キース・ジャレットのケルンコンサート以外について

※記事の中にアフィリエイト広告を利用しています。

こんにちは、野澤です。

最近公開された(2026年執筆時)映画「1975年のケルン・コンサート」をご存知でしょうか。名盤としても名高いキース・ジャレットのライヴ盤「The Kelon Concert」。

その開催の舞台裏を題材とした作品です。

多少誇張されているかもしれませんがほぼ実話だそうで音楽系映画としてとても期待して観てみたいですね。

今回はそんな映画でも話題の鬼才ピアニスト、キース・ジャレットについて紹介していきたいと思います。

キース・ジャレット(1945年ー)

1945年にアメリカのペンシルバニアに産まれ、スロベニア系の母とドイツ系の父の元で育ちます。

3歳になる前からピアノを始め、7歳からはテレビ番組でピアノを弾いたりリサイタルを開いたりしてバッハ、ベートーベン、モーツァルトなどのクラシックを演奏していたというから、幼少期から天才っぷりを発揮していたのが分かります。

ただ、キースのスタートはジャズではなくクラシック音楽だ、というのは彼のルーツでもあり、その後の彼のスタイルにも大きく影響を与えることとなります。

ジャズにふれたのは高校生頃だったようで、”Take Five”で有名なサックスプレイヤーのデイヴ・ブルーベックに影響を受けました。高校卒業後はバークリー音楽大学に進みジャズを学びます。

在学は1年ほどの短期で終わり、その翌年の1964年にはニューヨークに移り住みました。

すぐに当時人気のドラマー、アートブレイキーにスカウトされこれまた人気のグループ、ジャズメッセンジャーズに加入。

しかも加入直後にライヴレコーディングをすることとなり「Buttercorn Lady」というアルバムに参加。世間に名前も広がりました。

なにもかもうまくいっているように見えましたが、ブレイキーとちょっとした意見の衝突を原因に関係が悪化。

たった4ヶ月のツアーの後にバンドを去ることとなります。

その後は、ニューヨークのバーで演奏しているところをドラマーのジャック・ディジョネットが見かけてキースに声をかてきました。

どうやらサックスのチャールス・ロイドがピアニストを探しているからやってくれないかということで、そのままチャールス・ロイドのバンドでジャックと一緒に演奏することになります。

そして、このバンドで大活躍することになりました。

ロイドのアルバム「Forest Flower」は大成功を納めてヒッピーの間でも有名になりジャズ、フォーク、ロックを混ぜたようなスタイルも取り入れていきます。

created by Rinker
ワーナーミュージック・ジャパン

その後キースにまた大きな転機が訪れます。

チャールス・ロイドのバンドで演奏しているとジャズの帝王マイルス・ディビスが現れてキースとディジョネットに声をかけてきました。

新しい試みを実現できるメンバーを探しているからバンドに入ってくれ、ということで2人はチャールス・ロイドのバンドを離れてマイルスバンドに参加することとなります。

マイルスバンドではピアニストではなくフェンダーローズやオルガンという電子楽器を使ってほしいということで、最初は抵抗があったそうです。

しかも別のピアニストのチック・コリアも呼ばれて彼もエレピを弾くこととなり、それまでにない曲、楽器構成、バンドメンバーで、全く新しい音楽を1から作ることになります。

マイルス以外はなにがどうなるのかさっぱり理解できなかったということでした。

しかしマイルスの抽象的ながら的確なディレクションをうまく読み取ることで新生マイルスバンドができ上がり、メンバー以外のレコード会社の人間などの手も入って、なにがどうなるのかさっぱり理解できなかった音楽は形となりました。

それが「Bitches Brew」というアルバムです。

そこから数年マイルスバンドで活動しますがジャック・ディジョネットがマイルスバンドを離れた直後にキースもバンドを離れることを決意しました。

キースとしてはジャックがバンドのクリエイティビティを上げていたしドラマーが変わってからはバンドの自由さがなくなってキースも辞めたくなったそうです。

それからは自身のバンドやピアノトリオ、ソロピアノに力を入れるようになっていきとある有名プロデューサーの声かけもあり、ECMレーベルからたくさんのリーダーアルバムを出すこととなっていきました。

そのためECMレコードといえばキース・ジャレットのイメージが強いですよね。「The Kelon Concert」や「Standards」などキース独自の世界観で多くの人を魅了していきます。

縛りのない演奏スタイル

キースのピアノの特徴といえばリックがないのが特徴です。

リックとは手癖や自身が得意とするフレーズのこと。通常、このリックを曲の中でうまく駆使することによってプレイヤーのアイデンティティが出てきます。

マニアックな人は誰が演奏しているのかリックを聞いただけで言い当てることもできるくらいです。

そんなリック。キースにはほぼありません。

水のように滑らかに、そしてそのときのバンドの音に的確に自然に馴染むように演奏できるのがキース・ジャレットの凄さです。

リックがないとはいえジャズのフレーズはたくさん持っていて誰からインスパイアされているのかわかるフレーズも多くあります。

多くのレジェンドたちに敬意を払いながら自分の音でクリエイティブな音楽を創っていく無限の可能性を追求しているとても稀なプレイヤーですね。

ただ一番特徴的で賛否がありそうなのは声。演奏中うなっていたり叫んだりするのでレコーディングでは彼の声を全部マイクで拾っています。

その声が一度気になると演奏の内容がなかなか入ってこないです。。

慣れればその唸り声も含めてキースの演奏に聞こえてきます。ただ実際のコンサートホールではその唸り声は全く聞こえませんでした。

一度ピアノトリオをカーネギーホールに観に行ってきましたが動きだけは激しく声が全く聞こえず逆に物足りなさを感じてしまいました。

私は唸り声込みでキースの演奏と捉えていますが、この声が気になる人と気にならない人と別れますね。

ピアノトリオ

キースといえばゲイリー・ピーコック(Bass)ジャック・ディジョネット(Drums)とのトリオが一番知られていると思います。

このピアノトリオで20枚を超えるアルバムを制作していてほぼジャズのスタンダードナンバーを演奏しています。

ジャズを演奏するプレイヤーなら誰でも知っている曲ばかり。

しかしそれぞれの細かなクオリティがとてつもなく高い。

全員の瞬発力が速く一瞬にしてどんどん展開されている音楽に驚愕します。

ゲイリーの滑らかで歌うようなラインにディジョネットも歌うようなコンピングとフィルでサウンドを鮮やかにしていくのでキースが弾かない部分も音楽が絶えず動いていきます。

キースがそのリズム隊の上で演奏すればグンとアクセルがかかり、誰も手がつけられないくらい野生的で狂気的な勢いで音楽が展開されていきます。

ただキースは一流のジャズプレイヤーとしての演奏だけではなく、他のプレイヤーと大きく異なるクラシックの持つ上品さも兼ね備えています。

録音状態にもよりますがマッコイ・タイナーやオスカー・ピーターソンのようなトラディショナルなジャズにルーツを持つ感じとは別物です。

そして、このトリオのセットリストは当日決めているとか。

セッションのようにその日集まって軽くリハしたりしなかったりして本番を迎えるというのを聞いたことがあります。。

通常は事前に打ち合わせもすればリハも行います。

ぶっつけ本番でこのクオリティの音楽ができてしまうのはまさに神の領域。どれも必聴です。

created by Rinker
UNIVERSAL MUSIC GROUP

ソロピアノもすごい

アンサンブルで演奏するときのエネルギーもすごいですがピアノソロになるとキースの美しい面がかなり際立ってきます。

そしてジャズだけではなくクラシックの作曲家のバッハ、モーツァルト、ヘンデルなどの曲を演奏しているアルバムも多数出しています。

ジャズプレイヤーとは思えないほどクラシカルな音色に上品なピアノタッチ。ジャズピアニストでここまでクラシックに精通しているピアニストは他にいないでしょう。

最後に才能に溢れるキース・ジャレットの個人的おすすめアルバムを3つ紹介したいと思います。

オススメのアルバム

・「BopーBe」

1978年のアルバムでキース・ジャレットのアメリカンカルテットでの演奏が収録されています。

メンバーはデューイ・レッドマン(T.sax)チャーリー・ヘイデン(Bass)ポール・モチアン(Drums)のカルテット。

チャーリーとモチアンの組み合わせもいいですしそこにキースの柔軟さが合わさってかなり自由度の高い演奏が楽しめます。

1曲目の”Mushi Mushi”はサックスのデューイ・レッドマンの曲でオーネットコールマンの曲のような少しフリージャズのエッセンスがある曲から始まります。

このメンバーでこういう曲は抜群にハマっていて、とことん全員が自由に演奏している様子が楽しいです。

3曲目がアルバムのタイトル曲の”Bop-Be”。

”Confirmation”のコードチェンジをモチーフにメロディはキースが作曲したものになっています。

ベースになる部分はビバップのようですが演奏スタイルやヘイデンのラインのリズム、モチアンの独特なグルーヴ感が合わさりビバップとは違う雰囲気を感じます。

かと思えば”Pyramids Moving”はかなり抽象的。打楽器や民族音楽をモチーフにシュールでシリアスな音楽が展開されます。

そこからの”Blackberry Winter”。さっきまでの曲の雰囲気を浄化するようなとても美しい曲でキースのピアノソロが際立ちます。

最後はヘイデンの”Pocket Full of Cherry”。

やはりオーネットと演奏してきたヘイデンの曲は自由度が高くスイングするフリージャズを極めた演奏でプレイヤー全員イキイキと演奏しているのがわかります。

この曲が一番気合入ってるようにも聞こえますね。

ビバップを理解した上でフリーなことに挑戦する4人の演奏がとても楽しいアルバムですし、アルバム全体通して聴いても流れがよく1曲1曲際立ってくるようなセットリストになっています。

キース・ジャレットがトリオ以外で演奏しているリーダーバンドもチェックしてみるとトリオとは違う楽しさが見つかると思います。

・「The Melody At Night, With You」

これはソロピアノのジャズアルバム。

どの曲もバラードで雰囲気がいいです。

ラウンジでもかかってそうですがお昼のゆっくりした時間にかけて外を見ながら聴くのも心地いいでしょう。

リバーブ感が少なめでピアノの生音がしっかり聞こえてきます。

“I Loves You Porggy”の出だしからすでに感動的。このアルバム全体的に最初から最後までこの感じではありますが1曲1曲の解釈がとにかく深い。そして美しい。

個人的チェックポイントは“Something Remember You By”の終わりのコード。

これががかなりミステリアス。どういう和音をのせたらこういうサウンドがするのかとても不思議な響きがしています。

このピアノの演奏で美しさ、切なさを聴き手に与えるキースの内面のエネルギーの素晴らしさにただただ感動するアルバムです。

・「Tokyo ’96」

個人的にピアノトリオではこのアルバムが好きでよく聴くアルバムです。

収録されている曲も”It Could Happen To You”、”Billie’s Bounce”、”I’ll Remember You”など多くのスタンダードが演奏されています。

そしてどれもクリエイティブ。テーマのメロディを少しフェイクしたりしてそのフィエイクしたフレーズをモチーフにアドリブソロを展開していきます。

“It Could Happen To You”の最初のテーマでアウトをするようなメロディを引くとゲイリーがすかさず反応してピアノソロに入る時には不思議な空間が生まれています。

それでもキースは歌うようなソロをメインに弾いていき、後半は少し荒らぶりながらも歌が崩れないようにソロを展開していきます。

“Never Let Me Go”のベースソロはとにかく美しい。楽器の音色も素晴らしく高音のフレーズもこっちの心に触れてくるような演奏をします。

“Billie’s Bounce”ではジャック・のアイデアの展開が天才的。

テーマの最後のメロディのリズムをピアノソロ中も4コーラスに渡り同じリズムを繰り返し演奏します。

このアイデアを続けようと思うだけでもかなり奇抜ですし、続ければ続けるほどみんなが何が起こるか注目しているので次のフレーズに移る時には大きな意味が必要になってきます。

それもちゃんと適切なタイミングでキースがアイデアを拾ってくれて音楽的に解決して次に繋いでいくのでこのトリオのインタープレイも見事です。

ここでのジャックのドラムソロはフリーで展開されていきますが歌心あるフレーズと民族的なリズミックな要素が混ざったソロで面白い演奏になっています。

最後はテンポをを出していきながらテーマのメロディをなぞった演奏でまとめてラストテーマに入ります。

このまとめかたもパッと聴いた感じわかりやすくはないですが、テーマのメロディをどこから演奏しているのかを何度も聴くと切り替わりが聞こえてきます。

同じく”I’ll Remember April”ではジャックのフリーソロから始まります。

ジャックが少しラテンのリズムを出した瞬間からキースがラテンのリズムを弾き始め、ゲイリーも曲のパターンではなくペダルポイントで原曲とは違う雰囲気へ連れていきます。

このテーマが始まる前から我々が知っているI’ll Remeber April”とは違う感じが聴けるんだと思うとワクワクしますね。

エンディングもラテンのリズムに乗せてライオンキングのようなメロディも出てきたり明るくハッピーな演奏が楽しめます。

スタンダードで知っている曲のはずなのにスリリングで先が読めない演奏が楽しめるはキース・ジャレットトリオだけでしょう。クリエイティブな演奏を堪能したい方はオススメです。

現在のキース・ジャレット

2026年5月の現在キース・ジャレットはまだ存命ですが2018年に脳の病気で左手がうまく使えなくなってしまい現役を引退しました。

その後ゲイリー・ピーコックが2020年に亡くなってしまい昔からの盟友であるジャック・ディジョネットも2025年にこの世を去ってしまいました。

もうこのピアノトリオの生演奏は聴けませんがCDや録音でキースのトリオの凄さがかなり伝わると思います。

私たちができるのはこの素晴らしいピアニストが世の中にいたってことを多くの人に知ってもらうことが今後世の中にジャズを残していくのに大事なことではないでしょうか。

ぜひキース・ジャレットを聴いてこの良さを周りの人にどんどん伝えてください。



ABOUTこの記事をかいた人

アバター画像

野澤宏信 1987年生。福岡県出身。12歳からドラムを始める。2006年洗足学園音楽大学ジャズコースに入学後ドラムを大坂昌彦氏、池長一美氏に師事。在学中には都内、横浜を中心に演奏活動を広げる。 卒業後は拠点をニューヨークに移し、2011年に奨学金を受けニュースクールに入学。NY市内で演奏活動を行う他、Linton Smith QuartetでスイスのBern Jazz Festivalに参加するなどして活動の幅を広げる。 NYではドラムを3年間Kendrick Scott, Carl Allenに師事。アンザンブルをMike Moreno, Danny Grissett, Will Vinson, John Ellis, Doug WeissそしてJohn ColtraneやWayne Shorterを支えたベーシストReggie Workmanのもとで学び2013年にニュースクールを卒業。 ファーストアルバム『Bright Moment Of Life』のレコーディングを行い、Undercurrent Music Labelからリリースする。 2014年ニューヨークの活動を経て東京に活動を移す。現在洗足学園音楽大学の公認インストラクター兼洗足学園付属音楽教室の講師を勤める。