エバンスのトリオサウンドを完全再現するエディ・ゴメス 佐藤允彦のアルバム「AS IF…」

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こんにちは、野澤です。暑かった日もいつの間にか過ぎ去ってあっという間に寒くなってきましたね。

今回もビル・エバンスと関わりが深かったミュージシャンをピックアップ。ビル・エバンスのトリオで10年ベースを務めたエディ・ゴメスがサイドマンとして関わったアルバムを1枚ご紹介したいと思います。

佐藤允彦「AS IF…」

パーソネル

■佐藤允彦(Piano)
■エディ・ゴメス(Bass)
■スティーブ・ガッド(Drums)

アルバムトラック

  1. Cajuput Trip
  2. Waltz For Debby
  3. Nardis
  4. Dead End
  5. How My Heart Sings
  6. As If…
  7. My Foolish Heart
  8. Israel

日本を誇るジャズピアニスト佐藤允彦さんのアルバムにエディ・ゴメスとスティーブ・ガッドが参加しています。

アルバムに入っている曲を見るとビル・エバンスを意識している曲ばかりですね。

佐藤さんにとってみれば実際にビル・エバンスと演奏していたエディ・ゴメスとの共演で気合が入りそうですが、佐藤さんはすでにゴメスのリーダーアルバム「Mezgo」(1986年)で共演しており対等な関係で演奏していそうです。

ドラムのスティーブ・ガッドも説明不要。レコーディングの時期的にはベテランと呼ばれるようになったくらいでしょうか。

今は少しおじいちゃんな演奏になってしまいましたがこの時は60歳くらいにも関わらず現役バリバリの演奏をかましてます。

ガッドもゴメスのアルバムでレコーディングしていてアルバム「Gomez」(1984年)に入っています。

他にもSteps Aheadという新進気鋭なジャズフュージョンバンドでガッドとゴメスの関係も深いのでこの鉄壁ながらも暴れまくるリズムセクションと佐藤さんがどう絡んでいくのかも必聴です。

佐藤允彦さんの感性が際立つオリジナル曲

アルバムの中の数曲は佐藤さんのオリジナルを演奏していて1,4曲目はかなりチャレンジングな演奏になっています。

1曲目の”Cajuput Trip”はスティーブ・ガッドからの心地いいグルーヴからスタートしスペイシーなコードワークで佐藤さんが入ってきます。

最後にエディ・ゴメスが入ってくるとよりグルーヴ感が上がり加速していきながらテーマに入っていくので1曲目からすぐに曲の世界へ引き込まれていくのがいいですね。

少し6/8の拍子の入ったフィールで横のグルーヴを感じながら曲を聴いているのですが途端にサンバのリズムになり縦のグルーヴにすぐさま切り替わっていきハッとさせられます。

テーマの中でこういうセクションがしっかり切り分けられていると後のソロパートで面白いことが起こりそうな予感をさせますよね。

テーマの最後はチックコリアのようなキメフレーズをみんなで弾いたらソロパートに突入していきここからトリオのインタープレイが展開されていきます。

グルーヴに徹するガッドのブラシとゴメスの細かい音で埋めるベースラインが終始心地よいです。

そこに佐藤さんが突っ走っていきここぞというフレーズで攻めてきたときはガッドが合わせてくるので爽快感もあります。

トリオのまとまりがすでに1曲目であるのでこの先の曲も期待できそうなサウンドです。

まとまりでいうと4曲目の”Dead End”もフリージャズなのにバンドとしてのまとまり感がすごいです。

テーマ部分は全員ユニゾン。オーネット・コールマン的というかどちらかというと山下洋輔さんの要素も感じますね。

テーマが終わればそこからかなり自由になっていきますが佐藤さんのピアノの雰囲気を基にゴメスとガッドが絡んでいきます。

みんなバラバラのように演奏したり急にユニゾンしたと思いきやスイングにいったりするなどかなり自由度が高い演奏です。それなのにトータルで曲を聴くと整理されたような統一感があるのでこれまた不思議な現象が起きている必聴モノのテイクですね。

6曲目も佐藤さんのオリジナル”AS IF…”という曲です。日本語でいうと「~のように」というタイトル。

曲を聴くとかなりビル・エバンスのエッセンスを感じる曲になっているのでこれは「As If Bill Evans」ではないかと個人的に感じました。

オマージュというよりビルエバンスが残してくれた音楽に対して佐藤さんなりのアンサーをしているのではないかと思います。しかもビル・エバンスと共演歴のあるプレイヤーと音楽を作れているのでこれまた感慨深いですね。

エディ・ゴメスの職人芸

お待たせしましたこれからようやくエディ・ゴメスの話になります。その6曲目の”As If…”が何でビルエバンスっぽいのかはエディ・ゴメスのプレイに理由があるかと思います。

もちろんコード進行なんかもエバンスを意識しているのもわかりますが、ベースラインの感じが完全にエバンスで弾いている時のゴメスそのものです。

エバンスっぽいじゃなく完全にエバンスのトリオに聴こえてくるのでこの体験はなかなか他のアルバムでできないでしょう。

この曲でこのメンバーだからこそできる、というかエディ・ゴメスだからこそなせる業がここにあります。

他にもエバンスをトリビュートしている曲でもゴメスの凄さを体感できます。”Waltz For Debby”は始まりのメロディをベースでしかもアルコ(弓)で弾いてくれていてこれが本当に美しいのです。

低音感というかベース本来のストレスのないナチュラルな鳴り感がいいですね。テクニックがないとできない芸当なのでこれはありがたくじっくり聴くのがおすすめです。

エバンスのオハコだった”Nardis”や”How My Heart Sings”はアレンジが加えられていて曲の世界観をより広げるような仕掛けがされています。

これをエディ・ゴメスがやることによってビル・エバンスのイメージがフラッシュバックされながら曲を楽しめるのでエバンストリオのファンにとっても相当楽しめるアルバムに仕上がっています。

こうやってビルエバンスの音楽やコンセプトがエディゴメスや佐藤允彦さんを筆頭にいろんなプレイヤーに浸透していることが素晴らしいですよね。

エバンス好きなら絶対楽しめるアルバムになっています。今回のアルバムはCDが廃盤になってしまいApple Musicなどのストリーミングでしか聴けませんが、サブスクされているかたは是非探して聴いてみてください。



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野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。