今回ご紹介するのはタイトル通り、トランペット吹きに愛されるトランペッター、トム・ハレルについてです。
この動画はホレス・シルバークインテット時代のものです。
近年ではさすがにトランペットよりもフリューゲルホルンを演奏することが多くなってきましたが、2020年で74歳を迎える現在になっても精力的に演奏活動を行っています。
現在は彼自身のバンドでの演奏がほとんどで、演奏される曲もオリジナル曲が中心。
トム・ハレル自身の演奏が素晴らしいことももちろんなのですが、彼のオリジナル曲には美しさがあり、また時期によってその「美しさ」の種類もだいぶ変わってくるような気がします。
なぜトランペット吹きに愛されるのか
とは言ってもすべてのトランペット吹きが好きってわけでもないのでしょうが、しかし、多くのトランペット奏者が憧れるトランペッターとしてトム・ハレルの名を挙げることは事実でしょう。
その理由は、彼の輝かしさと柔らかさを兼ね備えたサウンドと、非常に美しいアドリブのラインによるものではないかと思います。
特に彼が紡ぐアドリブのラインはたとえ難解なコードチェンジの曲であったとしても無理がなく、水が流れるようにスムーズにクリアしていきます。
例えばこの曲はジャズスタンダード曲の中でも少しややこしいコードチェンジを持っている曲、インヴィテーションです。
動画内ではコードチェンジが書いていないので分かりづらいかもしれませんが、なんとなく楽譜を目で追いながら聴いていただければ、彼の演奏するメロディがとても滑らかに流れていくのがよく分かるかと思います。
時折ウディ・ショウ的なアウトフレーズが顔を覗かせたりもしますが、メロディやダイナミクスの激しい起伏は彼より少なく、むしろ淡々と、そして柔らかな音色と音のアタックでメロディを演奏していくのが特徴です。
もちろん、ウディ・ショウやフレディ・ハバードのようにメロディの起伏が大きく情熱的な演奏も魅力的です。
トム・ハレルのようにハーモニーを深く理解し、クールにメロディを紡いでいく”ワンアンドオンリー”なプレイスタイルに強いあこがれを抱くトランペッターも多いですよね。
トランペッター目線でのオススメ作品
正直、紹介したい作品が多すぎて困ってしまいます。
“Sail Away”や”Moon Alley”など過去に出版され、すでに名盤としてよく知られているものは置いておいて、比較的新しいものを中心に挙げてみようと思います。
Live At The Village Vanguard
“Asia Minor”や”Manhattan, 3 A.M.”など、トム・ハレルのオリジナル曲をライブ演奏で存分に味わえる作品です。
また奥さんとの共作とクレジットされている”Where the Rain Begins”も展開に富んだ美しい曲です。
ちなみにトム・ハレルが参加しているジョー・ロヴァーノのリーダー作品”Quartets: Live at the Village Vanguard”という作品もありますが、それと名前が似ていて混同しやすいのでご注意。
どちらも素晴らしい作品ですが。
Prana Dance
こちらは上記作品からドラムがジョナサン・ブレイクに、ピアノ(オルガン)がダニー・グリセットというメンバーに変わった作品で、なんというかリニアモーターカーに乗っているようなグルーヴ感です。
まあリニアモーターカー、乗ったことないですけど(笑)。
この作品では変拍子が多く取り入れられているのと、テナーのウェイン・エスコフェリーがまた独特な雰囲気を醸し出してくれます。
トム・ハレルの影響なのか、彼もスムーズなアドリブのラインが持ち味で、テナーサックス奏者として非常に独特なスタイルを持っています。
Something Gold, Something Blue
他の作品と比べるとトム・ハレルらしさというよりはNYの最近な感じという雰囲気の強い作品です。
珍しいことに、トム・ハレル以外に気鋭のトランペッター、アンブローズ・アキンムシアが参加して2トランペットでの作品となっています。
恐らく”NYの最近な感じ”というのはそのアキンムシアとチャールズ・アルトゥーラ(g)による影響が強いのではないでしょうか。
トム・ハレルとアンブローズ・アキンムシア、世代は異なりますが、どちらも孤高の演奏スタイルを貫くトランペッターであるだけに1つで2度おいしい作品となっています。