ナチュラルで美しいポール・モチアンのアルバム「On Broadway Vol.4」

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こんにちは、野澤です。

前回まではピアニストのビル・エバンスのアルバムを特集してきました。

今回はそのエバンスと関わりの強いドラマー、ポール・モチアンのアルバムを1枚ピックアップしてご紹介したいと思います。

ポール・モチアン「On Broadway Vol.4」

パーソネル

  • Paul Motian(Drums)
  • Chris Potter (T.sax)
  • Larry Grenadier(Bass)
  • Rebecca Martin(Vocal)
  • Kikuchi Masabumi(Piano)

アルバムトラック

  1. The Last Dance
  2. Tea For Two
  3. In A Shanty In Old Shanty Town
  4. Never Let Me Go
  5. Never Let Me Go
  6. Folks Who Live On The Hill
  7. Everything Happens to Me
  8. Last Night When We Were Young
  9. Bon To Be Blue
  10. Brother Can You Spare a Dime
  11. I Loves You Porgy
  12. You’re Getting to Be a Habit With Be
  13. How Long Has This Been Going On

ポール・モチアンのアルバムの中でも比較的聴きやすいアルバムを選んでみました。

他のECMのアルバムは抽象的なテーマのもと制作されているため、あまりジャズを聞き慣れていない人にはわかりづらい部分も多々あると思いますが、こちらはポールモチアンのアルバムを初めて聴く方にもオススメのアルバムです。

アルバムコンセプト

アルバムのコンセプトとしてはブロードウェイで行われているミュージカルの楽曲を取り上げてポール・モチアンのバンドでリバイバルする内容になっています。

メンバーはサックスのクリス・ポッター、ベースのラリー・グレナディアのthe Trio 2000というバンドメンバーにプーさんの愛称で知られるピアノの菊地雅章さん、ボーカルのレベッカ・マーティンというメンバーで音楽的にかなり自由度が高そうなメンバーが揃っていますね。

このカラフルなミュージカルの曲集を再構築して自由に音楽を創っていくのがこのアルバムの聴きどころなので知っている曲があればその曲から聴いてみるのも面白いでしょう。

アルバムの楽曲解説&感想

最初の曲“The Last Dance”の出だしからクリス・ポッターの芯のあるサウンドが直に刺さります。

そのソリッドなサウンドを中心に周りが柔らかいサウンドで包むようにソフトでサスティンのあるハーモニーをプーさんとラリーが作ってくれ、リズムとカラーを淡々とモチアンがつけていきます。

2曲目の”Tea For Two”も同じ感じですがボーカルのレベッカ・マーティンが入るだけで雰囲気がポップになりますね。

テーマ前のバースの部分は普通ピアノとボーカルだけでバースをやりますがこの曲ではベースとドラムでサポートしています。

テーマに入ってからサックスが絡んできてきますが違うテーマのメロディを引用してきて”Tea For Two”と違う世界観を混ぜてきます。

音数を少なくしてロングトーンだけで違う世界観を出せるクリス・ポッターの音楽性はさすがですね。パリッとした音色がクリスの持ち味ですがこういうバラードの時にはデクスター・ゴードンのような渋い音も出せるのも素敵です。

3曲目の“In A Shanty In Old Shanty Town”はドラムイントロでスタートします。このドラムイントロもとてもナチュラル、スムーズで歌うように叩いています。

フレーズははっきりしていますがソフトで優しさを含んだ音で心地いいですね。このままの雰囲気を引き継いでテーマに入っていき曲が終わるまで雰囲気が一貫しています。

空気感を大事にしながら無理なく音楽を発展させることで元曲の良さ十分に発揮しています。

ジャズは即興の音楽なのでロジックに組み立てて発展させて盛り上げることを重視する人が多数でテーマが終われば楽曲のイメージから離れていきがちですが、このメンバーの場合は雰囲気と曲のイメージを大事にしながら演奏しています。

ビバップなどを聴き慣れている人は少しもの足らなく感じるかもしれませんが鳴っている音をじっくり聴くのがポールモチアンバンドの楽しみ方です。

“Never Let Me Go”は2トラックあってオルタネートテイクなのかはわかりませんが全く違う方法でレコーディングされています。

最初のバージョンはプーさんのピアノイントロからテーマまで弾き切ります。その後サックスとドラムが入ってからは”Never Let Me Go”のメロディのモチーフを使いながら進んでいきます。

後のテイクではサックスがはっきりとテーマを演奏しながら周りが自由に音楽を展開していきます。

元の原曲の感じがなくなりそうでなくならない際どいラインをずっと責めていて緊張感が漂うテイクになっています。リラックスしているのにここまで緊張感があるという矛盾が混在している貴重なテイクです。

全部語ると長くなるので後半の感想は割愛しますがイメージが伝わって気になればぜひ聴いてほしい1枚ですね。

アルバム後半にも“Everything Happens To Me”やビル・エバンスが得意とするスタンダード”I Loves You Porgy”が収録されていて割とライトに聴ける1枚だと思います。

これがもしハマればVol.1からも聴いてほしいですしElectric BeBop BandやECM系のアルバムぜひ漁ってみてください。ECM系がハマればきっとフリージャズも開拓できると思います。

ビルエバンスの黄金トリオのドラマーであるポール・モチアン、ここでは一番まともな演奏しているはずなんですが自分のバンドをやるとなると一番変態性が出ているヤバいプレイヤーです。。

なので今回はどれを勧めるか相当迷いましたが入口としてはこのアルバムが1番いいでしょう。ディープなジャズ好きが増えれば幸いです。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。