲はそうありません。

しかしTake Fiveのように特殊な曲でなくとも、例えばジャムセッションでそう頻繁にコールはされないが、昔日本人歌手によって頻繁にカヴァーされたために一部の年齢層の方に知名度の高い曲というのも存在します。

その代表例がTennessee Waltzでしょう。

僕自身は確かチャリティーイベントで演奏したのが初めてだった記憶がありますが、リハで何の気なしに「こんな曲もあるんですね〜」と言うとご一緒させていただいたベテランミュージシャンに「最近の子はこういうの知らないよね…」と遠い目をされてしまった覚えがあります。

番外編

テーマの出だしが似ていて混乱するから困るという曲もあります。

こんなミスをするのは僕だけでしょうが(笑) 、例えばPolkadots And Moonbeams、 Someone Watch Over Me、 In A Sentimental Mood、 My One And Only Loveの4つはテーマの1小節目が似ています。

そのせいでテーマを吹き始めてすぐに別の曲が思い浮かび、曲のイメージがそっちへ飛んで行ってしまうことがたまにあります(さすがに使う音域の違うIn A Sentimental Moodでは起こりませんが) 。

先日はI’m Old Fashionedを演奏するつもりがピアノイントロを聴いているうちにHave You Met Miss Jonesを連想してしまって恥ずかしい演奏を披露してしまいました。 

やはり不勉強…。

 少なくとも番外編に関してはスタンダード曲の勉強不足としか言いようがありません。 思いもよらぬリクエスト曲に応えるためにも、そして自分自身が恥ずかしい演奏をしないためにも多くのスタンダード曲を練習しておくことは本当に大事なことですね。 

己れの不勉強を恥じ、そして戒めるためにも最近こういう企画を始めました。

Jazz Standard Bibleトランペットで全部吹く。

ジャズスタンダードバイブル トランペットで全部吹く。#1

現時点で既に40曲ほど収録済み(公開は順次)です。 カメラを回してアプリの伴奏で吹くことが予想以上に苦痛で、なんてことを始めてしまったのかと今更ながらに後悔しています。この苦しみざまをとくとご覧あれ。



ABOUTこの記事をかいた人

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1986年生まれ。中学生から吹奏楽を通してトランペットの演奏を始め、高校生からジャズに目覚める。その後、原朋直氏(tp)に約4年間師事し、2010年からニューヨークのThe New Schoolに設立されたThe New School for Jazz and Contemporary Music部門に留学。Jimmy Owens(tp)氏などの指導を受け帰国し、関東近郊を中心に音楽活動を開始。金村盡志トランペット教室でのレッスンを行いながら、精力的に活動を続けている。